蘇る名馬の真髄
連載第17回:セイウンスカイ
かつて日本の競馬界を席巻した競走馬をモチーフとした育成シミュレーションゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』(Cygames)。2021年のリリースと前後して、アニメ化や漫画連載もされるなど爆発的な人気を誇っている。
このキャラクターのモチーフとなった競走馬のセイウンスカイは、他馬を術中にはめるような策略的な逃げを繰り出し、ビッグタイトルを獲得してきた一頭だ。その最たるものが、1998年11月のGⅠ菊花賞(京都・芝3000m)だろう。
セイウンスカイの同期には、スペシャルウィークやキングヘイローなど、そうそうたるライバルがいた。これらの面々は、4歳(現3歳。※2001年度から国際化の一環として、数え年から満年齢に変更。以下同)となったこの年、クラシック三冠レースでしのぎを削っていた。
4月に行なわれた一冠目のGⅠ皐月賞(中山・芝2000m)では、セイウンスカイが先行抜け出しで勝利。
二冠目となる6月のGⅠ日本ダービー(東京・芝2400m)は、スペシャルウィークが前走の悔しさを晴らして圧勝。セイウンスカイは4着、キングヘイローは14着に終わった。
夏を越して迎えた三冠目の舞台――それが、セイウンスカイが真価を発揮した菊花賞だ。
1番人気はスペシャルウィーク。セイウンスカイはそれに続く2番人気で、3番人気がキングヘイローだった。
このレースに向かう前、セイウンスカイはダービー以来となった前走のGⅡ京都大賞典(京都・芝2400m)で、強豪古馬相手に芸術的な逃げを見せていた。スタートから後続を引き離して大逃げを打つと、3コーナーで一気にペースを落として体力を温存。後続との差はみるみるうちに縮まったが、そこできっちりと脚をタメたことで、直線に入ってからもうひと伸び見せてまんまと逃げきった。まさに"策士"たる姿を存分に見せつけた。
その前哨戦を経て挑んだ菊花賞。ここでもセイウンスカイは完璧な逃げを披露する。
秋晴れのなかでスタートを切った三冠最終戦。芦毛のセイウンスカイは、内からすぐに先手を取り、馬群をけん引した。最初の1000mの通過タイムは59秒6。長丁場の3000m戦においてこのペースは少し速いが、セイウンスカイは気持ちよく逃げた。ライバルのスペシャルウィークは中団の後方でじっくり待機。キングヘイローはその前にいた。
策士の真骨頂はここからだ。後ろを引き離したセイウンスカイは、勝負どころを前にしてペースを落として体力を温存する。現に中盤1000mのラップタイムは64秒3と、前半1000mよりも4秒7も遅かった。春からコンビを組み続ける横山典弘騎手の指示に従って、前走同様にペースを変えたのである。
しかし後続はこの間にセイウンスカイとの差を詰められず、残り1000mを迎えても大きなリードができていた。スペシャルウィークは依然として中団後方のまま。
4コーナーに差しかかったところでようやく、このレースは完全にセイウンスカイのものだと誰もが認識する。スペシャルウィークと武豊騎手も先頭を目がけてスパートをかけるが、ここまで完璧なラップを刻んだセイウンスカイの足取りは衰えない。むしろ、軽やかなフットワークで加速していった。
直線、大外からスペシャルウィークが懸命に脚を伸ばすが、2着を確保するのが精一杯。キングヘイローも伸びきれずに5着に終わった。
芦毛の馬体は最後までセーフティリードを保ったまま、ライバルたちに影をも踏ませなかったのである。横山騎手は、ゴールの瞬間に悠々と左手を掲げた。
セイウンスカイが刻んだ終盤1000mのラップタイムは59秒3。中盤の温存を経て、最後にペースを上げていることがわかる。おそらくこの人馬にとって、会心のレースだったのではないだろうか。