9月7日にNPB史上最速で優勝した阪神に、16ゲーム差をつけられているリーグ3位の巨人(2025年9月24日時点/以下同)。対戦成績でも8勝17敗と大きく負け越している。
今シーズンに巨人が阪神に勝てない理由について、卓越したバットコントロールと華麗なセカンドの守備で、長らく巨人の主力として活躍した篠塚和典氏はどう見ているのか。併せて、本塁打(39本塁打)と打点(97打点)で現在リーグ1位と、大きく飛躍を遂げた阪神・佐藤輝明のバッティングも解説してもらった。
【投手陣、野手陣ともに完成度に差】
――巨人が阪神に勝てない要因をどうお考えですか?
篠塚和典(以下:篠塚) 巨人は開幕直前に丸佳浩が離脱、その後は岡本和真が離脱してしまうなど戦力が整わずに戦ってきましたが、阪神はシーズンを通してしっかりと整っているじゃないですか。その差かなと。ただ、仮に巨人の主力選手が離脱していなくても、阪神はクリーンアップも揃っていますし、菅野智之(ボルティモア・オリオールズ)が抜けたことも含めてエース級の先発投手の数も考えると、戦力的にはトータルで阪神のほうが上だと思いますけどね。
阪神は選手が故障で離脱しないで頑張っていますし、藤川球児監督も選手を信頼していますよね。あくまで外から見ている印象ですが、選手とのコミュニケーションもうまくいっているような気がします。
――巨人は岡本選手が離脱し、多くの選手が4番を務めるなど、打線を流動的に動かさざるをえない状況が続きました。
篠塚 岡本の離脱は、阿部慎之助監督も相当落胆したはずです。仕方がないといえばそうなのですが、そういうのは選手も敏感に感じますし、野手だけでなくピッチャーにも伝染してしまいます。あと、岡本が抜けただけで打線は貧弱になってしまいました。トレイ・キャベッジや吉川尚輝ら、代わりに4番に入った選手が同じような活躍をできていればまた別だけど、そうはいきませんからね。
――今シーズンの阪神戦は、1点差などの接戦で競り負けてしまっている印象です。
篠塚 昨シーズンは勝っていたような試合を落としてしまっていますね。やっぱり阪神戦になると少し気持ちが違うのでしょうが、空回りしてしまっているんです。さらに阪神は、ピッチャー陣が先発もリリーフも盤石ですよね。巨人も本来はピッチャー陣がいいのですが、戸郷翔征や井上温大らをはじめ、なかなか整いませんでした。
それと、今シーズンは甲子園での戦いが特に苦しくなっています。僕らの現役時代もそうですが、甲子園はほとんどが阪神ファンで、異様な雰囲気ですからね。原辰徳監督時代(当時、篠塚氏は打撃コーチ)には、「甲子園で勝たなきゃいけない」ということで、それにちなんだスローガンみたいなものもありましたし。ああいうアウェーのなかでも勝っていかないと苦しくなりますよね。
――阪神は、ドラフトで獲得した大卒の野手(大山悠輔、佐藤輝明、森下翔太)や社会人出身の野手(近本光司、中野拓夢)がレギュラーに定着し、ここ数年のシーズンを戦えています。
篠塚 そのときどきの阪神の首脳陣が、けっこう我慢して使っていた部分もありますしね。それが大事だと思いますし、そのなかでいろいろなことを経験しながら結果を出してきた、ということだと思います。"我慢して使い切る価値のある選手"をドラフトで獲ることが大切だと、あらためて思わされますよね。
巨人も、浅野翔吾や石塚裕惺ら、将来性を見込んで高卒の選手を獲ることも大事ですが、即戦力のスラッガータイプの選手に注目してみるのも一考かもしれません。そのあたりは編成がいろいろ考えていると思いますけどね。巨人は特に外野手ですよ。
――篠塚さんは、外野手が課題だと以前から指摘されていますね。
篠塚 丸も36歳ですし、外国人選手に頼り続けるわけにもいきません。浅野などは使い続けてもいいと思いますけどね。我慢に我慢を重ねて使っていけば、いい選手になっていくんじゃないかなと。使い切ることで、選手は経験して成長していくわけですから。
9月に入って1軍の試合に出始めた、昨年の高卒ドラ1の石塚はファームで結果を残しているようですが(54試合出場、打率.325、3本塁打、23打点)、将来のために1軍で慣らしていくのもありでしょう。
【佐藤輝明の昨年までとの変化】
――続いて、阪神の主砲・佐藤輝明選手のバッティングについてお聞きします。今シーズンはキャリアハイの成績を残していますが、これまでと何が違いますか?
篠塚 入団したばかりの頃はどんなボールでもマン振りで、「あんなボールも振っちゃうの?」というくらいのボールも振っていました。確率が悪かったですよね。
あと、今までは軸足(左足)に体重を残して後ろの軸で振ってしまっていたので、ヘッドが走らず、ちょっとした変化球でも上半身が突っ込んでいってしまっていた。それが今は、体重移動がうまくできていると思います。
――昨シーズンと比べてステップ幅を狭くしているのは、体重移動に時間をかけないようにするため?
篠塚 そうですね。体重移動に時間をかけないといえば、大谷翔平(ロサンゼルス・ドジャース)もそうですよね。右足をほんのちょっとだけ、おそらく靴1足分くらいだけ投手方面に出す。その右足に体重移動し、右足を軸にしてスイングしています。おそらく佐藤も、そのあたりの感覚をつかんだんじゃないですか。
――そのほうがヘッドも走る?
篠塚 そうですね。なので、軽く振っているように見えても飛距離が出ますし、ヘッドの重さを活かして打つことができるようになると、バッティングの幅も広がるんです。今は7、8割の力でコンパクトに振り抜いている印象です。
――巨人がクライマックスシリーズ(CS)で阪神と対戦することになれば、当然、佐藤選手の対策も必要になってきます。
篠塚 ストライクからボールになるような球を振らせる。あとは、インサイドにしっかりと投げ込むことも重要です。逃げて、ちょっと外側に投げてしまうと、そこは強いバッターなので。インサイドを振らせてファウルなどでカウントを稼ぎ、勝負球は甘くならないように、ストライクからボールになる球がいいですね。フォーク、スライダー、チェンジアップ、勝負球はなんでもいいのですが、際どいところを突いていけないと抑えるのは難しいでしょう。
あとは1番・近本、2番・中野を塁に出さないこと。どこと対戦する時もそうですが、やっぱり1、2番を抑えることが大事です。特に阪神は、佐藤含むクリーンナップの誰かしらがランナーを還しますから。クリーンナップの前にランナーをためることは避けなければいけません。
とにかく今シーズンは、打線も1~5番まで大卒、社会人で獲得した即戦力メンバーが脂が乗り切ってきて固定されている阪神と、岡本以外が流動的でなかなか定まらない巨人との戦力の違いも顕著だった1年と言えます。そのあたりは今後の巨人の明らかな課題で、対応が必要ですね。