福井工業大野球部を支える指導者たち 前編

【1997年のセ・リーグ新人王】

 6月14日、春の大学日本一を決める全日本大学野球選手権の決勝が行なわれ、関西大学が54年ぶり3度目の優勝を果たした。

 昨年の同大会でノーシードから勝ち上がり、準優勝で大会を終えた福井工業大は、今季は優勝を見据えていた。昨季までヘッドコーチを務めた黒坂洋介氏が新指揮官に就任。

今春の北陸大学リーグで8連勝を記録するなど強さを見せたものの、同じ北陸大学野球春季リーグ1部で鎬を削ってきた金沢学院大に最終週で連敗を喫し、全日本選手権への出場を逃すことになった。

 就任2年目を迎えた澤崎俊和コーチも、悔しさを滲ませた。

「ひとつ転んだらどうなるかわからない試合が続くリーグ戦は、毎回本当に大変で、一度たりとも簡単な場面はありませんでした。学生のリーグ戦なので、年ごとに戦力の違いもありますし、毎試合勝てるわけではないことも理解していますが......」

元カープ新人王投手が、大学のコーチとして向き合う学生指導の難...の画像はこちら >>

 青山学院大から、1996年ドラフト1位(逆指名)で広島カープに入団した澤崎氏は、ルーキーイヤーの1997年に12勝(8敗)をマークして新人王を獲得。38試合に登板した背番号14は、同年のドラフト2位で6勝を挙げた黒田博樹氏らとともに先発ローテーションを支えた。

 1999年には、不調の小林幹英氏に代わってリリーフエースを任され、14セーブを記録。だが、その後は怪我に泣かされて初年度ほどのパフォーマンスは発揮できず、プロ8年目の2005年にユニフォームを脱ぐことになった。

「選手時代に、自分で『投げすぎている』と思ったことは、一度たりともありませんでした。でも、現役時代を冷静に振り返ってみると、『準備の段階でもう少し工夫できたのかな?』と思うことはありますね。

 ブルペンにいると、どうしても不安になり、つい投げてしまうんですよ。当時の僕にもう少し知識があれば、球数を抑えられたのかもしれませんが、今思えば少し勉強不足だったのかな」

【初めての学生の指導で伝えていること】

 そう現役時代を振り返る澤崎氏は、2006年から2021年まで広島の投手コーチを務めたあと、独立リーグ3球団の指導者として活躍。そして2025年には、広島のチームメイトだった町田公二郎氏(現・専修大監督)が指揮する福井工業大の投手コーチに就任した。

「学生の指導は初めてだったので、レベルについてはよくわからない部分もありましたが、元気で礼儀正しい部員ばかりだったので、やりやすさはあったと思います」

元カープ新人王投手が、大学のコーチとして向き合う学生指導の難しさ 現役時代とのギャップにも「日々勉強です」
インタビューに答えた澤崎氏 photo by Junichi Shiratori

 福井工業大は、澤崎氏が「しっかりとゲームを作ってくれて、頼りになる存在」と話すエースの藤川泰斗(4年)や、福井工大福井高校時代にドラフト候補として注目を集めた最速152キロ右腕、向嶋大輔(4年)が投手陣の中心。

それに加え、見どころの多い新入生も加わって陣容に厚みが増した。

「選手たちには『数年後をイメージして、なりたい自分でいるためにすべきことを考えるように』と伝えています。3月まで雪が降りしきる不利な環境でも、選手たちはその言葉を真摯に受け止め、筋力トレーニングなどに一生懸命に取り組んでくれました」

 澤崎氏はそう選手たちの努力を讃えるが、近年は球数制限やピッチクロックの導入など、野球のルールや取り組む環境が急激に変化している。

「近年は投手陣の球速が上がってきていて、身体への負担が増えているような気がします。その一方で、100球を超えて投げ込むことはそうそうなくなってきましたし、何かと効率が重視される傾向はありますが、個人的には『もう少し繰り返し練習したほうがいいのでは?』と思うこともあって。

 スマートフォンを駆使して、独学でトレーニングを学ぶこともできる時代ではありますが......あまりあちこち見るよりも『大学生活を通して自分がどのような姿になっていたいのか。それを考えながら練習に取り組むように』と、選手たちには伝えています」

プロ野球での経験も踏まえた指導】

 北陸大学リーグ1部は、毎年2回、全6チームによる2勝先勝の勝ち点制で順位が競われる。福井工業大は今季から、シダックス時代に野村克也氏の薫陶を受け、埼玉県の昌平高校を強豪校に育てた黒坂氏が新指揮官に就任。チームが掲げる「積極的に動く野球」の実現に向けて、学生たちと向き合っている。

「選手たちには、なるべく疲労を溜めずにマウンドに上がらせてあげたい気持ちもあります。ただ、どんなに頑張っても最大15試合ですから、時には連投をお願いすることもゼロではないと思います」

 自身の経験を交えながら、投手起用についてこう続けた。

「結果に関わらず、登板を終えた投手には声をかけるようにしています。

そして、何ができていて、レベルアップに向けて何が必要なのかを確認する。誰でも打たれることはありますし、僕自身もそんな経験のほうが多かったような気がしますけど、学生は試合が限られていますからね。

 最終回を任される抑え投手も、いちいち冷静に考えていたらボールを投げることすらできないくらい精神的に堪えますし、結果が出なかった時の悶々とした気持ちを切り替えるのは本当に難しい。そのような大学野球特有の難しさを感じながら、選手たちと過ごしています」

 昨年の躍進を支えた3年生が最高学年を迎え、悲願の日本一達成に向けて順調な滑り出しを見せるも......全勝同士で迎えた金沢学院大戦で、延長タイブレークに突入した接戦を落とし、まさかの2連敗。思わぬ形で全国制覇の道は潰えることとなった。

「福井工大野球部は日本一を目指していて、全国の強豪校と互角以上に渡り合えるようなチーム作りを進めていますが、接戦続きの北陸リーグを勝ち上がることも大変なんです。この悔しさをバネにして、さらに全体のレベルを上げていく必要があると思います。日々勉強ですね」

 例年ならば春のリーグ戦、大学選手権を終えると多くの4年生が引退するのが福井工業大の慣わしだが、今年は大半の4年生がプレー続行を決断した。学生生活最後のシーズンを最高の形で締めくくるために。実りの秋に向けて、暑く、厳しい夏がやってくる。

(後編:ノムさんの教えを胸に福井工業大を指揮 黒坂洋介監督が着手したチーム改革と、全国制覇のために「足りないもの」>>)

<取材協力/秋山高志>

編集部おすすめ