平畠啓史の2025シーズンJ2中間報告 前編
今年も「J2ウォッチャー」の平畠啓史さんに、リーグの中間報告をお願いした。J2は現在前半戦が終わり中断期間中。
【動画】平畠啓史のJ2前半戦総括・水戸ホーリーホック編↓↓↓
【どのクラブも諦めず、混戦に】
シーズン序盤は「これはジェフユナイテッド千葉が確実に(J1に)行くな」っていう空気感があったと思うんですけど、急に落ちてきたことで本当に混戦になりましたね。いつもどおりという言い方がいいのかわからないですが、最後までわからないシーズンになってきました。
戦力差がすごくある感じもないですし、J3に落ちたくないクラブもあればプレーオフに行きたいクラブもあって、どのクラブも簡単に諦めない。また、クラブワールドカップによる6月の特別な移籍期間がいろんなところで影響があったと思います。
高知ユナイテッドSCからベガルタ仙台に移籍した小林心選手が決勝点(※6月28日、ジュビロ磐田戦)を取りましたけど、浦和レッズがクラブワールドカップに出場していなかったら7月まで移籍できなくて、あのゴールがなかったわけで。いろいろとつながっているんだなという印象です。
最終的には落ち着くところに(順位が)落ち着いていくんだろうなという気はしていますけど、いろんなチームに可能性があるのがJリーグの面白いところですね。
【攻守にバランスよく粘り強い】
水戸ホーリーホックは、勝利数1位で負け数もいちばん少ない。8連勝を含む15戦負けなしもあって、それは首位でしょうっていう感じです。ホームで負けていないところもすばらしい。
攻撃だけ、守備だけ、じゃなくて、本当に攻守のバランスが取れている。どこかを抑えたら機能不全に陥るチームじゃないところが強さかなと思っています。
新加入の渡邉新太選手の存在も大きいですね。奥田晃也選手と組む時はセンターフォワードっぽくなって、寺沼星文選手と組む時などはちょっと下がってセカンドトップ気味にもプレーできる。
栃木SCから加入した左サイドバック(SB)、大森渚生選手の存在もめちゃくちゃ大きいと思っていて、攻撃に加わった時は精度の高い左足クロスからチャンスを生みだして、右の飯田貴敬選手が上がって3バック気味になった時の守備力もあって守れます。
大森選手が加入したことによって、大崎航詩選手をボランチで使えるようになった効果も絶大でした。監督のコメントにもあったと思うのですが、大崎選手がケガで出遅れたけど練習ではすごく調子よくて、ただ左SBには大森選手がいる。でも大崎選手も使いたいと考えてボランチで使ってみたらすごくよかったと。守備力はあるし、密集でも細かくパスをつないでいけます。
それと、いまの守備陣のレギュラーはGKが西川幸之介選手、DFラインが右から飯田選手、板倉健太選手、鷹啄トラビス選手、大森選手となっていますけど、全員今季の新加入選手なんですよね。シーズン途中から加入した塚川孝輝選手や加藤千尋選手もすぐにフィットしています。
これは水戸が、選手が頑張って活躍したらよそに出ていくという歴史を繰り返してきたなかで、新しい選手をすぐに戦力としてフィットさせるやり方が、歴史のなかでできあがってきているんじゃないかと。新戦力でちゃんとした守備を作れている。他のチームの監督さんも言い訳できませんよ(笑)。
ただ、じゃあなんでここまで強いのかと言われたら、「わからない」って答えるのが正解なのかなとも思っています。
圧倒的な強さではなく、どの試合も粘り強く勝っている感じなので、「水戸強かったな」というよりも「勝てたんじゃないか」という相手チームが多いと思うんですよ。でも逆に言うと「次はあそこを抑えれば勝てるぞ」っていうポイントもあんまり見つかってないんじゃないかなと。
そこが今の水戸のよさや面白さみたいなところだと思いますし、このあともあんまり落ちないんじゃないかという雰囲気があります。チームも成功体験で「勝てるぞ」となってきていきていて、自分たちのやっているサッカーが間違いじゃないと実感してきていると思うので、そこがうまく続けばなと。
僕らみたいにJ2をずっと見ている人間からしたら、水戸が昇格するなんてすごいドラマだし、映画化できるぞってくらいの気持ちですよね。
【形が出てきてもっと上に行くのでは】
ジュビロ磐田は、4月に3連敗があったり、そのあともFC今治に3失点とか北海道コンサドーレ札幌に2失点とかが続いて失点がちょっと多いんですけど、その3連敗のあとから「形が出てきたな。なんか強いな」っていう感じがしてきましたね。
