阪神との開幕戦を2勝1敗で勝ち越し、「今年こそは!」の期待を抱かせた阿部慎之助新監督率いる巨人。ところがその後、2カード連続の負け越し。

はたして、今年の巨人は強いのか、弱いのか。阿部新監督の戦いは 、巨人の大御所OBである広岡達朗の目にどう映ったのか。

巨人改革へ、広岡達朗が阿部慎之助監督に伝えたいこと 「ベテラ...の画像はこちら >>

【オドーアの退団で打線に歪み】

「開幕3連戦で阪神に2勝1敗と勝ち越したからといって、巨人が強いというのがまだ早すぎる。5球団すべてと戦ってからじゃないと何も見えんよ」

 そして広岡は、「強くなったというより、今までの巨人が弱すぎたんだ」と語気を強めた。

 阪神との3連戦を振り返ると、1、2戦目は投手陣が好投し2試合連続完封勝ち。3戦目も終盤に失点し0対5で敗れたが、先発の高橋礼は試合をつくった。打撃陣では、佐々木俊輔、門脇誠の1、2番コンビを筆頭に若手の萩尾匡也、浅野翔吾を積極的に起用するなど、これまでとひと味違った戦いを見せた。

野球の本質はピッチャーの整備だ。どんなにホームランバッターを並べようが、相手投手が最高のピッチングをすれば簡単に抑えられてしまう。点を取ることも大事だが、点を与えないことはもっと大事になる。さらに言うと、そうした投手陣をつくり上げ、戦力を保つことが何より大切になる。そういう意味で、1、2戦でセットアッパーとして起用したドラフト1位の西舘(勇陽)を第3戦はベンチに入れなかった。この点については評価したいが、問題はどこまで我慢できるか。

せめてオールスター明けまでは、その姿勢でやってもらいたいものだ」

 だが、打線の話になると、広岡の表情が曇る。

「問題は打線だ。済んだことを言ってもしょうがないが、開幕前に新外国人(ルーグネッド・オドーア)が突然退団したことの歪みが出ている。本来なら、秋広(優人)あたりが5番に座れば、3番・坂本(勇人)、4番・岡本(和真)と組めるのだが、今は4番の岡本、5番の坂本にどうつなげられるかの打線だ。阪神との3連戦を見ても、3番には相手投手との相性により梶谷(隆幸)、長野(久義)を起用。これだったら今までの原(辰徳)野球と一緒じゃないか。

データを重視するのはわかるが、ベテランに頼る野球をやっていたらいつまでたっても変革はできない。そう思っていたら、中日戦では浅野を3番に持ってきた。それだけ苦心している証拠なんだろうけど......」

 広岡が言うには、1、2番に俊足巧打のバッターを並べるのはいいとして、3番からのクリーンアップが固定できないことに不安を感じるという。ただ阿部監督が、これまでのイメージを変えようとしているのは手に取るようにわかる。

菅野智之を開幕投手にすべきだった】

 そして広岡は、開幕投手についてこう持論を述べる。

「オレが監督だったら、開幕投手は菅野(智之)にしていた。

いや、菅野を開幕で使うべきだった。コイツでいくというより、チームの士気を高めるというか、コイツがいけばみんなが黙って従うというヤツでないと開幕投手に値しない。菅野に早い段階で『開幕はおまえだから』と言って調整させればいい。それでいいピッチングをすれば御の字だし、KOされれば『うしろ(リリーフ)に回ってくれないか』と言うことだってできる。そうすれば菅野も納得するはず。求心力のある投手は、そうやって配慮するんだ。
これがチームを改革する手順なのだ」

 さらにこうアドバイスを送った。

「阿部よ、巨人は勝つことを義務づけられていることは十分わかる。しかし、今の巨人は確実に過渡期を迎えている。チームを変えたい気持ちがあるなら、まずベテラン連中のプライドを傷つけずに処遇を考えろ。決して、ベテランを切り捨てろと言っているんじゃない。夏場からシーズン終盤にかけて、ベテランの力が必要になる時期が必ずある。

腐らずに、彼らのモチベーションを保たせつつ、若手を適材適所で起用して抜擢していけ。ただ浅野の3番起用には驚いたが、それくらいやらないと今の巨人には起爆剤にならないかもしれないな」

 伝統ある巨人だからこそ、常に優勝を義務づけられている。広岡の鋭い言葉のなかには、阿部監督を思いやる気持ちが含まれている。

「また昔話かと思われるかもしれないが、聞いてほしい。我々の現役時代の巨人といえば、相手チームはユニフォームを見ただけで『勝てるわけがない』と戦意喪失しているのがわかり、ゲーム前から優位に立っていた。それは巨人の伝統と教育の賜物だった。巨人の監督を務めるには、やはりそこを目指してほしいのだ」

 そして最後に、広岡はありったけの思いを込めて言った。

「目先の勝利にこだわるな。勝つよりも大事なことは、負けゲームをいかにつくれるかだ。初めての監督としては荷が重いかもしれないが、阿部よ、これが常勝・巨人の監督ということだ」