元スカウト・熊野輝光インタビュー(後編)
ドラフト会議のたびに賛否を呼んだ指名の裏には、チームを本気で変えようとする現場の「執念」があった。近本光司、大山悠輔、佐藤輝明......。
【独立リーグから指名が増える理由】
── 2025年ドラフト会議(10月23日)が近づいてきました。今年の注目選手はいかがですか。
熊野 今年から香川オリーブガイナーズの監督を務めており、こちらで忙しくて......。ただ、噂では絶対的な上位候補は例年に比べると、それほど多くないと聞きました。
── 何か理由はあるのですか。
熊野 昨今、社会問題になっている少子化により、ドラフトにかかるような選手の絶対数が減っています。またプロスポーツも野球だけではなくなり、サッカーやバスケットボールなど、子どもたちにさまざまな選択肢が出てきたことも要因です。かつてのように、身体能力の高い子が野球をやるという時代ではなくなりました。
── そのなかで、最近は独立リーグからドラフト指名される選手が増えています。
熊野 そうですね。阪神では2023年に椎葉剛がドラフト2位、昨年はドラフト4位、5位、さらに育成ドラフトでも4人全員が独立リーグ出身の選手でした。
── 一時期、独立リーグは「夢(プロ)をあきらめる場所」「現役に踏ん切りをつける場所」とも言われていました。
熊野 現実として、資金面の問題はあります。NPBのように契約金や支度金のようなものはありません。それに報酬はシーズン中の半年間なので、アルバイトや親の援助もプラスして、住居費、食費、光熱費を負担しなければなりません。ハングリー精神が必要ですね。
── 独立リーグのメリットは、どのあたりになりますか。
熊野 前期・後期合わせて68試合のリーグ戦があり、豊富な実戦経験を積むことができます。さらにプロ3軍との対戦もあるので、実戦的で確実に力がつきます。プロ志望でドラフトに漏れた選手も、社会人野球に進むと高卒なら3年間、大卒なら2年間はドラフト対象外になりますが、独立リーグなら1年で再び挑戦できます。NPBのドラフト候補が少ないといわれる年ほど、独立リーグの選手にもチャンスが広がると考えています。
── 2027年からセ・リーグでもDH制が採用されますね。
熊野 これまでは、打撃力はあっても守備力や走力が劣るタイプの選手は、どちらかといえばパ・リーグ向きとされてきました。ですが、これからはセ・リーグでも十分に活躍できるようになります。つまり、これまでプロ入りできなかった選手にもチャンスが広がるということです。だからこそ、2026年はスカウト活動の見直し期間と位置づけられ、正式導入が2027年になったのだと思います。
【執念を感じた2018年ドラフト「センター・1番」】
── 阪神のスカウトになられてからの話をお聞きしたいのですが、現在リードオフマンとしてチームを牽引されている近本光司選手は、外れ外れ1位入団でした。
熊野 2018年のドラフトでは、阪神はまず1位で大阪桐蔭の藤原恭大(現・ロッテ)を入札しましたが、抽選で外しました。次に立命館大の辰己涼介(現・楽天)を指名しましたが、これも外れ。そこで最終的に、大阪ガスの近本を指名することになりました。
── 1位指名を外した場合、別ポジションを含めて残っている実力のある選手を指名するか、2位で予定していた選手を繰り上げて指名するか、将来性を重視して高校生を指名するか。大別して、この3パターンだと思います。
熊野 だから、センターの選手を3人続けて指名した執念には、スカウトの私も驚きました。
── 振り返ると、2016年のドラフトで大山悠輔選手が1位指名された時には、会場にいたファンから悲鳴にも似た声が上がりました。
熊野 金本監督が決めました。金本監督は「阪神に合っている選手」を指名するという考え方です。大山もよく期待に応えて頑張ってくれています。
── かつては、阪神の指名選手は1位から6位まで、スポーツ紙にバッチリ当てられることがありました。関係者から情報が漏れていたのでしょうか。
熊野 それはわかりませんが、獲得順位が事前にわかってしまうと、ドラフト戦略に大きな影響を及ぼしてしまいます。以前は「1位は誰、2位は誰......」というように、6位までの指名選手をあらかじめ決めていました。しかしその後は方針を変え、候補選手をグループ分けして幅を持たせたうえで、ドラフト当日の午前中に球団幹部による会議で最終決定する形をとっています。こうした運用によって、近年は情報漏れのないドラフトを実現できるようになりました。
── 2020年のドラフトは、1位・佐藤輝明選手、2位・伊藤将司選手、5位・村上頌樹選手、6位・中野拓夢選手、8位・石井大智選手と、まさに「神ドラフト」となりました。
熊野 2023年、そして今年の優勝の大きな力となってくれました。それ以前、金本監督時代にヘッドコーチになり、のちに監督になる矢野燿大さんが坂本誠志郎(2015年ドラフト2位)や村上を強く推しました。このあたりは、捕手目線でさすがだなと思いました。
── 思えば、1999年、2000年のドラフト、もう四半世紀も前のことになりますが、当時の野村克也監督が「もう少しいい選手を獲ってくれないものか。編成と育成は球団の両輪や」とボヤいていたのを思い出します。
熊野 そうでしょうね(苦笑)。ドラフトは運もあります。2022年のドラフトでは、浅野翔吾(高松商→巨人)を外して指名した森下翔太が即戦力として活躍し、今やチームにとって欠かせない存在です。
── 阪神OBの田淵幸一さんも、優勝の要因のひとつとして「球団のスカウティングがよくなったことが大きい」と話していました。
熊野 FAやトレードで選手を獲得することも大事ですが、やはりチームを強化するうえで最も重要なことはスカウティングと育成だと思います。昨年のドラフトで1位指名した伊原陵人、2位の今朝丸裕喜のふたりは、私の担当でした。伊原は1年目から28試合に登板するなど頑張ってくれました。
【スカウトは投手と打者の「どこ」を見るのか】
── 「ドラフト候補生」がスポーツ紙や雑誌を賑わせますが、「プロで活躍するかどうかを見分ける」のは、また別物だと思います。どこを見るのですか。
熊野 投手を見る時は、まず体つきから始まり、投球フォームやヒジの使い方、特に柔らかく使えているかどうかをチェックします。そこからコントロールの良し悪しや、ケガをしにくいフォームかどうかも見極めます。重心が高いと球が浮きやすくなるんですよ。見誤りがないように、複数のスカウトで確認する"クロスチェック"も行なっています。
── 打者はいかがですか?
熊野 ポイントはスイング軌道です。バットがしっかり内側から出ているかどうか、そしてタイミングの取り方が変化球に対応できるか。そのあたりを重視して見ます。技術的な部分は、普段の試合や練習のなかで十分に観察できますし、球団ごとに独自のチェック項目があり、それに基づいて採点する仕組みになっています。
── 性格などはいかがですか?
熊野 高校生や大学生が「プロ志望届」を提出すると、球団スカウトは12球団共通の「調査書」(いわば野球版の身上書)を学校に持参します。
熊野輝光(くまの・てるみつ)/1957年8月28日生まれ。香川県出身。志度商から中央大、日本楽器を経て、84年ドラフト3位で阪急(現・オリックス)に入団。1年目から118試合に出場し、14本塁打を記録し、新人王に輝く。92年、トレードで巨人に移籍。93年に戦力外となり、94年にテスト入団でオリックスに復帰するも、同年限りで現役を引退。その後、オリックス二軍コーチ、スカウトを務め、巨人、阪神でも長くスカウトとして活躍した。2025年から香川オリーブガイナーズの監督に就任










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