西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第63回 ドミニク・ソボスライ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。
今回は、プレミアリーグ連覇を狙うリバプールでますます重要な存在になっているドミニク・ソボスライを取り上げます。フロリアン・ビルツ加入の影響でポジションが変わりましたが、むしろ本領発揮のようです。
【リバプール4人目のスペシャル】
リバプールには特別な選手が3人いる。
GKアリソン・ベッカー。ゴールの番人であり攻撃面でも際立っている。開幕のボーンマス戦ではバックパスを右足アウトサイドの角度をつけたキックで味方へつなぎ、フィールドプレーヤー顔負けのスキルを見せた。しかも2回。さらに逆襲のロングパスでモハメド・サラーを走らせて決定機を演出していた。
センターバック(CB)のフィルジル・ファン・ダイク。195㎝の長身で空中戦は無敵、さらに長いリーチと鋭い読みで地上戦も無敵。スピードもすばらしく1対1でほぼ負けない。フィード力も格別で正確で速いロングパスをFWに供給できる。
3人目は言わずと知れたサラー。
どのポジションにも逸材が揃うリバプールだが、もし4人目のスペシャルを探すならドミニク・ソボスライになると思う。
今季はフロリアン・ビルツの加入でトップ下から1つポジションを下げた。ただ、本来はこちらなのだろう。ソボスライはリバプールに加入した2023-24シーズンで33試合に出場して3ゴール、2024-25シーズンは36試合で6ゴール。プロデビューした2017-18シーズンにリーグ戦10ゴールを記録しているが、当時のFCリーフェリングはオーストリア2部リーグだった。その後の最多得点はレッドブル・ザルツブルク時代の27試合9得点(2019-20シーズン)でトップリーグでの二桁得点がない。
昨季、アルネ・スロット監督は「得点が少ない」と注文をつけていたが、もともと得点を量産するタイプではないのだ。ただ。ソボスライの弱点はそれくらいで、テクニック、運動量、守備力とどれをとってもトップクラスである。
186㎝の長身だが動きは機敏。守備時に寄せていくスピード、球際の強さは格別。
トップ下としてはビルツの加入で二番手になったかもしれないが、ソボスライがポジションを失うことはなく、ソボスライが下りてきたことでボランチの残り1枠をライアン・フラーフェンベルフ、アレクシス・マック・アリスター、遠藤航らが争う状況になっている。むしろ本来のポジションに戻ったソボスライはますます不可欠の存在になった。
【替えの効かない存在】
攻撃時のリバプールはサラー、ウーゴ・エキティケ、コーディー・ガクポの3トップだが、守備では4-5-1または4-4-2に変化する。その際、ガクポは定石どおり中盤のラインに下がるが、サラーは前残りすることがある。
サラーが守備をしないわけではなく、相手の左CBに対して外切りのプレスをかける。対面の左サイドバック(SB)はタッチライン際でフリーになるが、そこへパスが出ないような寄せ方をしているわけだ。ただ、相手のSBがフリーになっていることに変わりはなく、そこへ直接またはワンクッション入れてボールが渡るケースは少なくない。しかし、リバプールとしてはそれでも構わないのだと思う。
サラーをあまり引かせないほうが逆襲の時に効果があるからだが、もうひとつの理由はおそらくソボスライがいるからだ。開幕のボーンマス戦では後半にちょうどそういう場面があった。
サラーが外切りでプレスしたが左SBへのパスが出てしまう。サラーはそこへの守備は間に合わない。
大きくてスプリント能力が高く、球際に強い。さらに奪ったボールを確実につなぐ、あるいは決定的なパスに変換する。これほど守備力の高いトップ下は稀だが、これほど攻撃力のあるボランチもまたそうはいない。攻守両面でハイクオリティのソボスライの存在がリバプールを下支えしていて、それゆえに替えの効かない存在になっている。
【レッドブル産の逸材】
ハンガリー生まれのソボスライだが、プロデビューはオーストリアのFCリーフェリング。レッドブル・ザルツブルクの姉妹クラブだ。ソボスライはレッドブル・グループが育てた逸材と言える。
リーフェリングからレッドブル・ザルツブルクへ移籍し、リーグ優勝3回、カップ戦優勝2回に貢献。2021-22シーズンにはブンデスリーガのRBライプツィヒへ移籍、こちらもレッドブル・グループ。
レッドブル・グループは若くてフィジカル能力の高い選手を育成し、ビッグクラブに売却するというビジネルモデルで知られている。プレースタイルも若くて馬力のある選手を生かせるようになっていて、戦術、育成、移籍収益がセットになっている。ザルツブルクからはアーリング・ハーランド、南野拓実、ダヨ・ウパメカノ、ナビ・ケイタ、サディオ・マネらがビッグクラブへ移籍している。RBライプツィヒもヨシュア・キミッヒ、クリストファー・エンクンクなどを輩出してきた。
レッドブル・グループの強度重視の育成はリバプールとの相性がよく、マネ、ケイタ、南野がプレーしてきた。デビュー以来、レッドブルのクラブでキャリアを積んできたソボスライは強度と技術を兼ね備えた、まさにリバプール向きのMFである。
ハンガリーでは往年のスーパースター、フェレンツ・プスカシュと比較されているが、ゴールマシーンだったプスカシュとは明らかにタイプが違う。比べるならヨゼフ・ボジクのほうだと思うが、主に1980年代に活躍した「ラヨシュ・データーリは超えた」と言われている。比較対象が1950年代から1980年代に飛んでしまっているところにハンガリーサッカーの停滞が表われていて、そのため歴史的にもトップクラスのプスカシュがいきなり比較対象ということになっているのだろう。
ただ、それだけ久々に現われたハンガリーのスターなのだ。
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