現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 来季移籍するのかどうか、急に騒がしくなってきた久保建英だが、地元はどう思っているのか。今回はスペイン紙『アス』およびラジオ局『カデナ・セル』でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、久保の来季去就とセルヒオ・フランスシスコ新監督について言及してもらった。

久保建英は移籍するのか否か レアル・ソシエダ新監督の下では「...の画像はこちら >>

【レアル・ソシエダに残るとは断言できない】

 久保建英が契約を全うし、来シーズンも間違いなくレアル・ソシエダに残ると断言できるものなど誰もいない。しかし、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)は久保と2029年まで契約を結んでいるため、今夏の退団話に終止符を打つ可能性は十分あるだろう。

 日本のファンにとって久保は非常に魅力的な選手だが、ラ・レアルにとってもプレーのみならず、マーケティング的な観点でクラブの戦略的なプロジェクトに必要な選手だ。久保は母国でラ・レアルというブランドを体現する存在として、これまでも可能な限りプロモーションに使われている。クラブの公式Xに日本語版アカウントがあることからも、クラブにおける久保の重要性がうかがえる。

 すべての面から、ラ・レアルは久保の退団を望んでいない。だから移籍に関するいかなる動きも自分たちから進んで起こすつもりはないだろう。しかし、移籍市場で他のクラブがどう動いてくるか、そして久保本人が何を望むかは、クラブの意向とは別の問題となる。

 久保は自身の将来について、「今のところ僕には契約があり、ラ・レアルで続け、ラ・レアルをよくするという考えがあるが、(退任が決定したイマノル・アルグアシル)監督と同じようにこの先何が起こるかはわからない。でも僕には今、契約があるし、ラ・レアルに所属している」とアスレティック・ビルバオとのバスクダービー後に話したが、今夏退団の可能性を完全には否定しなかった。

 久保がラ・レアルのプロジェクトにコミットしているのは疑いようもない。しかし、「退団」という扉を閉ざさずオープンにしていることは、ラ・レアルの周囲に不透明な状況をもたらしている。サポーターの間で「久保は今夏で退団するのではないか」という悲観的な憶測が生まれているのは、欧州カップ戦の出場権獲得を確定できていないチーム状態が原因だ。

 前回、チームが来シーズン、ヨーロッパの大会に出場できなければ久保移籍の可能性が高まると書いたが、この数週間のチーム状況から新たにネガティブな要素が加わり、その可能性が以前より高まったと言わなければならない。それは、シーズン終盤に来てチームの攻撃がうまくいかず、ゴールチャンスを作るのがより難しくなっている状態について、久保がことあるごとにメディアに不満を吐露している点だ。バスクダービー後にはこんなコメントも残した。

「レアル・ソシエダが試合を支配し、チャンスを次々と作っていた頃が少し懐かしい。最近はそんなふうにプレーできていない。昨シーズンまでやシーズン開幕時に比べ、ビルドアップに少し苦しんでいる。適切な言葉かどうかはわからないが、相手に読まれないようにするために、その部分を改善しなければならない」

 攻撃面において、チームの攻撃と久保のプレーがまったく一致していない印象を受けている。久保のイマジネーションとボールを持った時のマジック、このふたつはチームの攻撃においてほぼ唯一と言っていい大きな武器にもかかわらず、うまく噛み合っていないのだ。このネガティブな要素は久保のプレーに悪影響を及ぼし、孤軍奮闘するも以前ほど輝くことができなくなっている。

 実際、バスクダービーでも、久保は全力を尽くしたが、ラ・レアルのサッカーはあまりにも単調だった。攻撃は彼にボールを渡し、彼の創造力に頼るしか選択肢がなかったのだ。だが常にファールで止められ、ダブルマークを受ければ、サプライズを起こすことなどほぼ不可能だ。

