東京ドームの駐車場につながるミックスゾーンでは、種市篤暉(ロッテ)や隅田知一郎(西武)、吉田正尚(レッドソックス)や鈴木誠也カブス)というオーストラリア戦の勝利の立役者たちをテレビ局が引き止め、カメラの横に大勢の記者たちが群がる。その長い通路の最後、まもなく出口というところで、近藤健介(ソフトバンク)はたった3人の記者の前で歩みを止めた。

「状態のことも、本当に首脳陣に気にかけてもらっていると思います。そういう意味では結果で応えたかったけど、なかなか難しいところかなと思います」

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【3連勝でプールCを1位通過】

 第6回ワールド・ベースボール・クラシックWBC)第3戦のオーストラリア戦で、日本代表の井端弘和監督はそれまでの2試合と打順を組み替えた。2番・鈴木、3番・近藤と、ふたりの順番を入れ替えたのだ。

 近藤が言うように、その意図は指揮官の気遣いだった。

「ちょっとでも、近藤選手になんとか結果が出ればというところで、打ってほしかったところはあります。大谷選手が歩かされるケースもあるというところで、このような打順になりました」

 だが、この日も近藤に快音は響かなかった。これで今回のWBCは3試合を終えて12打数無安打。出塁は四球をひとつ選んだだけで、期待されたヒットメーカーの役割は果たせていない。

 当然、その責任は近藤が最も感じている。

「周りのバッターが本当に調子いいので、僕が打てばもっと点が入ると思います。そのあたりの申し訳なさもあります」

 侍ジャパンはWBC初戦のチャイニーズ・タイペイ戦で13点、続く韓国戦では8点を奪って連勝。とくに1番・大谷翔平ドジャース)、前日まで3番に座った鈴木の圧倒的パワーが光った。

 そして8日の第1試合でチャイニーズ・タイペイが韓国を下し、日本の準々決勝進出が決まって迎えたオーストラリア戦。

相手投手陣に苦しめられるなか、7回に飛び出した4番・吉田正尚(レッドソックス)の逆転2ランで勝利を収めた。

【短期決戦で問われる近藤健介の真価】

 3連勝でプールCを首位突破したものの、オーストラリア戦の内容には一抹の不安も覚えた。大谷、鈴木、吉田に快音が聞かれなかったり、勝負を避けられたりした場合、チームの得点能力が一気に落ちるということだ。

 そこでキーマンになるのが、3人のメジャーリーガーにはさまれる近藤である。NPBで首位打者を1回、最高出塁率を4回獲得しているように、日本トップレベルのバットコントロールと選球眼を兼ね備えている。その実力は前回のWBCでも実証済みで、井端監督は全幅の信頼で"大谷のうしろ"という重責を担わせた。

 ここまで12打数無安打だが、状態的には決して悪いようには見えない。

「まあ、シーズンと違って結果が求められるので、そこはしょうがないところかなと思います」

 近藤に話を向けると、己の結果と向き合った。たった3試合ノーヒットというだけだが、それでも不安要素に挙げられるのが短期決戦である。

「いっぱい経験していますし、もちろんそういうものだと思います。そこで結果を出すことは、短期決戦では一番大事なのかなと思います」

 前回のWBCでは26打数9安打、2021年の東京五輪では6打数2安打で、ともに優勝に貢献。2019年のプレミア12では21打数4安打だったが、大会最多の9四球を選んだ。日本シリーズクライマックスシリーズ(CS)の経験も豊富で、短期決戦で状態を変えるための引き出しは持っているはずだ。

「それはあると思うけど、結果が伴わないと、なかなか難しくなってくるので。(短期決戦は)気持ちの部分のほうが大きいのかなと思います。短期決戦は打ち急いだり、状況もいろいろ変わってくるので、凡打でも最低限なんとか塁を進める。そういうところも大事になってくると思います。打席のなかで修正していくのは、練習じゃないと難しいところかなと思います」

 初戦のチャイニーズ・タイペイ戦では初回、1番・大谷が二塁打を放った直後、2番・近藤が一塁ゴロでサードに進塁させた。こうした打撃も、勝利に求められるところだ。

「そこが役割だと思っていますけど、ヒットでつなぐのも大事ですし、なかなか連打が難しいなかでのフォアボールも大事になってくる。打てなくても貢献していきたいけど、まだそこまで至っていません。試合に出るのであれば、何かの形で貢献しないといけないなと思います」

【準々決勝を見据えたチェコ戦の意味】

 オーストラリア戦で8回一死満塁から鈴木の押し出し四球でリードを4対1に広げると、井端監督は近藤に代打・森下翔太(阪神)を送った。短期決戦を勝ち抜くには不調の打者を見切り、勝負を仕掛けることも必要だ。

 結果的に森下はショートへの併殺でチャンスを潰したが、準々決勝以降を見据えたら、少しでも打席を与えて状態を上向かせていきたいところだろう。

 対して代打を出された近藤も、凡打の内容は悪くなかった。

3回、真ん中高めのストレートをセンターに放った飛球は、紙一重だった。

「そうですね、ちょっとこすっています。ちょっと結果をほしがって、合わせている感じがまだあるので」

 打ちたい、打ちたいという思いが強すぎ、打撃技術が微妙に狂っている。稀代のヒットメーカーといえども、気持ちに引きずられるのが短期決戦の怖さだ。

 アメリカに舞台を移して以降は、一発勝負が続く。負ければ終わりのなか、指揮官はどんな決断を下すのか。

 オーストラリア戦の8回には、代打・佐藤輝明(阪神)がレフトオーバーのタイムリー二塁打を放った。前日の韓国戦では代打からライトの守備に就いたが、今後は昨季セ・リーグ二冠王を外野でスタメン起用する手もあるだろう。サードの岡本和真(ブルージェイズ)、ファーストの村上宗隆(ホワイトソックス)の調子も決してよくないが、井端監督には打てる手が残されている。

 準々決勝以降を見据えるうえで、重要になるのが10日のチェコ戦だ。井端監督はここまでベンチに回っているメンバーの起用を示唆したが、近藤には打席を与えたいところだろう。どんな形でも大会初安打が飛び出せば、好調のメジャーリーガー3人が座る上位打線の潤滑油になるはずだ。

 幸いにも、9日は日本の試合が組まれていない。練習する場所があれば、近藤はバットを振りたいという。

「プラスの1日にしたいです。本当に早めに1本出して、気持ち的にも楽になりたいと思います」

 準々決勝以降はドミニカ共和国やベネズエラ、アメリカやメキシコとの対戦が予想され、相手投手のレベルは格段に上がる。強豪を3度破って頂点に上り詰めるために、カギを握るのは近藤の復調だ。

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