WBC連覇の期待を背負った侍ジャパンは、準々決勝で力尽きた。しかしその戦いは、本当に「敗北」と片づけられるものだったのか。

世界のトップレベルが集結した今大会で浮き彫りになった現実と課題とは? 小早川毅彦氏が、侍ジャパンの戦いを振り返る。

【WBC2026】侍ジャパンが見せつけられた世界との差は何か...の画像はこちら >>

【高まるWBCという大会の価値】

── 侍ジャパンは残念ながら、準々決勝で敗退という結果になりました。しかし大会全体を見れば前回大会以上に盛り上がったと思います。小早川さんは今回の大会をどのようにご覧になっていましたか。

小早川 非常に面白かったですね。WBCという大会がここまで大きな盛り上がりを見せるようになったのは、各国代表選手が本気で戦っているからだと思います。その真剣勝負こそが、人々を惹きつける最大の魅力であり、大きな力になっていると強く感じました。

── 閉会後、アメリカ代表のアーロン・ジャッジ(ヤンキース)が「ワールドシリーズよりこっち(WBC)のほうが興奮するし、意義がある」との主旨のコメントをしていました。

小早川 まさに選手たち自身が、この大会の価値を高めてきたのだと感じます。第1回大会と比べると、今ではどの選手も「参加したい」「優勝したい」という思いがより強くなっている。もはや単なるイベントではなく、確固たる位置づけを築いた大会だと、今回あらためて強く感じました。

── コミッショナーが次回大会の前倒しや、シーズン中のリーグ中断の可能性についても言及しています。ビジネス面だけでなく、競技としても大きくなっていくのでしょうか。

小早川 そう思います。よくサッカーのワールドカップと比較されますが、同じような存在になってほしいですし、実際にそうなりつつあると思います。前回、そして今回の大会を見れば、その流れは十分に予想できますよね。

 もしコミッショナーがシーズン中断について言及されたのであれば、それが最も望ましい選択だと思います。3月開催は調整の難しさもありますから。サッカーのワールドカップのような大会へと発展させたい。そんな意図があるのではないでしょうか。

【単純にベネズエラが強かった】

── 侍ジャパンがどのように戦い、優勝を目指すべきかについてうかがいます。世間では、メディアもファンも「連覇」を当然のように期待していましたが、小早川さんはどのように考えていましたか。

小早川 連覇というのは、決して簡単なことではありません。それでも、連覇してほしいと信じていましたし、実際の戦い方も予選ラウンドまでは全勝でした。内容を見ても、決して悪くはなかったと思います。

── 今回のジャパンの選手選考や戦術についてはどう感じられましたか。

小早川 僕はベストメンバーだったと思います。現時点での日本の最強布陣でした。正直に言って、大会前から「このメンバーで結果がどうなったとしても仕方ない」と思えるだけの顔ぶれでした。優勝を信じてはいましたが、仮に届かなかったとしても納得できる、そういう布陣だったと思います。

── 予選ラウンドは4戦全勝でしたが、準々決勝で敗退しました。敗因はいくつも考えられますが、戦いぶりからはやはりパワーの差、そして「野球」と「ベースボール」の違いを見せつけられたという声もありましたが。

小早川 いや、僕のなかでは「野球が変わる」という感覚はありませんでした。よく「スモールベースボール」と言われますが、それも僕のイメージとはまったく違います。今回の敗戦について、「日本はスモールベースボールのほうが......」という声もありますが、僕はそうは思いません。

── 小早川さんの考える「敗因」とは何でしょうか。

小早川 今回の敗因は、単純に「相手のほうが強かった」からだと思います。ベネズエラのほうが、メンバー的にも実力的にも明らかに上でした。

単純に相手が強いから負けただけで、あれこれ負けた理由を探すようなことではありません。正直、あのような相手に対しては、スモールベースボールでは勝つことは難しいでしょう。

 ただ、気になったのはストライクゾーンです。日本での試合も海外での試合も見ていましたが、全体的にゾーンがかなり狭く感じられました。メジャーでローテーションを守っている投手でさえ、苦労していました。

── 投手にとっては、厳しい大会だったと。

小早川 結果、カウントを不利にしてしまい、ストライクを取りにいった球を打たれる場面が目立っていました。メジャーのトップクラスの投手ですら失点しているのを見て、「これは日本も同じ状況になるだろう」と、予選の段階で感じていました。

