今季、巨人で1年目の指揮を執る阿部慎之助監督を、一軍打撃コーチとして支える矢野謙次氏。現役時代は巨人や日本ハムで活躍し、引退後に日本ハムでコーチやスカウトなどを経験したのち、今季8年ぶりに巨人に"復帰"した。

 昨年のリーグ4位からの巻き返しへ。矢野コーチに、巨人の若手や阿部監督の指導の様子などについて聞いた。

阿部慎之助監督が自らスイングして「お手本」に 矢野謙次コーチ...の画像はこちら >>

【開幕一軍のルーキーに伝えたこと】

―― 一軍打撃コーチとして巨人に復帰する形となりましたが、就任からここまでを振り返っていかがですか?

「昨年の秋季キャンプから参加させてもらいましたが、その時から取り組んでいたことが今年の宮崎や沖縄キャンプ、オープン戦で形になっていったと思います。それはヒットの本数といった数字でなく、内容としてよくなっているという印象ですね」

――楽しみな若手の選手が多いですが、どういった指導をされているのでしょうか。

「阿部監督が提言している"下半身を使ってバットを振る"ということを徹底しています。体の使い方として最も注目しているポイントは『足をしっかり使うこと』。あとは、狙い球の待ち方についてですね。

選手によってスイングの特徴も違うので、それに合わせるように個々で話し合いをしながら進めています」

――今季の巨人は3人のルーキーが開幕一軍に名を連ねました。野手は佐々木俊輔選手と泉口友汰選手ですが、ふたりの印象はいかがですか?

「昨年、私は日本ハムのスカウト担当だったので、社会人野球でのふたりの活躍を東京ドームでも見ていました。佐々木は身体能力が高くてバネがあり、泉口は思いきりがいいと感じていましたね。

 ふたりとも大学、社会人野球を経験しているので、『まずはどこまでプロで通用するのか、行けるところまでやってほしい』と言っています。そうして壁にぶつかってから、相談しながら課題を克服できるようにやっていこうと。

 佐々木に関しては宮崎キャンプの時に、阿部監督から『ショートや三遊間の方向に強いゴロを打てるようなスイング』を求められていましたが、現段階では私は特に何も教えていません。

開幕一軍は、ふたりが試行錯誤して自ら勝ち取ったものです」

――昨季の途中からショートを担っている、2年目の門脇誠選手についてはどう見ていますか?

「オープン戦では数字は残せませんでしたが、彼は自分で考えて工夫しながら練習や実戦に臨める選手なので、さまざまなことにトライしていたんだと思います。

 守備が特長と言われることが多いですが、試合における状況判断も武器だと思います。その判断どおりにプレーできたかどうかは別として、自分で状況を把握し、それに合ったプレーを自分で考えられるところがすばらしい。まだ大卒2年目の選手では、なかなかできることではありません」

――岡本和真選手や大城卓三選手など、中堅選手についてはいかがですか?

「彼らは実績があるので、"体の使い方"について話をするくらいです。『体をこう使えば、こんなパフォーマンスもできる』といった、プレーの向上の可能性についてですね。そういった話をすれば、彼らはこれまでの経験とミックスして、自分の形を作っていくことができますから。

 そのふたりも、まだまだ伸びしろはあります。"こんなものではない"というところを見せてほしいですね」

――長野久義坂本勇人など、ベテラン選手とはどんなコミュニケーションを取っていますか?

「技術面などについて、あらためて何かを伝える必要がない選手たちですから、コンディションを考慮して練習量を提案するくらいでしょうか。何か相談された時に、それを解決するための準備は整えておきますが、基本は自分たちのやり方に任せています」

【阿部監督は選手のお手本】

――阿部監督の選手との接し方はいかがですか?

「阿部監督が自らスイングを実践して見せることもありますが、選手にとってすべてが勉強になるお手本ですよね。練習では、スイングのスピードや軌道などを計測する機器を使うのですが、各選手の課題に合わせて『こういった体の使い方をすれば、この数値がよくなる』と指導してくれるわけですから。

 私が阿部監督と話をする時は、各選手がやっていること、その成果の"答え合わせ"が多いでしょうか。常に選手のことを見ている監督ですが、各選手がよりよい方向に進めるようにしっかり共有しています」

――矢野コーチは2018年に引退後、日本ハムでコーチやスカウトなどを経験しましたが、その経験は生かされていますか?

「もちろん生かされています。

引退後、特命コーチとしてテキサス・レンジャーズにも派遣していただきましたし、その後は一軍、二軍でもコーチを務めさせていただきました。

 そのなかで選手とのコミュニケーションの取り方を学ぶことができ、昨年はスカウトも経験させてもらって、スカウトのみなさんがどんな視点で、どんな思い入れがあって選手を獲得しているのかを知ることができました。その大変さを身に染みて感じ、『スカウトの方たちのためにも、預かった選手を成長させなくてはいけない』という使命感が強くなりましたね」

――ちなみに日本ハムの現役時代には、大谷翔平選手とも一緒にプレーされていましたね。当時はどんな印象でしたか?

「それはもう、半端じゃなかったです(笑)。あの大きな体を上手にコントロールできますし、柔らかさ、パワー、野球に対する考え方や取り組む姿勢といったところまで驚きの連続でした。あれだけ野球にすべてを注いでいる選手を見られたことも、いい経験です」

――そこで見た大谷選手のメソッドなどを、コーチとして選手に伝えることもありますか?

「聞かれたら答えることはありますが、どの選手も大谷選手ではないですから。

その選手が自分の特徴に合わせた練習法を考え、実践していけば問題ないと思います。私もそれぞれのよさを把握し、成長へのアプローチを提案することを意識しています」

――最後に、矢野コーチが思い描く今季の目標を聞かせてください。

「チームとして目指すのは、もちろん日本一になって、阿部監督を胴上げすることです。そして、会心の『最高でーす!』が聞きたいですね。個人としては、"常に学ぶ"こと。選手と一緒にになって学びながら、チームを向上させていけたらと思っています。

 長いシーズンのなかで調子を落とす選手や、チームがなかなか勝てないということもあるでしょう。その原因をしっかり分析し、改善できるように取り組んでいきたいです。その改善策がうまくいかなくても、さらなる改善策を考えていけば成長につながる。そういったことを繰り返していきたいですね」

【プロフィール】
◆矢野謙次(やの・けんじ)

1980年9月21日、東京都生まれ。国学院久我山高から国学院大に進み、2002年ドラフト6巡目で巨人に入団。勝負強い打撃で活躍し、2013年には球団新となるシーズン代打安打19本をマークした。2015年6月にトレードで日本ハムに移籍し、2018年限りで現役引退。引退後は日本ハムの特命コーチとしてテキサス・レンジャーズにコーチ留学。その後は日本ハムの一軍や二軍のコーチ、スカウトを経験。昨年10月に巨人の一軍打撃コーチに就任することが発表された。