ヴィッセル神戸
山川哲史インタビュー(後編)
「(酒井)高徳さんの言葉にはいつも、"よくなってほしい"という愛情をすごく感じるというか。だから、どれだけ厳しいことを言われていても、すんなり入ってくるし、チームにもすごく響く。それはきっと、高徳さんの、普段からの振る舞いや人間性があってこそ。常に相手を慮る気持ちを持って接してくれるのもわかりますしね。そういった、人としての部分は、自分がキャプテンを預かるうえでもすごく参考にしているところ。
言葉ってすごく難しくて、言い方、伝え方次第で相手の受け取り方も全然違ってくるというか。本当にみんなが勝つことに執着して戦っているからこそ、時に自分のひと言が反感を買ってしまうことにもなりかねない。それを踏まえても、これまで以上に普段からの振る舞い、言動には責任を持たなければいけないと思っていますし、ピッチでも説得力のあるプレーをしていかなくちゃいけないと思っています」
昨年以上の自分を求めるうえで心掛けているのが、"チャレンジ"だ。昨年の後半戦は特に、僅差の戦いが続くプレッシャーのなかで安パイなプレーに終始してしまった反省からも、今年はどんな状況に置かれても、ポジティブな選択をしていきたいと胸に誓う。
「肩書きに関係なく、まずはチームの勝利に貢献するプレーをするのが、選手としての使命。
でもそういうところで、ひとりで剥がせたり、パスで相手をひとり置いていければ、局面はかなり変わっていくはずなので。"2連覇"によってチームとしても相当マークされるし、対策を講じられるはずですけど、今年はよりチャレンジの選択をすることで、チームの士気を高めていきたい。その成功体験を繰り返すことで、自信をより揺るぎないものにしていきたいと思います」
また、自分の"弱さ"を自覚していることも、力にしたいと言葉を続けた。
「昨年の最終節もしかり、僕は決してメンタルが強いわけではなく......いつも自信満々でもないし、どちらかというと、いいことより悪いことを想像してしまうことが多いんです(苦笑)。でも、その弱さを自覚しているから、強くいようともするし、準備もするし、最善の状態でピッチに立とうともする。それが、昨年も大きなケガなくシーズンを通して試合に出続けられたことにも繋がったと思うので。
だからこそ、これからもこの自分を受け入れ、うまくつき合っていこうと思っているし、緊張やプレッシャーを反骨心とか、『やってやる』という気持ちに変えて戦っていこうと思っています」
クラブ創設30年目、阪神・淡路大震災からも30年を数えるシーズンに、ともに復興の歴史を歩んできたたくさんのファン、サポーターとより大きな歓喜をつかむためにも。
「僕は阪神・淡路大震災後に生まれた世代ですが、ヴィッセルが復興とともに歩んできたクラブだということは、ジュニアユース時代からずっと意識してきたし、今も自分の核に据えています。毎年1月17日が近づくと、映像を通して記憶している当時のことが蘇ります。
また、2011年の東日本大震災をはじめとする日本で発生した震災を通して、阪神・淡路大震災のことを考えることもあります。
だからこそ、こうしてすばらしい環境でサッカーをさせてもらっていることに感謝しながら、ヴィッセルのエンブレムをつけてプレーする責任をしっかり担っていきたいし、いいニュースを届け続けられるクラブでありたいとも思う。今シーズンもできるだけ多くのタイトルを獲得することで、30年という長い歴史を支えてくれた人たちに、今も応援し、支えてくれているたくさんの人たちにいいニュースを届けたいと思います」
百戦錬磨の選手が集うチャンピオンチームに誕生した若きリーダーは、弱い自分を知り、受け入れることで、強く、逞しく、先頭に立つ。
(おわり)
山川哲史(やまかわ・てつし)
1997年10月1日生まれ。兵庫県出身。中学、高校とヴィッセル神戸のアカデミーに在籍し、筑波大学に進学。2020年に卒業後、ヴィッセル入り。入団当初はサイドバックを任されるが、2023シーズンからは本職のセンターバックで起用される。持ち前の高さと強さを生かしてレギュラーに定着。今季からキャプテンを務める。