荒木雅博が今季台頭した二遊間を守る6人を解説(後編)
現役時代は球界屈指の名手で鳴らした荒木雅博氏に、今季台頭した二遊間プレーヤーを解説してもらう企画。後編ではオリックス・太田椋、巨人・泉口友汰、楽天・宗山塁とバッティングで魅了した3人について語ってもらった。
【力強さと対応力にすぐれたバッティング】
── 太田椋選手は高卒4年目の2022年、ヤクルトとの日本シリーズで史上初となる「初回先頭打者初球本塁打」を放ち、「オリックスに太田あり」を全国に知らしめました。そして今年の開幕戦(楽天戦)でも本塁打を放ち、チームに勢いをつけました。
荒木 日本シリーズの本塁打は、26年ぶり日本一をたぐり寄せる値千金の一発でしたね。とにかく太田選手は思いきりのいいスイングが特長で、前評判が芳しくなかったオリックスをバットで牽引しました。7年目にして、完全にレギュラーの座をつかみましたね。
── 太田選手のバッティングですが、具体的にどのあたりがいいのでしょうか。
荒木 初球からしっかりスイングできるということと、追い込まれても粘って、フルカウントまで持っていける。さらに引っ張れるし、流し打ちもできるし、対応力にすぐれたバッターですよね。私が中日の二軍コーチをしている時に、ルーキーだった太田選手を見ているのですが、スイングスピードは当時から速かったですが、バットのヘッドが投手方向に入るクセがありました。その状態から打ちにいったら、少しタイミングが遅れるかも......と思って見ていました。
── それがいまやリーグを代表する打者に成長しました。
荒木 今はグリップが頭の後ろあたりにあって、バットがスムーズに出ています。試合に出るなかで、いろいろと試行錯誤しながらやってきたんだろうなと推測できました。
── 太田選手をはじめ、オリックスはいい内野手が育っていますね。
荒木 サードの宗佑磨選手などもウエスタンリーグ時代から見ていますし、ショートの紅林弘太郎選手も若くて力強さがあります。入団した頃から見ている選手が一軍で活躍すると、親近感が湧いて応援したくなりますね。
【打撃急成長で定位置獲得】
── 泉口友汰選手は、大阪桐蔭時代は根尾昂選手、藤原恭大選手たちの1学年上で、その後、青山学院大からNTT西日本に進み、2023年のドラフトで巨人から4位指名を受けました。
荒木 ルーキーイヤーの昨年、開幕戦に代打で出場したり、戸郷翔征投手がノーヒットノーランした試合(5月24日の阪神戦)では唯一の得点となるタイムリーを放ったり、さすが名門で育ってきた選手だなという印象はありました。
── ただ今季、門脇誠選手がショートのレギュラーを獲ると思っていたら、泉口選手が台頭し、9月終了時点でリーグ2位の打率を残しています。
荒木 本当、そうですよね。あれだけバッティングで結果を残すと、使わないわけにはいかないですからね。
── 泉口選手のバッティングですが、どのあたりがいいのでしょうか。
荒木 泉口選手のように、バットをひと握り短く持つ選手は少なくなってきました。泉口選手は短く持って、コンパクトに強く振りきっています。じつにシンプルに、インコースにボールが来たら体をクルッと回転して打ち、外角の球はそのまま逆らわずに打つ。バットコントロールがすばらしいですよね。
── 社会人出身2年目でしっかり結果を残しました。
荒木 巨人の内野には、岡本和真選手、坂本勇人選手ら、実績ある長距離打者がいる一方で、吉川尚輝選手や門脇誠選手といった中距離打者も揃っています。そのなかで自分がどうやってプロの世界で生き抜くかを考えた場合、泉口選手はシンプルな打撃で率を残すことを最優先に考えたのかもしれないですね。主力がケガで不在の間、立派に穴を埋めました。
── ショートの守備についてはどうですか。
荒木 堅実ですよ。結果的として11失策はリーグ最多ですが、及第点だと思います。巨人の遊撃手といえば、坂本勇人選手が長きにわたって君臨し、その後を任されるということでプレッシャーは大きいでしょうが、門脇選手と切磋琢磨しながら、さらなる実力を蓄えていってもらいたいですね。
【さすが5球団が競合した逸材】
── 明治大時代、宗山塁選手は「10年にひとりの遊撃手」と高い評価を受けていました。
荒木 やはり打撃がシュアでいいですよね。細身ながら、しっかりスイングできて、飛ばす力があります。打撃も守備もすぐ順応して、開幕から試合に出続けているのは、さすが5球団も競合した選手だなと感じています。
── 広陵高時代は、渡部聖也選手と同級生でした。
荒木 同じパ・リーグですし、お互いいい刺激になっているのでしょうね。ふたりとも今年は多くの経験を積めたと思いますし、来年以降、どんな選手に成長していくのか楽しみです。
── 宗山選手は、鳥谷敬選手や坂本勇人選手が目標だそうです。
荒木 ふたりのように2000本安打、ゴールデングラブ賞を獲れる選手を目指してもらいたいですね。1年目のプレーを見る限り、十分に可能な目標だと思います。
── あえて課題を挙げるとすると、どのあたりになりますか。
荒木 昨年までは大学生だったわけです。春と秋のリーグ戦で、それぞれ最大でも15試合ほどです。それがプロでは毎日試合があるわけですから、体調の管理はもちろんですが、メンタルの部分も大事になってきます。結果に対して、一喜一憂している時間はありません。そのうえで、プロのスピード、確実性、技術の精度、スタミナをつけていくことが必要になってきます。
荒木雅博(あらき・まさひろ)/1977年9月13日、熊本県生まれ。熊本工高から95年ドラフト1位で中日に入団。02年からレギュラーに定着し、落合博満監督となった04年から6年連続ゴールデングラブ賞を受賞するなど、チームの中心選手として活躍。とくに井端弘和との「アラ・イバ」コンビは中日黄金期の象徴となった。17年にプロ通算2000安打を達成し、翌18年に現役を引退した。引退後は中日のコーチとして23年まで指導し、24年から解説者として新たなスタートを切った