2025年のセ・リーグのペナントレースは、阪神の圧勝だった。7月30日にマジック39が点灯。
阪神は藤川球児が新監督に就任し、巻き返しを図ったシーズンだった。豊富な投手力を武器に、開幕から順調に白星を積み重ねていった。シーズン前半こそ、藤川監督の投手交代に"謎采配"との声があがったが、オールスター以降は独走。セ・リーグの貯金を独占し、あっという間に優勝を決めてしまった。
巨人OBの大御所・広岡達朗は今シーズンのセ・リーグを振り返り、阪神にこれだけの独走を許したほかの5球団に厳しく喝を入れた。
【巨人はオーダーを変えすぎ】
「阪神は開幕前から投手力の高さが評価されていたが、藤川の采配については評論家たちも懐疑的だったはずだ。実際、オレも藤川の投手起用についてあれこれ言ったし、前半は落ち着きのない采配が目立ったのもたしかだった。付け入る隙はあったのに、ほかの5球団はいったい何をしていたのかと言いたい」
まずは連覇を狙った巨人について、広岡は次のように語る。
「今シーズンの巨人を見ても、あれだけ毎日のようにオーダーを変えて、安心して戦えるはずがない。監督の阿部(慎之助)は、野球というスポーツにおいて何がどれほど大事か、その本質を理解していない。だから、世話になった球団だけにとどまると周りが見えなくなるから、一度外に出て、違った角度から野球を見ることが大事なのだ。阿部は高校の時から知っているが、正直、あそこまで野球の本質をわかっていないとは思わなかった」
ただ今年の巨人に限れば、主砲の岡本和真の長期離脱は痛かった。
「再三口酸っぱく言っているが、巨人で2、3年指導者をやって『おかしいな、うまくいかないな』と思ったら、弱いチームに移っていろいろ学べばいい。弱いチームに行けば、なぜ勝てないのかが如実にわかる。選手が一生懸命やっていても、チーム成績が上がらないことは多い。その要因のひとつは、経営者が金を出しすぎることにもある」
さらに広岡はこう続ける。
「一生懸命やって個人の成績が上がっても、それは必ずしも勝つための成績ではない。個人成績を伸ばせば、チームが優勝するというものではないのだ。勝つためにどうするかを考え、選手に教えることこそ監督の役目であり、やらなければならないことなのだ。それを選手任せにして『頼む、頼む』と言うだけの監督ではダメだ。今のセ・リーグは、そういう監督ばかりに見えた」
【役割を与えることで意識は変わる】
たとえば1998年のロッテを見ると、チーム打率.271はリーグトップ、チーム防御率3.70もリーグ2位だったにもかかわらず、最下位に沈んでいる。本来なら優勝していてもおかしくない成績だが、試合運びのまずさが露呈したとしか思えない。
一方で、2001年の近鉄(現・オリックス)と2018年の西武は、チーム防御率最下位ながらリーグ優勝を果たし、2011年の中日はチーム打率.228とダントツのリーグ最下位だったにもかかわらず優勝している。ちなみに、2014年のヤクルトはチーム打率.276とトップだったが、最下位に沈んでいる。
長いペナントレースを戦ううえで大事なことは、勝てる試合を確実にモノにし、劣勢の試合展開では無理に逆転しようとせずに"捨て試合"をつくることだ。
そうはいっても、所詮は机上の空論であり、ケガ人などアクシデントは突然やってくる。今シーズンの巨人がまさしくそうだった。その不測の事態に対応するのが監督の仕事であり、腕の見せどころである。
もちろん、阿部監督も自分なりに考え、勝利を目指したと思うが、結果が出ない以上、効果があったとは言えない。
それは中日にも言えることだと、広岡は指摘する。
「昨年まで3年連続最下位の中日は、阪神戦こそ五分の成績だが、他球団には大きく負け越している。その最大の理由は、勝ちパターンの投手陣がまだ確立していない。こいつが先発の時は、セットアッパーは誰々、リリーフは誰々と決め、勝ち星を重ねていく。人間というのは、目的がわからないと一生懸命やらない生き物なんだから。しっかりとした役割を与えることで、意識がガラッと変わることは往々にしてある」
若きエース・高橋宏斗は決して不調というわけではない投球を続けているが、ここぞという場面でのエラーや好機での凡退が重なり、なかなか勝ちに恵まれていない。チーム全体が負のループに陥っている印象だ。
【もはやDeNAは負け慣れ】
昨年、シーズン終盤まで首位を走りながら9月に大失速し、優勝どころかAクラスさえも逃した広島は、今年も厳しいシーズンとなっている。
「広島はスターだった丸佳浩が巨人へ移籍したように、主力選手が次々と流出してしまう体質を抱えている。球団の根底には『優勝ばかりすると金がかかるから、たまに優勝すればいい』という発想があるのだろう。さらに監督やコーチにはOBばかりを重用し、実際に指導力のある人材がほとんどいないのが実情だ」
FAで補強しない代わりに、自前の選手を育てて勝つ広島のやり方は終始一貫している。たしかに一時的には強くなるが、主力がFAで流出してしまうため、長期的に戦力を維持できないのが特徴だ。しかも主力流出の影響は数年後にじわじわと表われ、ボディーブローのように効いてくる。
2021、22年と連覇を果たしたヤクルトだが、それ以降は今季も含め低迷が続いている。
「ヤクルトは、もはや球団の悪しき伝統とも言えるほど故障者が多すぎる。これは環境面に問題があることの証拠だろう。本来であれば、もっと専門的なスタッフを配置し、トレーニング施設の充実を図るべきだ。これだけ故障が続出するのは、選手個々の問題ではなく、球団側に明らかな責任と構造的な問題がある」
そして昨年シーズン3位からクライマックスシリーズ、日本シリーズを勝ち抜き、日本一を果たしたDeNA。
「もはやDeNAは負け慣れだな。昨年の日本一はなんだったのか、というくらい選手たちに勝利への執念が感じられない。世代交代もうまくいっていないし、優秀なのは外国人だけ。その外国人も離脱してしまえば、そりゃ勝てなくなる」
広岡はヤクルト、DeNAについて、現場だけでなくフロントの責任もあると説く。
「ヤクルトもDeNAも、フロントがあまりに野球を知らなすぎる。経営戦略の方向性そのものを疑いたくなるほどだ。野球を知らないからこそ、『監督を代えればすべて解決する』と安易に考えてしまう。本来フロントの仕事とは、目先の対応ではなく、長期的な改革をどう進めるかにあるはずだ。しかし現実には、チームの成績不振の責任を選手・監督・コーチにすべて押しつけ、経営者だけが安泰という状況がまかり通っている。こんな馬鹿げたことが許されていいのか。GMについても、OBかどうかにこだわる必要はない。
広岡は「今シーズンの阪神に限って言えば、戦力が充実し、勝てる時期が来て、選手たちをその気にさせた藤川の手腕は評価すべきだ」と語り、こう続けた。
「監督の力量とは、先発ピッチャーが崩れた時にどう采配するか。そこを見極めなければ、本当の値打ちはわからない。オレなんか、フロントをすべて敵に回してでも勝った」
最後の最後まで"広岡節"は健在だった。