F1第15戦オランダGPレビュー(前編)
「もちろん、もっといい結果を期待していましたし、マシンに対してはかなり自信を持って走ることができていましたし、今まででもっともうまくマシンをコントロールできていたと思います。それだけに、走っていた感触とラップタイムがまったく一致しなかったのは不思議ですし、腑に落ちていない部分があります」
オランダGPの予選を12位で終えた角田裕毅(レッドブル)は、当惑の表情を見せた。
いや、どんなアスリートでもアーティストでもそれは同じだが、モータースポーツはマシンという道具によって結果が大きく左右される世界だけに、F1ドライバーの思考はやや特殊だ。
20人のなかでの1位から20位という「相対軸」ではなく、自分の置かれた環境のなかで可能な100点に対して、自分がどれだけやれたのかという「絶対軸」で自身を評価する。下位チームのドライバーがマクラーレン勢と比べて「優勝できなかった」と落胆していても意味がないからだ。
そんななかで唯一、「相対軸」で比較できるのはチームメイトとの勝負である。角田にとっては、当代一のドライバーであるマックス・フェルスタッペンがその相手という、誰よりも厳しい環境に置かれている。
レッドブルとマクラーレンのマシン性能差、レッドブルとレーシングブルズのマシン性能差は、誰にも正確なところはわからない。だが、同じマシンに乗るチームメイトとのタイム差は、それ自体が明確な実力差として突きつけられることになる。
予選Q2でフェルスタッペンと0.500秒もの差がついたことに対し、角田は当惑した。
新型フロアが投入されたベルギーGPでは0.381秒差(0.378%)、ようやく同じ仕様のマシンが与えられたハンガリーGPでは0.163秒差(0.215%)まで、その差を縮めていた。
それだけに、同じ仕様のマシンで走ることができる今回も、さらにフェルスタッペンとの差を縮めることが角田にとっての「絶対軸」であり、その結果として何位につけられるかというのは「相対軸」でしかなかった。
【セットアップ変更に自信が持てず】
「すごく不思議です。
その後、角田のフロアにはダメージがあったことがわかり、それがすべてではないにせよ、少なからず影響を及ぼしていたことは明らかだった。縁石に乗り上げることも多いサーキットだけに、走行中にどこかでダメージを負っていたのだろう。
ただしそれだけではなく、フェルスタッペンは金曜の大苦戦から土曜にセットアップを変更し、FP3の感触から予選に向けて、ぶっつけ本番でさらなるセットアップ変更を選んだ。
しかし角田は、その変更に自信が持てなかった。そのため、FP3の延長線上で予選に臨むことを選んだ。0.500秒には、その差も多少なりともあった。
「予選はセットアップ面で2台を異なるアプローチにして、(フェルスタッペン車は)FP3から予選に向けてのセットアップ変更に自信を持っていました、だけど、僕は継続性のある状態で予選に臨みたかったので、そのままで臨むことにしたんです。
マックスのほうがうまくいかず、僕のセットアップがうまくいった可能性もあったと思います。だけど、マックスはそういう変化にも迅速に対処できる巧さがあります。今週末は(角田担当の)チームとして多くを学べたと思います」
マシンダメージに加えて、RB21に対する理解度という点でも、フェルスタッペンとの間にはまだ差があったのだ。
◆つづく>>