ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

――先週行なわれた3歳「牝馬三冠」最終戦のGI秋華賞に続いて、今週は「牡馬三冠」の最終戦となるGI菊花賞(10月26日/京都・芝3000m)が行なわれます。

大西直宏(以下、大西)GI皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)、GI日本ダービー(6月1日/東京・芝2400m)とは、開催時期が違いますし、条件も大きく異なりますから、春の二冠とは違った能力が求められる一戦と言えますね。

――大西さんの現役時代における菊花賞の思い出はありますか。

大西 1987年、(ダービー2着の)サニースワローとのコンビで挑んだ時ですね。サクラスターオーが皐月賞との二冠を達成した時です。

「単枠指定」があった当時、ダービー馬のメリーナイスがそれに指定されて8枠に。おかげで、サニースワローは5枠に入ったのですが、同枠に(サニースワローを含めて)3頭もいたことを覚えています。

 レースでは好位のインを進んで、2周目に入ったあたりからメリーナイスのすぐ近くで追走する形になりました。メリーナイスは外枠からスタートして(好位へ)出していった分、かなり折り合いに苦労しているように見えました(結果は9着)。

 こちらは、持久力はあるものの、瞬発力勝負になると分が悪いので、なるべくロスなく運ぶことだけを考えていました。その結果、何とか見せ場をつくって、掲示板は確保することができました(勝ち馬からコンマ4秒差の5着)。

――さて、今年の菊花賞のメンバーをご覧になっての印象を聞かせてください。

大西 3000mの距離で争われる菊花賞は、3歳馬のほとんどの馬にとって未知なる条件。しかも、近年の競馬界は世界的にスピード重視がトレンドとなっているうえ、(長丁場の戦いは)レースを使ったあとの反動も懸念されることから、敬遠する陣営が少なくありません。

 こうしたことは最近の傾向であって今年に限った話ではないのですが、結果的に今回も皐月賞馬とダービー馬のエントリーはなく、タレント的にはやや寂しい顔ぶれになった印象があるのは否めません。

 とはいえ、スーパークリークやメジロマックイーン、キタサンブラックやタイトルホルダーなど、過去にはこの菊花賞を勝って以降、大きく飛躍して名馬になった馬がたくさんいます。そういう意味では、今年も"ニュースターの発掘"をテーマとした戦国の様相の、面白い菊花賞と言えるのではないでしょうか。

――抜けた存在がおらず、激戦が予想される菊花賞と言えそうですが、現時点で大西さんが有力視しているのはどのあたりでしょうか。

大西 基本的には、皐月賞、ダービーで勝ち馬と差のない競馬をした馬たち。それらの実力は、素直に評価すべきだと考えています。具体的には、ダービー3着のショウヘイ(牡3歳)、ダービー5着のエリキング(牡3歳)、皐月賞4着&ダービー8着のジョバンニ(牡3歳)といった面々ですね。

 これらがひと夏越して、どう成長してきたのか。3000mの距離適性はどうなのか。そういった点を見極めたうえで、夏の上がり馬たちと比較して、最終的なジャッジを下したいと思っています。

――現状、名前を挙げていただいた3頭と、今春のGⅡ青葉賞(4月26日/東京・芝2400m)を快勝し、夏のGⅢ新潟記念(8月31日/新潟・芝2000m)で古馬相手に2着となったエネルジコ(牡3歳)の評価が高そうですが、それらを脅かす存在、一発を秘めていそうな伏兵候補はいますか。

大西 正直、当日の人気がどのぐらいになるのか読めないのですが、武豊騎手騎乗のマイユニバース(牡3歳)に大きな魅力を感じています。

【競馬予想】上位混戦の菊花賞で最も不気味な存在――舞台を知り...の画像はこちら >>
――前走の2勝クラス・九十九里特別(9月20日/中山・芝2500m)では大逃げを打って、2着に7馬身差をつける圧勝劇を演じました。

大西 重賞経験はなく、格下と言える存在なのですが、前走の勝ちっぷりを見て直感的に「菊花賞でも惑星になり得る」と思いました。

 同レースでは好スタートからハナをきると、セーフティリードを守っての逃げではなく、前半から他馬を大きく引き離していきました。その後、最終の3~4コーナーを迎えて一旦、後続を引きつけたあと、直線に入ってから再び突き放すといった味のある勝ち方を披露しました。

 手綱をとったベテランの横山典弘騎手らしい、他馬を幻惑するようなラップの刻み方でしたが、あれは高い心肺機能、長距離適性がないとできない芸当。京都の芝3000mの舞台では、大きな武器になると思います。

 そして、今回の鞍上は武豊騎手。GIスプリンターズS2着のジューンブレアに続いて、先週の秋華賞でもエリカエクスプレスに騎乗してレースの主導権を握り、金星寸前の2着と奮闘しました。

 今回も、マイユニバースとのコンビで先手を奪うことは濃厚。人気上位勢にとっては、一番警戒しなければいけない人馬となるはずです。

――3000mという長丁場の戦いでは、騎手の手腕も重要視されるとよく聞きます。

大西 1年でも施行数が極端に少ない3000m戦。

そのGIの舞台において、歴代最多の5勝を挙げている武豊騎手。コースを熟知し、その豊富なキャリアから一番多くの引き出しを持っていることは間違いありません。誰よりも菊花賞の勝ち方を知っている鞍上を迎えてこの大一番に臨めることは、陣営にとっても心強い限りでしょう。

 この秋3戦目のGIで、"渾身の逃げきり"がついに実を結ぶ可能性は十分にあると見ます。ということで、マイユニバースを今回の「ヒモ穴」に指名したいと思います。

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