いよいよメジャーリーグのポストシーズンが始まる。なんといっても注目は、ワールドシリーズ連覇を狙う大谷翔平、山本由伸らが所属するロサンゼルス・ドジャースだ。
※チーム、選手の成績は全日程終了時のもの
【フランコーナ監督の采配に要注意】
── ドジャースの大谷翔平選手が所属するナショナル・リーグ、そしてアメリカン・リーグも同様に、東・中・西の各地区優勝チームと、地区優勝を除く勝率上位3チームを合わせた計6チームがポストシーズンに進出するわけですね。
武田 西地区を制したロサンゼルス・ドジャース(勝率.574)ですが、勝率では中地区優勝のミルウォーキー・ブルワーズ(.599)や東地区優勝のフィラデルフィア・フィリーズ(.593)を下回っています。そのため、ナ・リーグの「地区優勝を除く勝率上位3チーム」の3位にあたるシンシナティ・レッズ(中地区3位、勝率.512)と、まず「ワイルドカード(3戦制)」を戦うことになります
── 3戦制だと、日本で言うクライマックスシリーズ(CS)ファーストステージではないですが、どちらが勝つかわかりませんね。
武田 レギュラーシーズンでのレッズとの対戦成績は、ドジャースが5勝1敗と勝ち越しており、相性は悪くありません。ただし、レッズの指揮を執るのは名将テリー・フランコーナ監督です。彼は2004年、ボストン・レッドソックスをワイルドカードから勝ち上がらせ、チームを86年ぶりのワールドシリーズ制覇に導きました。さらに、松坂大輔投手や岡島秀樹投手を擁した2007年にも世界一を達成しています
── メジャーを代表する名将のひとりです。
武田 その後、クリーブランド・インディアンス(現・ガーディアンズ)時代に計3度の「最優秀監督賞」を受賞しました。そして今年からはレッズの指揮を執り、当初はここまで勝ち上がれるとは思われていなかったチームを率いて、最後は(千賀滉大の所属する)ニューヨーク・メッツを逆転してワイルドカードを獲得しました。継投に長けているだけに、フランコーナ監督の采配は要注意です。
── ポストシーズンで、ドジャース先発投手の順番はどうなんでしょうか?
武田 おそらく、サイ・ヤング賞2度受賞のブレーク・スネル(5勝4敗)、山本由伸(12勝8敗)、大谷翔平(1勝1敗)、タイラー・グラスノー(4勝3敗)になるでしょう。
一方のレッズには、快速球を誇るハンター・グリーンや俊足のエリー・デラクルスといった選手はいますが、総合的なチーム力ではドジャースのほうが明らかに上。ふつうに戦えば勝てるはずです。ドジャースとしては第2戦で決着をつけ、大谷を次の「ディビジョン(地区)シリーズ」の初戦に回したいところですね。
── レギュラーシーズン、ドジャースの先発投手は6人ほどいましたが、終盤はリリーバーがことごとく打ち込まれました。
武田 ポストシーズンは試合間隔に余裕があるため、先発投手は4人で大丈夫です。今季限りでの引退を表明したクレイトン・カーショーもリリーフに回るのではないでしょうか。
【ディビジョンシリーズは苦戦必至】
── 次の「ディビジョンシリーズ(5戦制)」は、大谷選手(55本)をホームラン王争いで下したカイル・シュワーバー(56本)がいるフィラデルフィア・フィリーズですね。
武田 エース格のザック・ウィーラー(10勝5敗)は故障中ですが、それでもヘスス・ルサルド(15勝7敗)、クリストフェル・サンチェス(13勝5敗)、ランヘル・スアレス(12勝8敗)といった実力派投手が揃っています。
打線も、トレー・ターナー(打率.304、15本塁打、69打点)、アレク・ボーム(打率.287、11本塁打、59打点)、J.T.リアルミュート(打率.257、12本塁打、52打点)ら、ポストシーズンに強い勝負勘を持つ好選手が多く、ナ・リーグで最も手強い相手と言えるでしょう。
