GI天皇賞・秋(東京・芝2000m)の見どころのひとつに、春のクラシックを沸かせた3歳馬vs歴戦の古馬といった対決の構図がある。直近2年は3歳馬の参戦がなく、そうした視点が題材になることはなかったが、今年のレース(11月2日)には2頭の有力3歳馬が出走する。

 ミュージアムマイル(牡3歳)とマスカレードボール(牡3歳)だ。

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 前者がGI皐月賞(4月20日/中山・芝2000m)の覇者で、後者は皐月賞3着、GI日本ダービー(6月1日/東京・芝2400m)2着という結果を残している。ともに古馬との対戦は今回が初めてだが、2頭の実力は古馬の、それも一線級相手に通用するのだろうか。関西の競馬専門紙記者はこんな見解を示す。

「今年の3歳牡馬は、レベルが高いと思います。この秋、世代最強のダービー馬クロワデュノールはフランスにわたって凱旋門賞に参戦。その前哨戦において、本番で勝利を収める馬に勝っていますからね。

 そのクロワデュノールに、皐月賞で勝っているのがミュージアムマイルで、ダービーで4分の3馬身差の2着まで迫ったのがマスカレードボール。どちらも世代トップレベルなのは明らかですし、皐月賞の走破時計が1分57秒0とレースレコードだったことからも、この世代のレベルの高さがわかるのではないでしょうか。

 しかも、天皇賞・秋では古馬牡馬との斤量差が2kgあります(古馬牝馬とは同斤量)。いずれも古馬一線級相手でも十分に戦えると思いますし、勝ち負けが期待できると見ています」

 天皇賞・秋を制した3歳馬と言えば、近年では2021年のエフフォーリア、2022年のイクイノックスがいる。イクイノックスはのちに世界ナンバー1まで上り詰めた最強馬であり、エフフォーリアも天皇賞・秋に続いてGI有馬記念(中山・芝2500m)も勝つほどの実力馬だった。

 天皇賞・秋を3歳で制するには、それほどの能力が必要となる。対して、ミュージアムマイルとマスカレードボールがそのクラスの馬かどうかは議論の余地があるかもしれない。

 だが、「レベルが高い」と言われる今年の3歳馬。なかでも、世代トップのクロワデュノールと際どい勝負を繰り広げてきた2頭であれば、能力的には古馬相手にも通用するレベルにあると見てもいいのではないか。

 ましてや、今年は古馬勢が手薄だ。GI馬は6頭いるが、GIを勝って以降、勢いを失っている馬が多い。古馬のなかで人気最上位と予想されるのが、7番人気の人気薄でGI宝塚記念(6月15日/阪神・芝2200m)を制したメイショウタバル(牡4歳)というのだから、あとは推して知るべし、である。

 となれば、先の専門紙記者が言うとおり、3歳馬の2頭が「勝ち負け」を演じることは大いに考えられる。

 ではこの2頭、どちらが強いのか。

 皐月賞ではミュージアムマイルが勝って、マスカレードボールが3着。ダービーではマスカレードボールが2着で、ミュージアムマイルが6着。実際に戦っている2戦は1勝1敗の五分だが、内容的にはどうだったのか。

先述の専門紙記者はこう分析する。

「皐月賞は、ミュージアムマイルが『これ以上ない』というくらい、すべてがうまくいった競馬で勝利。一方、マスカレードボールはそこまでうまく運ぶことができず、3着に終わりました。

 続くダービーでは、皐月賞馬ということで他馬のマークがきつかったミュージアムマイルと、自分の競馬に徹することができたマスカレードボールとの差が、6着、2着という結果に出ました。

 要するに、皐月賞、ダービーともに2頭の能力というより、勝負のアヤで着順が決まったようなもので、実力的にはほとんど差がないと見ています。それを示したのが、春のクラシック2戦だったと言っていいでしょう」

 今回の舞台は、東京・芝2000m。それに対する適性はどうか。

 距離的には、実際に2000mのGIをレースレコードで勝っているミュージアムマイルに分があると見ていいだろう。だとしても、その適性には大きな差はなく、直線が長い東京コースという点では、末脚秘めるマスカレードボールのほうが明らかに優位だ。

 また、マスカレードボールは右回りの中山では未勝利も、左回りの新潟、東京では計4回走って3勝、2着1回と相性がいい。さらに、専門紙記者もこう語る。

「(マスカレードボールは)府中のような広々としたコースのほうが、より適性があるようです。

府中の芝2000mが舞台となる天皇賞・秋は、この馬にとってはベストの条件と言っていいでしょう」

 天皇賞・秋においては長い間、3歳馬は古馬より劣るとされてきた。現にグレード制が導入された1984年以降、3歳馬で天皇賞・秋を勝ったのは、先に触れたエフフォーリア、イクイノックスの他に、バブルガムフェロー(1996年。※当時の馬齢表記では4歳)とシンボリクリスエス(2002年)しかいない。

 トップクラスの古馬の壁は、それだけ分厚いのだ。

 3歳馬がなかなか勝てない理由は、やはり競走馬としての完成度にある。ミュージアムマイルにしろ、マスカレードボールにしろ、まだ若さが抜けきれない面がある。それが、レースにおけるスタート時の出遅れにつながっている。今回も、2頭がその不安を抱えているのは確かだ。

 ともあれ、ミュージアムマイルにはクリスチャン・デムーロ騎手が、マスカレードボールにはクリストフ・ルメール騎手が騎乗する。名手の手腕によって課題をクリアし、道中スムーズに運ぶことができれば、勝つチャンスは巡ってくるはずだ。

 はたして、勝利の女神はどちらに微笑むのか。熾烈な争いから目が離せない。

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