大谷翔平がスーパースターの地位を確立しても、なぜMLBで二刀...の画像はこちら >>

前編:メジャーリーグで二刀流選手が増えない理由

大谷翔平がメジャー史に残る活躍を続けるなか、ふと感じたことがある。なぜ大谷に続く二刀流選手がメジャーリーグで出てこないのか? 成功を収めたスタイルを持つ選手が増加するのは、常のはずである。


実際、リーグは二刀流選手の出場を可能にするため、「大谷ルール」も設け、ドラフトでも2021年からの5年間で、実に22人の二刀流選手が指名され、プロ入りしてきた。
前編ではルール、ドラフト指名された二刀流選手の視点から考えてみる。

【「大谷ルール」は特例のためではなかったのだが......】

 2026年4月24日のこと。ドジャースタジアムで取材していた私は、シカゴ・カブスのクレイグ・カウンセル監督が「大谷ルール」を巡る質問を受ける場面に居合わせた。その前の週、カウンセル監督は大谷翔平の二刀流登録制度について「よくないルールだ」と発言し、大きな話題になっていた。

 現在のMLBでは、投手としても野手としても出場する「二刀流選手」は、通常の投手枠とは別枠で登録できる。そのためロサンゼルス・ドジャースは大谷を二刀流選手として登録することで、実質的に14人目の投手を保有できる。この優遇措置をカウンセル監督は問題視したのである。

 もっとも、本人は発言がここまで大きく扱われるとは思っていなかったようだ。

「実は別の質問に答えていたんです。もともとの質問は、その件とは関係ありませんでした。ただ、こういうことは時々あります。質問に答えていると、そのなかで一番興味深い部分だけが切り取られて記事になるんです」

 そう説明したカウンセル監督は、明らかにこの話題を早く終わらせたそうだった。

 だが私は、そのやり取りを聞きながら残念な気持ちになった。せっかく二刀流選手を後押しする制度があるのなら、それを批判するのではなく、なぜ大谷以外にその恩恵を受ける選手が現れないのかを議論すべきではないだろうか。どうすれば30球団すべてが、その制度を活用できるようになるのか。むしろ問うべきはそちらのはずだ。

 そもそも、この制度が作られた目的もそこにあった。2019年、MLBと選手会は「二刀流選手」という新たな登録区分を創設した(施行は2020年より)。当時のMLBは、救援投手の増加を抑えるため、新しい26人ロースター制度に登録できる投手を最大13人までに制限しようとしていた。しかし投手としても野手としても出場する選手まで通常の投手として扱えば、二刀流に挑戦する選手が不利になる。そこで一定の条件を満たした二刀流選手については、投手13人制限の対象外としたのである。のちに2022年には、先発投手として登板した選手が降板後も指名打者として出場を続けられる、もうひとつの「大谷ルール」も導入された。

 重要なのは、これらの制度が大谷ひとりを特別扱いするために作られたわけではないということだ。リーグと選手会は当時、「二刀流選手を増やすこと」を制度の目的として説明していた。

第二、第三の大谷が現れる未来を見据え、その育成を後押しするためのルールだったのである。

【二刀流でドラフトされたエルドリッジの場合】

 しかし現実は違った。2021年から2025年までの5年間で、二刀流選手としてドラフト指名された選手は22人いた。だが、その多くはプロ入り後に投手か打者のどちらかに専念している。サンフランシスコ・ジャイアンツのブライス・エルドリッジは打者を選び、カンザスシティ・ロイヤルズのジャック・カグリオーンも投手を断念した。ニューヨーク・メッツのノーラン・マクリーンは逆に打者をあきらめ、投手としての道を進んでいる。

 なぜ二刀流を目指した若者たちは、プロに入ると二刀流を続けられないのか。その答えを探るため、私はエルドリッジ本人に話を聞いた。

 5月13日、エルドリッジはジャイアンツの一員としてドジャースタジアムを訪れていた。試合開始までまだ5時間近くある午後2時半、特打ちを終え、ダグアウトのベンチに腰掛けた。身長201センチ、体重113キロ。体格だけを見れば圧倒的な存在感だが、その表情にはまだ21歳らしい初々しさも残っていた。私は率直に尋ねた。

