東アジアE-1選手権第2戦。初戦で香港に6-1で勝利した日本は、この中国戦にスタメンを全員入れ替えて臨んだ。

招集したメンバー26人のなかで、出場していない選手はこれでGK大迫敬介のみとなった。全員をピッチに送り出すという基本線に従えば、3戦目の韓国戦の先発は9分9厘、大迫で決まりということになる。

 事実上のA代表で現在、正GKの座をがっちり維持しているのは鈴木彩艶だ。大迫は谷晃生とともに控えの座に甘んじる。だが、メンバーを大幅に入れ替えて臨んだ先のアジア3次予選最終戦のインドネシア戦(6月10日)では、大迫がスタメンを飾った。谷を抑え2番手の座にいることが明白となった。全員を国内組から招集した今回、谷はメンバーから外れた。代わってピサノ・アレックス幸冬堀尾と早川友基が加わった。

 ピサノは香港戦に先発し、この日の中国戦のピッチには早川が立った。試合のグレードは香港戦<中国戦<韓国戦の順に高くなることを踏まえれば、早川は森保一監督の頭のなかでは、2番手として扱われていると考えるのが自然だ。ここで活躍すれば、メンバーから外れた谷に競ることができる。大迫も慌てさせることができる。

モチベーションは高まっていたに違いない。

 中国の戦力は香港より上だが、攻め込まれる機会、すなわちGKとしての見せ場はけっして多くない。与えられたチャンスはごくわずか。その時、集中力は高まっていたのだろう。

 前半17分のシーンである。相手のGKキックからだった。いったんヘッドでクリアしたCB植田直通の足下に再度こぼれた球が巡ってきた。その処理を植田は誤る。ジャン・ユーニンにボールは渡った。ドリブルで中国の1トップがグイグイと日本ゴールに迫る。GK早川にとってはまたとない見せ場が訪れた。

 中国にとってはこの日一番の決定機だった。

日本にとっては決められてもおかしくない、まさしく決定的なピンチだった。そこで早川は美技を披露する。右足のインサイドで放たれたグラウンダーの枠内シュートを、左手でストップ。こちらの想像を超える鮮やかな、文字通りのスーパーセーブを決めた。

【ボールを失う位置が悪い】

 その6分前、細谷真大が決めた日本の先制弾も鮮やかなシュートだった。後半19分、望月ヘンリー海輝が蹴り込んだ追加点も印象的なゴールだった。しかし、この中国戦を語る時、一番のビッグプレーは何かと振り返れば、早川のセーブになる。代表のGK争いに一石を投じそうなワンプレーでもあった。

 結果は2-0。全体を通しての印象は、弱者の反撃に遭った香港戦の後半と似ていた。

 褒められた内容ではない。急造チームなので仕方がないとはいえ、チームとして何がしたいのか、サッパリ伝わってこないのだ。「4バックと3バックを併用した」ということだが、違いもよくわからずじまい。

前にも述べたが、何をしたいから3バック(5バック)なのか、何をしたいから4バックなのか。目的を語らずに「可変」と言われても、可変する意味が伝わらない。

 3でも4でもボールを失う位置が悪い。真ん中に偏るという致命的な問題を森保サッカーは露呈させた。このあたりのベンチワークは、申し訳ないが率直に言って低レベルだ。世界基準を満たさない日本人スタッフの迷走。その結果が、香港戦の後半から症状として現れている。

 これでワールドカップ本大会が戦えるのか。心配になる。そんな稚拙な采配を早川のビッグセーブが救った、と言っても過言ではない。

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 前半11分、細谷の先制弾も日本ベンチを救ったプレーと言える。田中聡の縦パスをゴール正面で受けるやきれいにターン。
逆サイドの隅に流し込むようなシュートは、相手のCBのレベルを差し引いても鮮やかだった。相手を背にしてボールを受けターンしてシュート。細谷はこの試合で2度、3度と披露している。想起したのは昨年のパリ五輪のスペイン戦だ。オフサイドを取られた幻のゴールである。

 ひとつの形を持った選手。前半11分はその形にハマったシーンだった。しかし、細谷は純然たるA代表では活躍できていない。消化試合となったアジア3次予選対インドネシア戦に交代出場を果たすまで、しばらく招集外として扱われていた。

【WBらしいWBの出現】

 欧州組重視を鮮明にする森保監督には、国内に留まる細谷が眩しく写らなかったのだろう。身長178センチのストライカー。欧州のクラブから声がかかりにくい理由だ。

それでいて多機能ではない。ウイングはできない。サイドアタッカーとしての適性は、現時点で確認することができない。これは182センチのストライカー、上田綺世にも言えることだが、CF1本で勝負するには小さい。悪い選手ではないが、プレーの幅が狭い。ツボが限られている。

 細谷が欧州で活躍するためには、あるいは代表チーム内の優先順位で上田に勝るためには、上田にないドリブルワーク、ウイングプレーを身につけることではないかと、筆者は前から述べているが、この中国戦で決めたような鮮やかなシュートを見せられると、「惜しい」という気持ちは増す。

 予断を許さない1-0の状況から追加点が決まったのは後半19分で、ゲッターは望月だった。192センチ、81キロの右ウイングバック(WB)が、日本にダメ押しゴールをもたらしたのだ。かつての酒井宏樹(185センチ)も大きかったが、それをさらに上回るサイズ感である。

 香港戦のWBは166センチの相馬勇紀(左)と167センチの久保藤次郎(右)だった。後半、久保に代わって出場した佐藤龍之介も171センチである。

また、この中国戦に左WBとして先発した俵積田晃太も175センチだ。事実上のA代表でWBを務める三笘薫(178センチ)、堂安律(172センチ)らも軽量級である。

 WBに求められる本来の適性から外れていると言わざるを得ない。縦幅105メートルを両サイド各ふたりでカバーする、4バック向きの選手たちで固められていると言うべきである。この持ち駒でなぜ3バック(5バック)で戦うのか。森保采配に異を唱えたくなる点のひとつである。

 サイドに伸びるその長い縦幅を単騎でカバーしようとしたとき、いの一番に求められるのはボールを運搬する走力と圧倒的な馬力だ。相手のふたり掛かりの攻撃をひとりでストップする頑丈な身体だ。アジアでは露呈しないが、出るところに出ると、十種競技の選手然とした、総合的な身体能力に富むスケールの大きな選手でないと務まらなくなる。

 そうした意味で望月の出現は大きい。ゴールを決めたことでさらなる自信をつければ、不安定な森保采配を助ける存在になる可能性を秘める。

 中国戦は、早川、細谷、望月の活躍がなければ、どうなっていたかわからない試合だった。

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