── レギュラーシーズンでもドジャースは2勝4敗と負け越しています。
武田 シーズン終盤の直接対決3連戦(1勝2敗)で、ドジャースナインも手強さを肌で感じ、「フィリーズに勝てれば......」「フィリーズ戦がひとつのヤマだ」と思っているんじゃないですかね。頂点まで、今年はけっこう"茨(イバラ)の道"ですよ。
── フィリーズを下したら、リーグチャンピオンシップ(7戦制)に進みます。
武田 反対側のブロックでは、まずワイルドカードで地区優勝を除く勝率1位(.568)のシカゴ・カブスと同勝率2位(.556)のサンディエゴ・パドレスが戦います。
── カブスには鈴木誠也選手、今永昇太投手、パドレスにはダルビッシュ有投手、松井裕樹投手がいますね。
武田 鈴木は、松井秀喜や大谷に次ぐ「30本塁打・100打点」を達成し、今季は大いに奮闘しました。一方、今永(9勝8敗)は直近3試合でクオリティ・スタート(6回3失点以内)を記録できておらず、どこまで復調できるかがカギになります。パドレスは早々にポストシーズン進出を決めており、短期決戦ではやはり怖い存在ですね
── その勝者がミルウォーキー・ブルワーズと「ディビジョンシリーズ」を戦うわけですね。
武田 ブルワーズは地区優勝した3チームのなかで最も高い勝率を誇り、レギュラーシーズンではドジャース相手に6戦全勝しています。ただし、ブルワーズはポストシーズンでは意外と結果を残せていません。もしパドレスが勝ち上がってくると、ラテン系の選手が多く、チーム全体のノリもよく勢いがあります。そのため、ブルワーズを食ってしまう可能性も十分にあり、ポストシーズンは本当に何が起こるかわかりません。
【ワールドシリーズ進出のキーマンは?】
── となると、ドジャースが2年連続ワールドシリーズを制するには、繰り返しになりますが、まずはディビジョンシリーズのフィリーズ戦がカギということですね。
武田 特にカギを握るのはブルペン(リリーフ陣)ですね。故障者リストから最終盤に復帰し、好調の片鱗を見せた佐々木朗希を"ここ一番の場面"で起用してくる可能性はあると思います。シーズン中に先発で使われていた投手のなかで、勝ちゲームを任せられるリリーバーといえば、エメ・シーハン(6勝3敗)や、先に触れたカーショーくらいでしょう。
── 日本人ファンとしては、ワールドシリーズで吉田正尚選手が所属するボストン・レッドソックスや、昨年戦ったニューヨーク・ヤンキースとの対戦を期待したいところです。
武田 ふつうに考えれば、アメリカン・リーグはその2チームと東地区優勝のトロント・ブルージェイズですよ。しかし、西地区を制したシアトル・マリナーズも今年は強いです。
── マリナーズは2001年以来、じつに24年ぶりの地区優勝を果たしました。
武田 今シーズンはカル・ローリーが捕手として初の60本塁打を放ちました(本塁打と打点の二冠)。投打ともに侮れないですよ。
── 思えば、昨年のワールドシリーズは大谷選手が第2戦で二塁盗塁時に左肩を負傷し、フレディ・フリーマンが4本塁打をマークしてMVPに輝きました。
武田 大谷は個人的に雪辱を期したいところでしょうが、今年はドジャースがワールドシリーズまで行くのは大変だと思います。
── 日本のポストシーズンとの違いは何かありますか?
武田 日本はCSファイナルステージで1勝のアドバンテージがありますが、メジャーのポストシーズンはアドバンテージなしのガチンコ勝負です。「3位からの優勝はおかしい」なんて声も上がりません。そしてメジャーのポストシーズンは、投手の使い方が本当に難しい。そのあたりにも注目して見ると、より面白くなると思います。