第6回ワールド・ベースボール・クラシックWBC)で連覇を目指す侍ジャパンが、中日との強化試合初戦を終えた2月27日深夜。試合終了から約1時間半が過ぎ、日本代表の選手たちが宿泊する名古屋市内のホテル前をタクシーで通りかかると、ファンと思われるおよそ100人が外に集まっていた。

「こんなところに出てくるはずもないのにね」

 運転手はそうこぼしたが、待ち続ける人たちも、そのことは十分にわかっているはずだ。遭遇できる確率は奇跡的に低いとしても、ほんのわずかな可能性にかけたくなる。それこそが、スーパースターたるゆえんなのかもしれない。

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【圧倒的打撃を披露したメジャー組】

「指名打者、背番号16、大谷翔平──」

 バンテリンドームで行なわれた2月27、28日の強化試合では、試合前の整列時に大谷を紹介するコールが場内を大いに沸かせた。MLBの規定によりメジャーリーガーが出場できないことは誰もが承知していたが、それでも両日の主役は、間違いなく大谷だった。

 プレーボール約1時間半前、ファンはもちろん、両チームの選手や首脳陣までもが固唾をのんで見守ったのが、大谷の打撃練習だった。

「すごいです」

 定位置のショートで見守った源田壮亮は、感動をシンプルに表わした。

「見ていて楽しかったです。前回(2023年WBC)よりすごくないですか? 球場に出てきた時の歓声とか、前回よりすごいなって」

 源田と一緒にショートから見ていた井端弘和監督も、大谷の打球に見入っていた。

「やっぱり初速、打球が当たった瞬間の初速はすごいなと思いました」

 バットから「カン!」という乾いた音が鳴り響くと、数秒でスタンドに打球が突き刺さる。

「行った!」
「エグっ!」
「ヤバっ!」

 三塁側スタンドの記者席から見ていると、場内のあちこちから観客の感嘆の声が上がってきた。大谷にとっては、3月6日に初戦を迎えるWBCへ向けた調整にすぎないが、ファンにとっては、それは壮大なショーにほかならなかった。

 打撃ケージに多くの視線が注がれるなか、大谷に引けを取らない打球を放っていたのが、同じ組で打撃練習を行った鈴木誠也カブス)だった。

レフトスタンド5階席へ豪快に叩き込む一発も飛び出した。

 吉田正尚(レッドソックス)を含め、ひと足早く合流した3人のメジャーリーガーは、バンテリンドームでの打撃練習で実力をいかんなく披露した。

【牧秀悟が語った前回大会の反省】

 彼らの打棒に特別な感情を抱かされたというのが、森下翔太(阪神)だ。

「結果として、メジャーで活躍している選手たちと比べると、現時点ではまだ劣っていると感じます」

 森下は、鈴木や吉田と外野の一角を争う立場だ。28日の試合では、バンテリンドームに新設されたレフトのテラス席へ本塁打を放つ活躍を見せると、前述の言葉にこう続けた。

「自分のなかでも『できる』という手応えは、肌感覚としてしっかりあります。実際に体感してみて、そう感じられる部分もある。だからこそ、もっともっと上を目指してやっていきたいと思います」

 ハイレベルな争いが、侍ジャパンを活性化させる──。そのことを前回大会で身をもって味わったのが、牧秀悟(DeNA)だ。大谷のフリー打撃について問われると、こう答えた。

「すごいなというのは前回から感じていました。そのなかで、すごいなかに何があるのか。今回もしっかり見て、学んでいきたいと思っています」

 プロ入り3年目で初出場を果たした前回大会。

牧には反省が残っているという。

「前回は(大谷と)同じ打ち方をすれば飛ぶんじゃないかとかいう、安易な考えで打っていました。でも、自分はタイプが違うと思いますし、そこは反省もありました。(大谷は)すごいなかでも、どう体を使っているのか、自分に合うものを厳選できればと思っています」

 牧は28日の中日戦の初回、大野雄大の初球をレフトへ本塁打。甘く入ったカットボールを確実に捉えた。失投を見逃さない打撃は、本番でもカギになるだろう。

【勝敗を左右するのは効率的な長打】

 また27日の試合では、初回に昨季セ・リーグ二冠王(本塁打、打点)の佐藤輝明(阪神)が、ライトに3ラン本塁打。NPB組の主軸に一発が飛び出したのは、本番へ向けて明るい材料となった。

 短期決戦の行方を左右するのは、長打や本塁打である。27日の試合後、そう語ったのが松田宣浩コーチだった。

「前回の大会を振り返ると、(勝敗を左右するのは)基本的に効率的な長打。スモールベースボールというのがあるけど、(単打を)1、2、3本とつないでも1点。

そうではなく、長打が出れば一気に2点、3点と入る。ホームランを狙うわけじゃなく、コンパクトに打ちにいって長打が出る。佐藤選手の初球のホームランはすばらしかったです」

 名古屋で合流した大谷、鈴木、吉田の打撃練習を見て、松田コーチは打線のイメージが膨らんだという。

「今日はメジャーリーガーが3人でしたが、さすがだと思わせる打球のスピードとパワーを見せてもらいました。岡本(和真/ブルージェイズ)選手や村上(宗隆/ホワイトソックス)選手もいて、打線には厚みがあります。いかに甘い球を一球で仕留められるか。やはりカギは長打だと、あらためて感じました。

 鈴木選手もそうですが、練習から一球で仕留める意識がある。つなぐことも大事ですが、それ以上に『カン!』とひと振りで仕留める打撃が重要なのではないか。決して大味という意味ではなく、そういう野球かなと思います」

 大谷を筆頭に、パワフルなメジャーリーガーたちが今回のWBCでは打線の中心に座る。そこに佐藤、森下、牧、さらには近藤健介(ソフトバンク)というNPBの強打者も控えるなか、どのように相手投手を攻略していくのか。

 連覇に向けて期待が大きく膨らんだ、名古屋での強化試合2連戦だった。

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