プロ入り前、本当に二刀流を続けたいと思っていたのか。

 返ってきた答えに迷いはなかった。

「ええ、もちろんです。100%やりたかったです。ドラフト前から、それが自分の望みだと各球団にも伝えていました」

 そう言った後、少し言葉を選ぶように続けた。

「ただ、実際にプロへ入って契約すると、いろいろなことが変わります。球団が『これが君にとって最善だ』と考えるなら、それに従うのが選手です。だから振り返ると、二刀流を試す機会があればよかったなとは思います」

 私はさらに尋ねた。二刀流に憧れたのは、大谷の存在があったからなのか。エルドリッジは即座に答えた。

「100%そうです。僕が二刀流を志したのは、大谷がやっていたからです。

最高レベルでそれをやり、あれだけの契約も手にした。選手なら誰だって魅力を感じます。誰だって大谷のようになりたいし、しかも彼は、二刀流が可能だと証明しました」

 さらにこう付け加えた。

「もちろん、実際にそれをやっているのは、今でも彼だけです。でも彼は子供たちに夢を与えています。投げて打ちたいと思う多くの若い選手たちにとって、本当に大きな存在です」

 興味深いのは、エルドリッジが二刀流をあきらめた理由だった。才能が足りなかったからではない。高校時代は最速97マイル(156.1キロ)を記録し、多くのスカウトから打者以上に投手として高く評価されていた。だがプロ1年目は肩の違和感もあり、野手として31試合に出場した。その過程で球団は将来性を見極め、打者専念を決断した。もっとも現在のエルドリッジは、その判断が間違っていなかったことを証明しつつある。ジャイアンツの将来を担う若手として期待に応えている。

【「二刀流選手」の認定基準が足かせに?】

 球団の立場も理解できないわけではない。400万ドル(約6億4000万円)の契約金を払った金の卵で、二刀流は肉体的にも精神的にも負担が大きく、いずれかに専念させたほうが成長も早く、故障リスクも管理しやすい。おそらくカグリオーンもマクリーンも、同じような理由だったのだろう。だがエルドリッジの言葉は、ひとつの事実を示していた。大谷に憧れ、二刀流を夢見る若者たちは確かに存在する。問題は、その夢を持った選手たちが、プロ入り後も二刀流を続けられる環境が用意されていないことなのだ。

 大きな障壁は、2020年に導入された「二刀流選手」の認定基準である。現在のMLBで二刀流選手として認定されるには、メジャーリーグで1シーズンに投手として20イニング以上登板し、さらに野手または指名打者(DH)として20試合以上先発出場し、それぞれの試合で3打席以上立たなければならない。一見、合理的な基準に見える。しかしながら、その条件を満たすまでの道筋はほとんど存在しない。

 例えば、まず野手としてメジャーロースター入りした選手を考えてみよう。その選手がマウンドに上がれるのは、延長戦や大差の試合など限られた場面だけ。

そこで20イニング以上を積み重ねるのは現実的ではない。

 では、逆に投手として登録された場合はどうか。今度は20試合以上、野手またはDHとして先発出場しなければならない。しかしそのためには、チームは貴重な投手枠をひとつ使いながら、その選手を野手としても起用し続けなければならない。優勝を争うチームであればなおさら難しい。球団からすれば、「そこまでして二刀流を試す必要があるのか」という結論に至る。

 皮肉なのは、MLBがこの制度を導入した際には「二刀流選手を増やしたい」と説明していたことだ。しかし実際には、この制度は、すでに二刀流として成功した選手を認定する仕組みであって、二刀流選手を育てる仕組みではない。エルドリッジのような若い選手に必要なのは、二刀流に挑戦する過程を保護し、球団が安心して試せる環境を作ることである。現在の制度には、その発想が決定的に欠けている。そしてそれはとてももったいない。

後編につづく:大谷翔平が生み出した二刀流の価値を「唯一無二」で終わらせてしまっていいのか?

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