クラブワールドカップもついに4強が出そろった。勝ち残ったのはチェルシー、フルミネンセ、パリ・サンジェルマン(PSG)、レアル・マドリードだ。

 準々決勝のフルミネンセ対アル・ヒラルの試合を観戦したが、オークランドのスタジアムには4万人を超える人々が詰めかけ、両チームのサポーターのほか、地元アメリカの観客の姿も目立っていた。スタジアムの雰囲気は非常に熱く(気候も暑いが......)、現場は大会前に予想されていた以上に盛り上がっていると言えるだろう。

 クラブワールドカップにつて語る時、いつもついてまわるのが「ヨーロッパのクラブの不満」という話題だ。

 スケジュールが過密だと文句を言い、疲れていると訴え、暑すぎるとぼやき、最後は「この大会は意味がない」と主張する。経営陣は声を荒げ、監督たちは「シーズンが終わったばかりだ」と主張し、休暇の必要性を訴える。

 だが、蓋を開けてみれば、レアル・マドリード、マンチェスター・シティ、PSG、チェルシー、インテル、バイエルンといった名門が、ベストメンバーをそろえてやって来た。キリアン・エムバペ、アーリング・ハーランド、ヴィニシウス・ジュニオール......誰も欠けてはいなかった。

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 彼らは本当にこの大会を軽視しているのか。答えは「ノー」だ。

 ジョゼップ・グアルディオラやルイス・エンリケといったトップクラスの監督たちが、過酷な気候と過密日程が選手の健康に悪影響を与えていると警鐘を鳴らしているのは確かだ。さらに、FIFAはヨーロッパのテレビ放送を優先して、無理な時間帯に試合を組んでいる。真昼の太陽が照りつけるなかでの試合は、誰にとっても簡単なことではない。

 それでも、彼らはやって来て、勝利を目指して全力を尽くしているのはなぜか。理由は明確――「賞金」と「名誉」だ。

 今回のクラブワールドカップの賞金総額は10億ドル(約1450億円)。参加するだけで1500万ドル(約22億円)、1勝ごとに200万ドル(約2億9000万円)、引き分けでも100万ドル(約1億4500万円)。優勝チームにはなんと最大で1億3000万ドル(約188億円)以上が贈られることになる。グループリーグで敗退した浦和レッズも1500万ドルを手に入れた。

【歴史に名を刻むチャンス】

 この賞金総額は2022年カタールW杯でFIFAが代表チームに支払った賞金総額(4億4000万ドル)の倍以上に相当する。ちなみに優勝したアルゼンチンが受け取ったのは4200万ドルだった。

 つまり、いま世界で最も高額なサッカーの大会は、ワールドカップでなくクラブワールドカップなのだ。

 もちろん、PSGやマンチェスター・シティのような億万長者が所有する資金力豊富なクラブにとって、この賞金を受け取れるか受け取れないかが死活問題になるわけではない。それでも、これだけの収入は彼らにとっても魅力的だろう。選手の年俸、補強、施設への投資など、あらゆる分野の「武器」となる。

 そしてもうひとつ、この大会は「歴史に名前を刻むチャンス」でもある。

今回から導入された32クラブ制の大会の初代王者となることは、クラブのレガシーとなり永遠に語り継がれることになる。

 スペインでは法律で、リーガの選手に3週間の休暇と2週間のプレシーズンが義務づけられている。そのため、たとえばレアル・マドリードは、新シーズンの最初の2、3試合をカスティージャ(Bチーム)の選手を使って戦うことになるかもしれない。しかし、そうまでしても、彼らはこのタイトルをほしがっている。なぜなら初代王者になるチャンスは、もう2度とないのだから。

 一方、南米のクラブがクラブワールドカップにかける熱量はいつもながら尋常ではない。数年前まで2部リーグだったボタフォゴが欧州王者を倒し、パルメイラスは自家用機で乗り込み、優勝すれば選手に破格のボーナスを払うと約束した。アルゼンチンやメキシコのクラブも、名誉と誇りを胸に全力で戦った。とんでもない物価高にもかかわらず、南米から熱狂的なサポーターがアメリカにやって来た。

 もちろん彼らにとって、賞金はヨーロッパのクラブ以上に重要かつ魅力的だ。しかしそれだけではない。南米のチームにとってこの大会は「ヨーロッパへの挑戦」であり、「本物のサッカーはヨーロッパだけではない」と証明するための戦いなのだ。

【大会への批判は過去のものに?】

 グアルディオラも語っている。

「南米のクラブと対戦するのは大好きだ。彼らの挑戦する姿勢、闘志を見てほしい。すべてのボールに命を懸けてくる。凄まじい闘志だ。スタイルは違っても、彼らとの試合はどれもタフになる。あと、彼らのゴールセレブレーションが好きだね。全員で一緒に喜ぶんだ。サポーターも多くて熱い。彼らはいつだってサッカーを愛している。朝でも夜でも。サッカーが文化なんだ。

そういう体験ができるのがすばらしい」

 ヨーロッパのメディアは依然としてこの大会を「おまけ扱い」する傾向にあるが、実際は、自国クラブの勝敗に一喜一憂し、敗北すれば言い訳に走っている。

 ヨーロッパのクラブは「金」と「名誉」のため、そして自らの地位を失わないためにやって来る。世界に自分たちの「宝石」を披露するためでもある。南米のクラブは名誉と誇りのために、そして「金がなくても勝てる」ことを証明するためにやって来る。

 その構図は、かつてトヨタカップと呼ばれていた頃から変わらない。あの頃も、ヨーロッパのクラブは疲れ、「ひどい日程だ」とぼやいていた。それでもみんな、日本にやって来たではないか。しかも常に最強のメンバーで。

 新たに加わったアジアやアフリカのクラブもまた、成長のためにこの場を戦っている。今はまだ挑戦者だが、彼らもまた「いつか世界一」の夢を胸に、大会にやって来る。

 準決勝、決勝とビッグクラブ同士の激突が続く。観客は平均3万人超。

批判はもう過去のものだろう。ジャンニ・インファンティーノFIFA会長が言っていたことは、結局は正しかったのだ。

 もうひとつ重要なのは、この大会が今後、ワールドカップ開催国のテスト大会としての役割を担っていくということだ。つまり、従来のコンフェデレーションズカップに代わり、クラブワールドカップがワールドカップの前哨戦として位置づけられることになる。

 2030年のワールドカップはスペイン、ポルトガル、モロッコなどの共同開催となるが、すでにブラジルが2029年クラブワールドカップの開催に名乗りを上げている。

 今、我々の目の前で歴史が動いている。世界のスターたちがクラブのエンブレムを胸に世界の舞台で戦う姿は、ほかのどこでも見ることができない。

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