【メジャー打者のスイングの変化】

── そのほか、感じたことはありましたか。

小早川 まず投手からすれば、大会の時期はコンディションが万全ではなく、本来のストレートの最速が出にくい。球速が落ちる分、どうしても捉えられやすくなります。そしてもうひとつ、打者のスイング軌道も変わってきています。少し前まではアッパースイングが主流で、投手は高めのストレートで攻めることができました。

しかし今は、その高めの球にも対応できる軌道へと変化している。そのためミスショットが減り、カウントを悪くしてストレートを投げた際には打たれる確率が高くなっている。

── 日本の攻撃についてはいかがでしょうか。長距離打者を並べた打線でしたが、結果として機能しませんでした。

小早川 あれほどの技術を持った投手が相手ですから、スモールベースボールでかき回して1点を取りにいっても、5点、6点取られてしまえば勝負になりません。さらに言えば、アメリカやドミニカといったチームは、総合力で見ても日本より上でしょう。日本が勝つためには、やはり力をつけていくしかないと思います。

── その「力」というのは、具体的にどういうことでしょうか。

小早川 今回の日本も、大谷翔平選手を筆頭に、鈴木誠也選手、吉田正尚選手、村上宗隆選手、岡本和真選手といった打者が並びました。今回、村上選手や岡本選手は苦しみましたが、彼らもさらに力をつければ、他国と同じ土俵で戦えるはずです。重要なのはスピードとパワーです。より正確に言えば、「確実性を高めること」だと思います。

飛距離を伸ばすというよりも、スイングを鋭く、速くしてミート率を上げる。私はもう何年も前から言ってきましたが、その発想にスモールもビッグもないと思います。

── ということは、今やNPBの選手であっても、メジャーリーガーに匹敵するレベルでなければ通用しない大会になってきている、ということでしょうか。

小早川 そうですね。今のように日本人選手のメジャー挑戦が増えていけば、いずれはメジャーリーグ所属の選手を中心としたチーム構成になっていくでしょう。ただ、野球は9つのポジションで成り立っていますから、ショートやセンターには守備力の高い選手を置くという考え方は変わりません。これはアメリカや他国の代表チームでも同じですからね。

【WBCにピッチクロックは必要か?】

── 日本は、野球そのものを変える必要はありますか。

小早川 それは今のままでいいと思います。戦術面では、まだ日本のほうが優れている部分があります。試合中の牽制やフォーメーションなどですね。日本人は全員が「高校球児」でしたから(笑)。

高校野球でそういう基本的な戦術をすべて教わっている。これは強みです。

── ルールに関していえば、NPBの選手会などから「アメリカに近いルール(ピッチクロック等)を採用してほしい」という声があるようですが。

小早川 僕の個人的な考えですが、WBCこそピッチクロックは必要ないと思うんです。あれは試合時間を短縮して、お客さんの利便性を高めるためのものでしょう。でも、WBCを見ているお客さんは「早くしろ」なんて思っていない。むしろ、じっくり見たいはずですし、それくらい惹きつけるものがあるすばらしい大会でした。

 それに、10回からのタイブレークも、WBCでは導入する必要はないと考えます。国内リーグ、たとえばメジャーの事情で採用するのは理解できますが、国際大会にまで持ち込む必要はないでしょう。お客さんが一球一球を真剣に見ているなら、退屈に感じることはないと思いますから。

── メジャー組が主軸になると、合流が直前になりチームづくりが難しくなるという意見もあります。

小早川 たしかに、それはあります。ただ、ドミニカやベネズエラの選手たちは「3日一緒に過ごせばもう大丈夫だ、兄弟なんだから」と言って、ホームランが出れば全員で喜びを爆発させていた。あのような気持ちで臨む大会ですから、プロであれば、直前に合流しても十分に機能すると思います。日本も同じです。チームとしてある程度形ができているところにメジャーリーガーが合流し、その動きをさらに大きく、強くしてもらう。それで完成するのではないでしょうか。兎にも角にも、今回のWBCがファンにとっては夢のような時間だったことは間違いないですね。


小早川毅彦(こばやかわ・たけひこ)/1961年11月15日生まれ。広島県出身。PL学園では2度の甲子園出場を果たし、法政大では1年春から4番を務め、4度の優勝に貢献。2年秋のリーグ戦で三冠王を獲得。83年のドラフトで広島から2位で指名され入団。1年目から打率.280、16本塁打を記録し、新人王に輝く。97年にヤクルトに移籍し、開幕の巨人戦で史上3人目の開幕3打席連続本塁打を放つ。99年シーズン限りで現役を引退。現在は、プロ野球、MLBの解説を中心に活躍している。

編集部おすすめ