シーズン当初は右にジョルディ・クルークス選手、左に倍井謙選手を置いて、ウイングを強調するような形での攻撃が見えましたが、相手も対策してきた。そのなかで、左の倍井選手がちょっと中に入って変化をつけはじめて、面白くなってきたなと。最初は倍井選手が外に張って、左SBの松原后選手がインサイドの高い位置に入っていく形が多かったけど、今は倍井選手が中に入って松原選手が外に行くような変化が出てきています。
逆に右サイドは、ジョルディ・クルークス選手が張り続けていてもボールを預けたらクロスが上がるので、ずっと張り続けている。ちょっとやそっとじゃ折れへんぞという部分と、ちょっと変化をつけていく部分の絶妙なやり方が面白い。
シーズン途中からはだんだんとロングボールも増えてきましたが、最初からサイドに蹴るんじゃなくて、まず縦に入れておいて相手を絞らせて、よりサイドを生かしています。シーズンを追っていくなかで、自分たちのストロングをより生かすために工夫しているのが見える。
1トップには渡邉りょう選手が起用されていますが、体は強いし、泥臭いこともできる。彼のところで相手のDFラインを下げさせて、そこからサイドを使っていくやり方がうまくマッチしているなと思います。そうすることでトップ下の角昂志郎選手や佐藤凌我選手が活躍するスペースもだんだんと生まれてきています。190cmあるマテウス・ペイショット選手やサイドで川﨑一輝選手が途中から出てきてチャンスを作ったり、戦い方の幅が試合毎に増えていっています。
第20節では千葉に1-0で勝っていますが、この試合の磐田はちょっとやばかったですね。戦闘体勢というか、戦うぞっていう感じがすごく伝わってきていた。どのチームもそういうところを出そうとしていると思いますが、あれだけ見えてくるのはすごい。
夏の移籍で井上詩音選手を獲得したあたりも抜かりないなと思いましたし、もっと上がってくるんじゃないかなと思います。
【今後連勝できる可能性がある】
V・ファーレン長崎は、前半戦はちょっと失点が多かったですが、攻撃のパワーは圧倒的ですし、いまのJ2で大きく連勝できる可能性が最もあるチームは長崎じゃないかなと思っています。水戸も8連勝があっていまの順位がありますし、千葉も6連勝と4連勝がありました。
下平隆宏監督から高木琢也監督に変わったことで、ビルドアップよりも長いボールを早めに前線に入れることが増えましたし、選手のコメントを見ても「以前よりタスクが減った」と、シンプルにプレーしています。以前より迷いなくプレーできているのかなという印象です。
ビルドアップはみんな大好きだと思いますし、「ここにこの駒を置いて」「ここに立ったらここが空くから」みたいな将棋っぽいところもあるので男子が好きなのはわかるんですよ。
でも、あくまでも相手より数多くゴールを生むための、相手陣に入るための手段のひとつじゃないですか。そこにパワーを使いすぎて、大事なところでパワーを出せなかったら意味がないですよね。僕もビルドアップが嫌いなわけではないんですけど、やりすぎたらいかんよと思います。
高木監督になっての初戦がアウェーのロアッソ熊本戦でしたが、ここですごいなと思ったのが、スタメンに澤田崇選手や米田隼也選手を使ったことです。長崎にはいい選手がいっぱいいますけど、これまで長崎を支えてきた選手をここでバンっと使うのはちょっと痺れました。
実際に澤田選手が得点しましたし、米田選手も次の試合で点を取りました。もちろん、うまい順に並べるという作戦もありでしょうけど、そのチームで誰が大事なんですかっていうところもすごく大事だと思うので、澤田選手や米田選手がスタメンで出て、エジガル・ジュニオ選手がベンチにいますという、こういう苦しい時に誰を使うかっていう高木さんの采配はすげえなって思いましたね。
監督が変わると、すぐにやり方を変えるのか、システムを変えるのかという感じの見方になるけど、そういうところが実は一番大事なのかなと思いますね。
高木さんは社長から監督になって相当な重圧があると思いますけど、高木さんだからできるというか。長崎出身で経験値も他の人とは比べものにならなくて、選手もチームも知り尽くした人で、昇格を経験しているからできることなのかなと思います。
再開初戦がホームの仙台戦というのも因縁ですよね。昨シーズンのプレーオフを頭に入れて観るひとも多いだろうし、のちのち振り返った時に、「あの再開初戦の長崎対仙台の結果は大きかったね」となる気がしています。
3週間空いての対戦になるので、高木さんもやりたいことを仕込んでくると思うし、仙台の森山佳郎監督もめちゃめちゃ仕込んでくると思います。昨年のプレーオフの時も3週間くらい空いていて、長崎を研究して力を出させずに仙台のリズムになった。この対戦は絶対に面白くなりますよ。
>>後編「思わず見に行きたくなる魅力的なクラブ」へつづく