唯一の攻撃的武器であるというプレッシャーから彼を解放するためのツールを、イマノルは最後まで提供できなかった。

【地元ではそこまで騒がれていない】

 久保はサン・セバスティアンでのライフスタイルに満足し、幸せを感じており、彼の家族もすっかり街になじんでいる。メディアの喧騒から離れ、非常に平穏な生活を送れている。より高いレベルの戦いを求める久保にとって、今ここで満足できていないのはラ・レアルのプレーに対してだけだと思う。笑顔をあまり見せることはなく、外から見ていても例年ほど楽しんでプレーできていないように感じる。

 このままチームに満足できない状態が続くなかで興味深いオファーが舞い込んだ場合、サン・セバスチャンを離れる決断を下すかもしれない。まだ正式なオファーを受けてはいないとはいえ、ラ・レアルはそうなることを恐れている。

 そして今、サン・セバスティアンの人々の間では昨夏ロビン・ル・ノルマン(アトレティコ・マドリード)とミケル・メリーノ(アーセナル)が去ったように、今夏は久保とマルティン・スビメンディの二大柱を失うのではないかと話されている。

 しかし、正直なところ私はそれほど悲観してはいない。ラ・レアルが国際的なクラブの地位を確立する上での重要な役割を久保が担っていることを考えると、契約が2029年まで残るため、彼の退団を食い止めるためにまだ何かできることはたくさんあるように思えるからだ。すでに決定事項と思われるスビメンディの移籍を阻止することよりも、久保を引き留めることに力を注ぐと私は思っている。

 それはもちろん簡単ではないだろうが、久保は退団を切望しているわけではないだろうし、最初にオファーを提示してきたチームに簡単に移籍するとも思えない。

 実際、7月末に行なわれる日本ツアーの宣伝ポスターで、中心に写っているのは久保だ。

このことはラ・レアルでの彼の将来について多かれ少なかれ安堵感を示している。

 実のところ、地元のメディアで久保の将来について語られていることはほとんどなく、彼との間には一種の緊張した冷静さがある。サン・セバスティアンでは久保獲得に興味を示しているチームについての情報はほとんどない。そんななかでなんとなく聞こえてくるのは、主にプレミアリーグからの話だ。

 ただ、そうした噂も、久保に関するものよりも、アレックス・レミーロやブライス・メンデスといった、同じく市場価値の高い選手たちがこの夏に退団するかもしれないというものがほとんどだ。

【新監督は戦術的に柔軟性がある】

 イマノルの後任は、Bチームを率いるセルヒオ・フランシスコ監督が務めることになったが、ここ最近は試合で絶えず努力しているにもかかわらず、なかなかうまくいかず、苦しみ始めている久保にとってよい変化になるはずだ。

 私はセルヒオ・フランシスコとイルン(※フランスとの国境に面しているギプスコア県の自治体のひとつ)の同じ地区の出身で、彼のことは子どもの頃からよく知っている。地元のクラブチームで一緒に大会で遠征したこともあった。

 彼は冷静沈着で、選手たちと共感し合う、すばらしい人間である。戦術の柔軟性で知られているため、久保が右ウイングだけでなく、より多くのポジションでプレーできるようになっても不思議ではない。

 選手たちとの対話を重んじ、最もやりやすいポジションを見つけ、選手の創造性に自由を与えるタイプの監督だ。彼のやり方を考慮すると、ボールを持って常に攻撃を仕掛け、敵陣で主役を演じることを望んでいる久保は、セルヒオ・フランシスコの攻撃において重要な役割を果たせると感じている。

 もし久保が残留するなら(私はそう願っている)、彼の下で選手として十分に成長できるし、幸せになれると私は考えている。ラ・レアルで長年指導を受けた恩師であり、多くの愛情を注いでくれたイマノルが去ってしまうことに対する彼の複雑な心境は理解できるが。

 久保は今、岐路に立たされており、何をすべきか、自分のキャリアにとって何がベストかを考えなければならない時期を迎えている。だが、私はサン・セバスティアンに留まり、セルヒオ・フランシスコの下でサッカーを再び大いに楽しむことができると思っている。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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