中国で開催されているU-20アジアカップ。U-20日本代表は準々決勝のイラン戦をPK戦の末に勝利。

ベスト4進出を決め、U-20W杯(9~10月/チリ)の出場権を手にした。現地取材のライターがレポートする。

サッカーU-20日本代表は順調か? この年代がアジアで苦戦を...の画像はこちら >>

【PK戦でイランに勝利】

 久しぶりに痺れるような国際試合だった。

 U-20アジアカップに出場しているU-20日本代表は準々決勝で中東の古豪イランと対戦。試合開始からわずか5分で失点という最悪のスタートとなった。

 だが、日本の選手たちは慌てることなく、まず短くパスをつないでボール保持の時間を長くしてリズムを取り戻した。そうなると、日本選手のパス技術が生きてくる。ボールを受ける際の体の使い方やパスの角度のつけ方がいいので、イラン選手はプレスをかけることができなくなってしまった。

 また、リズムをつかんでからは1対1でも互角以上に戦えた。センターバックの市原吏音(RB大宮アルディージャ)や喜多壱也(京都サンガF.C.)は空中戦で優位に立ち、序盤こそサイドバックの髙橋仁胡(セレッソ大阪)の頭上が狙われたものの、時間の経過とともに髙橋も競り負けなくなった。

 そして、30分にはボールロストから失点のきっかけを作ってしまった小倉幸成(法政大)がミドルシュートを突き刺して同点とする。

 その後は、日本がイランを圧倒。90分終了時点でのシュート数は日本の18本に対してイランはわずか6本。

枠内シュートも8本対1本だった。

 しかし、イランの中央の守備を前に日本は決勝点を奪えず、勝負はPK戦に持ち込まれたが、イランの最初のふたりが失敗して日本が勝利した。

 立ち上がりの失点は、これまでにも各カテゴリーの日本代表が何度も経験してきたパターンだった。パワーのある相手が開始直後から全力で挑んでくると受けきれないのだ。

 逆に、延長に入ってからも何度か危ない場面を作られた。休養日がイランより少ない日本選手たちは、残り時間が少なくなると疲労の影響でパス精度が落ちた。そこで、イランが息を吹き返して再活性化したのだ。

 パワーのある相手に対しては 序盤と最終盤が警戒すべき時間帯だ。この試合を教訓としてもらいたい。

 ただ、イランのようなパワーのある相手にも、ボールを支配することによって多くの得点機を作れたのは大きな収穫だ。日本の選手たちは、グループリーグの3試合で噴出した課題を少しずつクリアしながらひとつのチームを作り上げた。

【選手たちはまだ経験の少ない「素材」】

 森保一監督率いるA代表はW杯最終予選で快進撃を続け、3月には予選突破が確定するはずだ。アジアでは無敵だ。

しかし、年代別代表では日本が絶対的優位とは言えず、U-20W杯出場権を逃がしたことはこれまで何度もあった。

 A代表の選手たちはアジア最高レベルの国内リーグ(Jリーグ)で揉まれ、さらに欧州クラブで経験を積んでレベルを上げる。

 アジア各国のなかで日本は欧州組が圧倒的に多い。たとえば、サウジアラビアなどはほぼ全員が国内組だ。それが、日本と他国との差として表われる。

 だが、U-20日本代表で海外組は道脇豊(ベフェレン)とニック・シュミット(ザンクトパウリU-19)のふたりだけ。それにスペイン育ちの髙橋もいるが、他の選手は海外経験がまだない。Jリーグ組でも、中島洋太朗(サンフレッチェ広島)のようにトップでレギュラーの座を勝ち取っている選手は少ない。まだ「素材」なのだ。

 もちろん、日本は育成面で成功を収めており(そうでなければ、これほど多くの選手が欧州で活躍できるはずはない)、「素材」段階でもアジアのトップにはいる。イラン戦で見せたパス回しの巧みさは大会屈指だった。

 だが、どこの国にもすばらしい個人能力を持つ選手はいる。

 苦戦を強いられたシリアのアタッカーたちは、先制ゴールを決めたモハンマド・アルムスタファのように、ひとり、ふたりだけでも日本のプレスをかいくぐってゴール前までボールを運ぶ技術と、グループ戦術を持っていた。

 他の国にも、腰の低いパワフルなドリブルを仕掛けてくるイラクのカラル・ジャファールとか、スピードあるドリブル突破が持ち味の中国の王鈺棟といった特徴のある選手は多く、日本にはあまりいないタイプもいる。

 Jリーグや欧州リーグでの経験が豊富な選手なら、強力な相手でも止められる。だが、経験の浅い年代別代表では、個人対個人で抑えきるのはかなり厳しい。

 シリア戦を見ていると、どのように相手を追い込んで、どこでボールを奪うのかといった守備面での意識の統一がなかったし、攻撃面でも相手のどこを攻めるのかという狙いが明確でなく、結局、攻守ともに選手個々のアイデア頼りだった。

 どんなカテゴリーであっても、代表チームにはトレーニングの時間は限られているし、一緒に活動する機会も少ない。チーム作りが遅れるのは仕方ない部分もある。

【さまざまなタイプと戦って成長する】

 それでも、U-20日本代表はグループリーグの間に攻撃パターンを増やしていった。3戦目の韓国戦では、中盤での大関友翔(川崎フロンターレ)と佐藤龍之介(ファジアーノ岡山)の関係性がよくなっていたし、左サイドの髙橋と石井久継(湘南ベルマーレ)のポジション取りの多彩さに韓国守備陣は対応しきれなかった。先制ゴールが石井のクロスから生まれたのは偶然ではない。

 そして、イラン戦ではボールを奪ってすぐに前線にくさびを入れるタイミングが改善されるなど、攻撃のバリエーションがさらに増えていた。

 その裏にはスタッフからの指示もあったろうし、選手同士のコミュニケーションもあったのだろう。

苦戦からの反省を糧に、チームの熟度は一試合ごとに上がった。それができるのは、若い選手たちのサッカーIQが高いからに違いない。

 さまざまなタイプの相手と戦って、その経験を生かして成長する。まさに、それこそが年代別代表の活動の目的なのだ。そのためには、シリア戦やイラン戦のようなシビアな戦いをもっと経験したいものだ。

 イラン戦とのPK戦を制したことで日本はU-20W杯出場権を獲得した。世界の舞台では、欧州、南米、アフリカなど、さらに高いレベルの相手との戦いを経験できる。それは、間違いなく彼らの成長につながるはずだ。

 いや、その前にまずはU-20アジアカップでの優勝を目指さなければならない。なにしろ、他のカテゴリーでは数多く優勝を経験しているのに、U-20アジアカップで日本は過去にたった1度しか優勝がないのだ。

 準決勝の対戦相手、オーストラリアは攻撃陣が変幻自在にポジションを変えてくる厄介なチームだ。短い準備期間で、守備戦術を徹底させて戦いたい。

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