高木豊が注目する若手の左バッター

パ・リーグ

セ・リーグ編:「20歳であんなバッティングができるのか」とゾッとした選手も>>)

 大洋(現DeNA)時代、左打者として8度の「シーズン打率3割」をマークした高木豊氏に聞く、注目の若手左バッター(2年目以上)。パ・リーグ編では6年目の選手も含め、高木氏が飛躍を期待する選手について語った。

「将来の首位打者候補」高木豊が期待する若手の左バッター3人 ...の画像はこちら >>

【将来の首位打者候補】

――パ・リーグで注目している若手の左バッターは?

高木豊(以下:高木) 西武の蛭間拓哉(2年目)ですね。ミート力がありますし、際どいボールをファウルにしたりして最後まで粘ることができます。それと、ボールをある程度引きつけて、打球をセンターから左に持っていく技術と打球はすばらしいです。

 ただ、ランナーが一塁にいる時や、長打を打ってほしい時などに引っ張ることがあまりできていません。どんなにいいバッターでも、ボールを強く引っ張れない、ホームランがあまりないなら、ピッチャーからすると怖くないんです。

 現状では"嫌らしいバッター"にはなるかもしれませんが、"怖いバッター"にはなれません。蛭間が引っ張れているボールは半速球や変化球が多いのですが、速いボールを引っ張れなければ、今のプロ野球では生きていけません。

それができるようになると、もうひと段階上のバッターになれそうです。

――ルーキーイヤーだった昨年、8月以降は上位打線で起用される試合もあり、さまざまな経験を積みました。今年はそれが活かされるといいですね。

高木 何か変わってくれればいいですね。1年目はプロのスピードに慣れるのに苦労したでしょう。ましてや、今のパ・リーグには力のあるピッチャーが多いですから。

それに対応するだけで精一杯だったと思いますが、自分が取り組まなければいけない課題を肌で感じたはずです。

 今年はその経験を活かし、引っ張るバッティングができるようになったら、かなり期待できますよ。ミート力やバットコントロールはすばらしいので、近い将来の首位打者候補のひとりだと見ています。

【ロッテの藤原がモデルチェンジ】

――ほかに注目しているバッターは?

高木 ずっと注目しているのですが、「殻を破ってほしい」という意味でロッテの藤原恭大(6年目)を挙げておきます(3月10日のソフトバンクとのオープン戦で、右膝に自打球を当てて骨折。3カ月程度離脱する見込みと発表)。

 今年はタイミングの取り方を変えていますね。

以前は右足を上げてタイミングを取っていましたが、今は体の反動を使って打つのではなく、足を上げない「ヒールダウン打法」でミートに徹するタイミングの取り方に変えています。

 ホームランは彼の魅力のひとつではあると思いますが、それをある程度犠牲にしてでもミートに徹しようとしているのかなと。それでも、タイミングよく振って当たればホームランにはなると思いますが、アベレージ優先で「コンパクトにミートしていこう」という意識が見えます。足を上げていた時は体が前に突っ込み気味になっていましたが、その部分も解消されていました。

――オフのトレーニングの成果か、体がひと回り大きくなったように見えます。

高木 今までは線が細かったですが、プロでやっていくための体ができてきた、ということでしょう。

あとは、彼がどんなバッターを目指すのか。甲子園で優勝した時は大阪桐蔭で4番を打っていて、ホームランを相当打っていた。そういったホームランの魅力に惑わされず、自分がプロでやっていくためのバッティングスタイルを確立できるかどうかが重要です。

 バッターのタイプとしては、ホームランは10本から15本で打率は3割、出塁率は.370以上の選手を目指してほしいですね。出塁すれば足も使えますし、藤原が1番にしっかり座ってくれたらロッテとしては大きいです。今年のタイミングの取り方は、そういうバッターになっていくためのモデルチェンジだと思っています。

――藤原選手のバッティングの長所は?

高木 全身のバネが効いているというか......つまり瞬発力ですよね。ボールを捉えた時の打球速度はすばらしい。守備の際の球際の強さなどにも関わることですが、瞬発力は持って生まれたいいものを持っています。

 その藤原と同じ6年目の、日本ハムのキャッチャー・田宮裕涼にも注目しています。

――どういった点に注目していますか?

高木 昨年の終盤に一軍に昇格し、打席数は少なかったですがホームランを2本打つなど(31打数8安打2本塁打)、バッティングに非凡なものを感じます。体は大きくないのですが(175cm・79kg)、馬力がありますよね。

 ただ、ポジションがキャッチャーなので、なかなか出場機会を得ることが難しいんですよ。(アリエル・)マルティネスや伏見寅威、清水優心らがいて、ルーキーの進藤勇也も入ってきた。かなりの激戦ですよね。ただ、昨年は1試合で盗塁を3度阻止したり、とにかく肩が強いのも印象的でした。リード面など経験で劣る分、バッティングや強肩といったストロングポイントでアピールしていきたいところです。

――バッティングで優れている部分は?

高木 体を回転させて打つのではなく、体を"止めて"打つことができているんです。体の右側が早く開いてしまわないように我慢できているので、バットのヘッドが走りますし、力強い打球が打てています。

 しっかり自分の形を作って打つのはなかなか難しいことなのですが、彼はそれができています。キャッチャーとしてのポテンシャルもそうですが、バッティング面だけを見ても、大化けの可能性もある選手だと思います。まずは自身初の開幕一軍入りを果たし、少ないチャンスをモノにしていってほしいです。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。