八村塁と河村勇輝が示す「世界基準」 バスケ日本代表、ワールド...の画像はこちら >>

来年、カタールで開催される男子バスケットボール・ワールドカップ。その出場権をかけてアジア予選を戦う日本代表が、新たなフェーズに入った。

今年2月に強化体制が一新され、新ヘッドコーチには桶谷大氏が就任。8月28日未明(サウジアラビア戦)、31日(カタール戦)の同予選Window4を戦うチームには、NBAで先発クラスの八村塁、NBA挑戦3年目を迎える河村勇輝が加わった。ふたりが日の丸をつけて戦うのは、パリ五輪以来2年ぶりのこととなる。

八村が再び日本代表に身を置いたことは、果たしてチームにとってどのような意味を持つのか。河村の視点も合わせて紹介しつつ、「史上最強チーム」と呼ばれる日本代表の現在地を探る。

【「世界基準」に触れる機会を日本にもたらした八村の参戦】

 会場の中央にぶら下がったビジョンに八村塁(ロサンゼルス・クリッパーズ)の顔が大映しになると、東京・有明アリーナには歓声が地鳴りのように響いた。

 月末にFIBAワールドカップアジア予選Window4を控えた男子日本代表チームは8月15日からの2日間、韓国との強化試合を2試合戦ったが、初戦の選手入場時にはそのような光景があった。

 八村が日本代表に戻ってきた。この2年、NBAに挑戦しているもうひとりの人気者、河村勇輝(クリッパーズとエグジビット10契約)もこの2連戦のメンバーに名を連ねた。ふたりが日本代表のユニフォームを着るのは一昨年のパリ五輪以来。しかもその間、八村と日本バスケットボール協会(JBA)の間には雪解けが相当に困難ではないかと思われた確執もあった。

 八村に関して言えば、日本の観客の前でのプレーは2021年の東京オリンピック直前の強化試合以来(オリンピック自体は無観客での開催だった)、5年ぶりだった。こうした事情を鑑みれば、ファンがふたりの登場にどよめいたのは、単に彼らの人気によるものだけではなかったとも言えた。

「今、日本のバスケは黄金時代にあると思います。それを無駄にしてはいけないですし、チームが崩れてはいけないと思います」

 試合を翌日に控え、八村はこのように話した。自身が日本代表活動に参加できる状況にありながら、参加しなければ最強のチームを構成できない。「崩れてはいけない」という言葉は、そのような意味で解釈できる。

 最強のチームで臨む――。

 昨秋から今年2月にかけて、男子日本代表チームを取り巻く環境は大きく変化した。JBAをはじめとするバスケットボール界は、これから世界と伍して戦えるチームになるという大きな目標を掲げる。JBAは今後、中長期で物事を考えつつさまざまな取り組みに着手していくが、その「一丁目一番地」として掲げていることが先に記したフレーズだ。

 最強の面子を揃えるのは言うほど容易いことではないが、この夏、NBAで活躍する八村塁と河村勇輝がパリ五輪以来の代表活動に参加していることで、国内のファンやメディアを色めき立たせている。

 JBAは「日常に世界基準を」というフレーズを掲げている。世界のスタンダードに合わせた環境に触れる機会を作り、トップ代表のみならず、国内バスケットボール全体の競技力向上を図っていく狙いだ。

 今夏、八村は昨年に引き続き次世代選手育成プロジェクト「BLACK SAMURAI」を主宰。

U18男子代表の合宿が強化の一環としてこのイベントに組み込まれるなど、前例のない試みもなされた。このプロジェクトで八村は「世界基準」の技術、トレーニング、気持ちの持ちようなどを参加者らに伝えた。

 つまり、八村の日本代表参加は、突出した才能が加わったというだけではない。NBAという世界最高峰で先発の地位を確固たるものとし、実績を積み重ねてきた選手を通して、周囲が「世界基準」に触れる機会を享受できたという点でも、大きな波及効果がある。

【前日練習で見せた八村と河村のワークアウトの意図】

八村塁と河村勇輝が示す「世界基準」 バスケ日本代表、ワールドカップ予選Window4で問われる「最強チーム」の現在地
河村勇輝もNBA挑戦3年目を迎える選手としての成長を、日本のコートで示した photo by Yoshio Kato
 同じことは、NBA定着を目指し、技術や体づくり等でたゆまぬ努力を重ねてきた河村にも言えることだ。八村は韓国との強化試合の初戦で3Pを3本決めるなど22得点を記録し、彼がコンディション調整のために欠場した2戦目では、河村が3Pを4本ねじ込むなどして24得点を挙げた。ふたりの個の技術や体の強さ、集中力はやはり傑出したものがあった。

