【連載】
松井大輔「稀代のドリブラー完全解剖」
第7回:ブラッドリー・バルコラ

 昨シーズンのチャンピオンズリーグで悲願の初優勝を成し遂げるなど、現在世界屈指の強さを誇っているパリ・サンジェルマン(PSG)。その勢いに乗るチームのなかで急成長を遂げた選手のひとりが、現在リバプールへの移籍も噂されているブラッドリー・バルコラ(22歳)だ。

 リヨンのフォルマション(下部組織)出身のウインガーは、PSG加入2年目にしてキャリアハイとなるリーグ戦14ゴールを記録。一昨シーズンは年間4ゴールだったことを考えると、急激に得点力をアップさせたことがわかる。とりわけ昨シーズン序盤戦は、キリアン・エムバペ(現レアル・マドリード)の抜けた穴を埋めるようにゴールを量産した。

【欧州サッカー】「三笘薫と同じ種類のテクニック」エムバペの穴...の画像はこちら >>
 後半戦はウスマン・デンベレの得点力がアップしたことに加え、冬の移籍でフヴィチャ・クヴァラツヘリア(前ナポリ)の加入やデジレ・ドゥエ(20歳)の大ブレイクにより、バルコラの序列が低下してしまったことは否めない。だが、それでも昨年6月にフランス代表デビューを果たしたように、国内屈指のアタッカーへと成長を遂げたことは間違いない。

 そのバルコラが最も得意とするプレーが、サイドでボールを持ったあとに見せるドリブル突破だ。果たしてバルコラのドリブルには、どんなテクニックが潜んでいるのか。現在浦和レッズで育成年代を指導するほか、Fリーグ(日本フットサルリーグ)理事長も務めている松井大輔氏に、そのドリブルの特徴や独特のテクニックを解説してもらった。

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「まず、バルコラという選手の最大の特徴は、足が長くてスピードが抜群にあるということ。彼のドリブルを見ていると、そのリーチの長さとスピードという自分の武器を最大限に活かすためのテクニックが詰まっています」

 開口一番、バルコラの印象を口にした松井氏は、続けてそのドリブルテクニックについて具体的に説明してくれた。

【三笘は理論型、バルコラは感覚型】

「バルコラが左サイドで突破するシーンでよく使っているのが、三笘薫(ブライトン)と同じ種類のテクニックですね。

 相手と対峙した時、ボールを後ろ足(右足)で持ちながら間合いを図り、相手の重心を右側(ピッチ中央側)に傾けた瞬間、後ろ足でボールを前に押し出すようにして一歩目を踏み出し、一気にスピードアップするドリブル突破です。

 ただ、三笘と違っているのは、ボールを押し出す時にインステップではなくインサイドでボールを運んでいることが多いのと、押し出したボールの距離です。

三笘の押し出す距離が10メートル以内であるのに対し、バルコラは10メートル以上。背後にあるスペースによっては、20メートル先にボールを蹴って、対峙する相手とのスピード競争で抜き去ってしまいます。

 それを可能にしているのは、バルコラが兼ね備えている圧倒的なスピードです。おそらく走るスピードには絶対的な自信があるのでしょう。インサイドでボールを運べば、普通はスピードが落ちると言われていますが、バルコラはそんな細かいことは気にしていないのかもしれません。要するに、三笘が『理論型のドリブラー』だとすれば、バルコラは『感覚型のドリブラー』という分類になると思います。

 もうひとつは、リーチの長さと関係しています。バルコラは一歩で進む距離が長いので、当然ですが相手との間合いも変わってきます。僕もそうですが、普通の選手は2歩先のあたりが自分の間合いの広さになります。しかしバルコラの場合は、2歩半もしくは3歩先くらいが自分の間合いになっています。

 間合いが広いと、対峙する相手はいつもより自分に近い場所にボールを晒されるので、ボールを奪えると思って食いついてしまいます。でも、バルコラにとってはそれが自分の間合いなので、相手が食いついてくれる瞬間を狙って、先にボールにタッチして一気に抜き去ることができます。

 バルコラの身長は182cmですが、その身長のわりに足がものすごく長く見えます。このリーチの長さは、ほかの選手にはない大きな武器だと思います」

【日本人がマネすることはできる?】

 足の長さとスピード。バルコラのドリブルには自分の武器を有効に活用したテクニックがちりばめられていることを、松井氏は説明してくれた。そのうえで、バルコラの強みはそれだけではないと言う。

「バルコラのドリブルのベースとなっているのは、三笘と同じように、縦突破とカットインの両方を使い分けられることです。特にバルコラは、相手の重心を動かしてから股抜きや『裏街道(※)』を頻繁に使って突破します。

※裏街道=相手の背後にボールを出して、自分は対峙する相手に向かってボールを出した反対側を走り抜けるテクニック。

 ただ、それだけではないのが、バルコラのすごいところ。狭いエリアでは細かいボールタッチで相手をかわすこともできますし、右サイドでも違和感なくプレーできる。なによりシュート技術が高いので、ペナルティエリア付近でボールを持つと、相手にとっては次に何をしてくるのか読みにくい。

 近年のドリブラーはドリブルだけでは成立しなくなっていて、シュートやクロスボールの精度も高くなければ、持っているドリブル能力が試合で半減してしまいます。そういう意味では、バルコラは万能型のアタッカーに進化していると思います。

年齢的にもまだ成長が見込めますし、左右だけでなく、今後は中央でもプレーできるようになるかもしれません。人材の宝庫フランスに、また末恐ろしい選手が現れたと感じます」

 では、バルコラのドリブルを日本人がマネすることはできないのか。子どもたちにバルコラのドリブルテクニックを教えるとしたら何を伝えるべきか、育成年代を指導する松井氏に聞いてみた。

「足が長くて速い選手なら、バルコラのテクニックを盗めると思います。ただ、ドリブルは人によってリズムが違うので、もしスピードがないのであれば、無理してマネする必要はないと思います。

 ただし、バルコラも狭いエリアでドリブルをする時に、ボールを『イン→アウト→イン』というリズムでタッチする技術を見せています。それは基本中の基本なので、どんなタイプの選手でも身につけておく必要はあるでしょうね。その基本技術をマスターしたうえで、自分に適したドリブルテクニックを学んでいってほしいと思います」

(第8回につづく)


【profile】
松井大輔(まつい・だいすけ)
1981年5月11日生まれ、京都府京都市出身。2000年に鹿児島実業高から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に加入。その後、ル・マン→サンテティエンヌ→グルノーブル→トム・トムスク→グルノーブル→ディジョン→スラヴィア・ソフィア→レヒア・グダニスク→ジュビロ磐田→オドラ・オポーレ→横浜FC→サイゴンFC→Y.S.C.C.横浜でプレーし、2024年2月に現役引退を発表。現在はFリーグ理事長、浦和レッズアカデミーロールモデルコーチ、U-18日本代表ロールモデルコーチ、京都橘大学客員教授を務めている。日本代表31試合1得点。

2004年アテネ五輪、2010年南アフリカW杯出場。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。

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