チャンピオンズリーグ準決勝。バルセロナとの死闘を制したインテルとミュンヘンで決勝を戦う相手は、パリ・サンジェルマン(PSG)に決まった。

 アウェー戦を1-0で折り返したPSG対アーセナルのセカンドレグ。PSGは、キックオフと同時にアーセナルが仕掛けたプレッシングベースの猛攻をしのぐと、徐々に本来の力を発揮。2-1(合計スコア3-1)で勝利をものにした。

 下馬評ではインテル対バルサより接戦になるとの予想だった。だが、前日に両者の激闘を見たあとだったこともあるが、PSGとアーセナルの間に思いのほか差を感じた。アーセナルが悪かったというより、PSGがよすぎたという印象だ。

チャンピオンズリーグ決勝 欧州で最も調子のいいPSGと最も勢...の画像はこちら >>
 シーズン前半に行なわれたリーグフェーズの段階で、この事態を予想することは難しかった。プレーオフ進出圏内(24位以内)にPSGが浮上したのは第7節になってから。シーズン前半の調子がいかにアテにならないか。いまのPSGは、CLの優勝チームを占う際の注意点を示している。

 欧州でいま最も調子のいいチーム。PSGをそう位置づけるならば、インテルは最も勢いのあるチームとなる。

バルサとの感動的な死闘を制したことで、アドレナリンが出まくっている状態にある。100の力を120発揮しそうな、プラスアルファの力を宿している。

 今が旬なチーム同士の決勝戦である。ブックメーカー各社はPSGを有利とみている。最王手ウィリアムヒル社は、PSG勝利に1.61倍、インテル勝利に2.20倍をつけている。準決勝を迎える前は3.25倍と5倍の関係だったので、その差は詰まったことになる。インテルのバルサ戦勝利を高く評価しているわけだ。

 そのバルサ戦との準決勝で最も目立ったインテルのフィールドプレーヤーを挙げるならば、7点中5点(2得点3アシスト)に絡む活躍をしたデンゼル・ダンフリース(オランダ代表)になる。この右WBが準決勝を前にケガから復帰してきたことが、バルサに打ち勝てた一番の要因だ。

 バルサ側から見れば、敗因はダンフリースの右からの攻め上がりを止められなかったことにある。つまりバルサはダンフリースと対峙する左サイドに問題を抱えていた。

【「PSGの左」対「インテルの右」】

 ラミン・ヤマル(スペイン代表)がウインガーとして高い位置を張る右サイドは、相手の左WBフェデリコ・ディマルコ(イタリア代表)を専守防衛に追いやることに成功した。終始、低い位置に押しとどめることができたのは、ヤマルの右攻めが抑止力になっていたからだ。

 だが、左はそうなっていなかった。ラフィーニャ(ブラジル代表)がサイドの高い位置でウイングプレーを発揮する機会はほとんどなかったからだ。ヤマルと左右対称に位置する選手には見えなかった。

 バルサの攻撃が7、8割方ヤマル側(右)からだったことも輪を掛けた。逆サイドで構えるラフィーニャは、自ずとゴール前に詰める役割を担うことになった。右からゴールに迫っているとき、左に張っているわけにはいかなかったのだ。つまり、ダンフリースの攻め上がりに蓋をする役割を担えなかった。

 だが、決勝を戦うPSGの攻撃は左右対称だ。アーセナルとのセカンドレグでは左からフヴィチャ・クヴァラツヘリア(ジョージア代表)、ブラッドリー・バルコラ、デジレ・ドゥエ(ともにフランス代表)がスタメンに並んだ。交代でウスマン・デンベレ(フランス代表)とゴンサロ・ラモス(ポルトガル代表)が投入されたが、バランスはまったく崩れなかった。

 中でも左を主戦場とするクヴァラツヘリアは典型的なウインガーだ。縦方向へのベクトルが強く働く選手である。

さらにその下には、ヌーノ・メンデス(ポルトガル代表)という強力な左SBも構えている。さすがのダンフリースも簡単には攻め上がれないものと推測される。実際はどうなのか。「PSGの左」対「インテルの右」は、試合を占う大きなポイントのひとつになる。

 もうひとつの対立軸はサッカーのスタイルだ。PSGの監督ルイス・エンリケは元バルサの監督であり選手だ。インテルとの決勝は元バルサ人にとって雪辱戦になる。「打倒インテル」と、普通の監督より燃えているに違いない。

 バルサは欧州サッカーにおいては攻撃的サッカーの旗手。旗振り役だ。その先駆者として知られるヨハン・クライフは、大人数で後ろを固めるイタリア式サッカーをひどく嫌った。筆者のインタビューでも、明確にそう答えている。

今回のインテルは準々決勝に進出した8強のなかで唯一、5バックを敷く。守備的サッカーと言われても仕方がないチームだ。バルサはそのチームに打ち負ける形で屈した。ルイス・エンリケにとって心穏やかなはずはない。

【ルイス・エンリケが語ったその気質】

 ただし、ルイス・エンリケはレアル・マドリードの選手でもあった。

 彼がレアル・マドリードからバルサに移籍してきたシーズン(1996-97)だったと記憶する。ミックスゾーンで筆者がルイス・エンリケに話を聞くと、自分自身を「オレは"ガナドール"なんだ」とアピールした。「勝ちたくて、勝ちたくてどうしようもない選手」という意味だ。

 ところが、直前に話を聞いた別の選手は、バルサというチームの特徴をこう語っていた。

「勝つことも大切だけれど、美しいサッカーをすることも同じくらい大切だ。そこがバルサの魅力でもあるし、弱みでもある。何が何でも勝とうとする気質ではない」

 多くの選手が筆者に対し、異口同音にそう説明した。

ルイス・エンリケにそのことを伝えると、「この日本人ライターに、そんなことをしゃべっちゃったのは誰?」と、ミックスゾーンに響き渡るような大声で、周囲の選手を問い詰めていた。そして、「そうなんだよ、それがレアル・マドリードとの違いなんだよ」と、嘆いてみせたのだった。

 今回、バルサはインテル戦で、まさに「ガナドールではない姿」を露呈させた。ルイス・エンリケはいまごろ、バルサ気質ではなく元レアル・マドリードの選手らしい勝ち気をみなぎらせているに違いない。

 決勝戦は1試合での決着だ。90分のなかでどちらが試合の流れにスムーズに乗るか。インテルはバルサとのセカンドレグに、ハイプレスという方法論で試合に臨んだ。5バックを組みながら、同時に前にも圧をかけてきた。守備的な態勢から攻撃的サッカーを仕掛けるという、理屈に反する、半分、無謀とも言える強引なサッカーでバルサに迫った。

 前半のバルサはそれに屈し、試合の主導権を握られた。

 PSGも準決勝のセカンドレグで、アーセナルに開始直後から猛烈なプレスを浴びた。ジャンルイジ・ドンナルンマ(イタリア代表)の神がかり的なセーブがなければ、そこで崩壊していた可能性もある。

 5月31日(現地時間)の決勝戦。受けて立つのはどちらか。キックオフ直後の攻防に目を凝らしたい。

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