山本由伸(25歳)がロサンゼルス・ドジャースと交わした12年3億2500万ドル(約463億円/2024年~2035年)の契約は、その前にドジャースに入団した二刀流の大谷翔平を除くと、投手では史上最高の総額だ。ゲリット・コール(ニューヨーク・ヤンキース)の9年3億2400万ドル(当時約352億円/2020年~2028年)を上回った。

 大型契約だけが理由ではないものの、当然、今年のナ・リーグの新人王は山本が筆頭候補だろう。ただ、山本だけでなく、ナ・リーグにはこれまでアジアのプロ野球で活躍してきた「ルーキー」が数多く揃う。

山本由伸のライバルは今永昇太だけじゃない ナ・リーグ新人王争...の画像はこちら >>
 日本からは、山本、今永昇太(シカゴ・カブス/30歳)、松井裕樹(サンディエゴ・パドレス/28歳)の3人。韓国からは、義兄弟のふたり、イ・ジョンフ(李政厚/サンフランシスコ・ジャイアンツ/25歳)とコ・ウソク(高佑錫/パドレス/25歳)がメジャーデビューする。

 ほかのプロリーグのキャリアを問わず、メジャーリーグの登録日数(9月以降を除く)が45日以下、打数が130以下、イニングが50以下であれば、新人王の資格を持つ。すでにメジャーデビューしていても、これは同じだ。

昨年新人王のコービン・キャロル(アリゾナ・ダイヤモンドバックス)とガナー・ヘンダーソン(ボルチモア・オリオールズ)は、ふたりとも一昨年の夏にメジャーデビューした。

 リリーフ投手の松井とコはさておき、新人王レースにおいて、今永とイは山本の強力なライバルになり得る。今永もローテーション入りは間違いない。イは「1番・センター」としてプレーする予定だ。

 この3人のなかで、イには少し有利な点がある。

 山本と今永の登板間隔は、通常の中4日ではなく、中5日が基本の可能性が高い。

その場合、登板とイニングは中4日よりも少なくなる。一方、野手のイに関しては、今のところそういった出場減少の要素はない。投手と野手のパフォーマンスとスタッツを比べるのは難しいが、「量」の違いが新人王の行方を左右することもあり得る。

【プロスペクトランキング2位の外野手20歳】

 ちなみに過去10年に新人王を受賞した20人の内訳は、野手16人と先発投手ふたりに、リリーフ投手と二刀流選手がひとりずつだ。

 先発投手は、2014年のジェイコブ・デグロム(当時ニューヨーク・メッツ/現テキサス・レンジャーズ)と2016年のマイケル・フルマー(当時デトロイト・タイガース/現ボストン・レッドソックス)。ふたりとも規定投球回には届かなかったが、どちらのシーズンも同じリーグに400打席以上でOPS.740を超えたルーキーはいなかった。リリーフ投手のデビン・ウィリアムズ(ミルウォーキー・ブルワーズ)が受賞した2020年は、1チーム60試合の短縮シーズンだった。

 もちろん、新人王レースで山本のライバルとなるルーキーは、日本や韓国から移った選手にかぎらない。なかでも評価が最も高いのは、20歳のジャクソン・チョーリオ(ブルワーズ)だ。『ベースボール・アメリカ』と『MLB.com』がともにプロスペクト・トップ100の2位に挙げている。いずれのランキングでも、その上にいるのはア・リーグのジャクソン・ホリデイ(オリオールズ/20歳)なので、ナ・リーグではチョーリオがトップということになる。

 チョーリオはファイブツールを備えた外野手で、センターを守る予定だ。2年前の夏に『スペクトラム・ニューズ』のマイク・ウッズが書いた記事によると、当時チョーリオが在籍していたマイナーリーグの監督は「アンドリュー・ジョーンズを彷彿させる」と語っていたという。

ジョーンズは、2013年~2014年に東北楽天ゴールデンイーグルスでプレーする前に、メジャーリーグで434本のホームランを打って152盗塁を決め、ゴールドグラブを10度受賞した選手。

 昨年12月、チョーリオはブルワーズと8年8200万ドル(約122億円/2024年~2031年)の延長契約を交わした。山本のようなほかのプロリーグでプレーしてきた選手を除くと、これはメジャーデビュー前の選手が得た契約では史上最高の総額だ。

【ドラフト1位100マイルボーラーの昇格は来年?】

 チョーリオと同様に、20歳のジャクソン・メリル(パドレス)もセンターとしてメジャーデビューしそうだ。本来は遊撃手だが、パドレスは外野手が不足している。同じ外野でも守備の負担が少ないレフトやライトではない点に、その身体能力の高さがうかがえる。

 マイナーリーグでセンターを守ってきたピート・クロウ=アームストロング(カブス/21歳)は、守備に限ればチョーリオとメリルをしのぐ。カブスがコディ・ベリンジャーと再契約を交わしたこともあり、3Aで開幕を迎えるものの、そこで打ちまくれば早期昇格もある。その場合、ベリンジャーはセンターから一塁へ回る。

 昨年のドラフト全体1位、100マイルボーラーのポール・スキーンズ(ピッツバーグ・パイレーツ/21歳)もマイナーリーグでプレーする。こちらのメジャーデビューは来年以降かもしれない。今春の登板でスキーンズは102マイル(約164キロ)を記録した。

ただ、パイレーツの再建はまだ完了していないので、メジャーデビューを急がせることはないだろう。

 スキーンズと同じ先発投手では、イのチームメイトであるカイル・ハリソン(22歳)が期待大だ。メジャーリーグでは昨年8月以降の先発7登板で防御率4.15ながら、最後の登板はロサンゼルス・ドジャース戦で5イニングを投げて無安打に封じた。フォーシーム、スライダー(スラーブ)、チェンジアップの3球種に今年はカッターを加え、フルシーズン1年目に臨む。

 一方、早くも今年の新人王レースから脱落した選手もいる。昨年の夏にメジャーデビューし、今年は三塁のレギュラーと目されていたノエルビ・マルテ(シンシナティ・レッズ/22歳)がそうだ。今月初旬、薬物検査でボルデノンの陽性反応が出たとして、開幕から80試合の出場停止を科された。

 なお、山本が新人王を受賞すると、日本人選手では2018年の大谷(当時ロサンゼルス・エンゼルス)以来5人目、ドジャースでは2017年のコディ・ベリンジャー(現カブス)以来19人目となる。ナ・リーグで受賞したただひとりの日本人選手とドジャースで最後に受賞した投手は、どちらも1995年の野茂英雄だ。