「塁が入って、最初のあれ......すごいっす。びっくりしました。やっぱり世界の最高峰でやっている先発の選手で、決定力は絶対に日本の武器になると思いました」

 韓国戦初戦後のコート上でのインタビューで八村のパフォーマンスについて聞かれた日本の桶谷ヘッドコーチは、なかばファンの反応を代弁するかのような話しぶりをした。「最初のあれ」とは八村が2本の3Pを含めて試合開始から2分半で9得点を記録したことを指した。

 韓国との2連戦の前日練習におけるふたりの取り組み方も印象的だった。八村はワシントン・ウィザーズ時代にコーチ陣として在籍していたライアン・リッチマンアシスタントコーチ(アルバルク東京HC)らとワークアウトに取り組んだ。

一方、河村はアメリカでも彼の個人技量のトレーニングを見ているプレーヤーディベロップメントコーチのヘンリー・ウージュニア氏と汗を流した。ほかの選手たちがシューティングをするなか、ふたりともより実践的なドリルで汗を流していた。

「(アメリカで)バスケをやっていて、3Pを打つだけではなく、ペイントに入ってターンアラウンドのシュートや体をぶつけながらのシュートが増えてきているので、5対5の時だけでなくワークアウトのところにも実戦的なものを入れていきたいなという気持ちで入れています」

 河村はワークアウトの意図について、こう答えた。メディアが見たのはあくまでわずかな時間でしかなかったものの、八村と河村の取り組みには、なるほど「世界基準」とはこういうものかと思わせるところがあった。

【「高い生産性」というテーマをどこまで追求できるか】

 現状における最強チームだと言っていい日本代表が、FIBAワールドカップアジア予選のWindow4に臨む。この予選は、各国が期間を分けて総当たり戦を行なうWindow方式で進み、Window4からは上位進出をかけた2次ラウンドに入る。

 2次ラウンドでは6チームずつの2組に分かれて争われる。開催国枠ですでに出場権を得ているカタールは順位計算から除外され、各組上位3チームと、さらに各組4位のうち成績が上位の1チームが本大会への出場権を手にする。

 3大会連続のワールドカップ進出を目指す日本(世界ランク22位)は、ここまでの同予選で4勝2敗の戦績を記録。1次ラウンドの成績を持ち越す形で行なわれる2次ラウンドで、日本はレバノン(同31位、5勝1敗)、サウジアラビア(同65位、3勝3敗)、カタール(同76位、4勝2敗)とそれぞれホーム&アウェーで対戦する。前回大会の予選を踏まえて見ても、6勝は本大会出場権を獲得するうえでひとつの目安となる。

 Window4で日本は日本時間28日未明にアウェーでサウジアラビアと対戦し、31日には東京でカタールを迎え撃つ。

故障により韓国戦を欠場した渡邊雄太(千葉ジェッツ)の出場可否が気になるが、八村と河村のいる日本代表とすれば、このWindowを2連勝でワールドカップ本大会への切符を大きく手繰り寄せたいところだ。

 八村、河村以外の選手たちのプレーぶりにも、注視したい。Window4での試合に出場しそうなメンバーの多くがパリ五輪にも出場しているが、この2年間でHCが代わり、彼らは経験と自信という「レンガ」を積み上げてきた。西田優大(シーホース三河)が「『どうしよう』みたいに考えていました」と語ったように、以前の日本には八村への過度な依存が少なからずあった。これが実際にどこまで改善されているかも、今回の2試合での見どころとなる。

 また、八村自身も彼の加入前の日本代表が時間をかけて培ってきた「ケミストリー」の存在を認めたうえで、チームの「スタイルに僕が合わせるようなプレーをしている」と話している。28歳となった八村の精神的な成長を感じさせると同時に、彼とチームの信頼関係が深まっている証左のように感じられる。

 川﨑ブレイブサンダースのHCを兼任している桶谷HCはBリーグ、日本代表、両方で「ハイプロダクティブ」なチーム作りを心がけている旨を語っている。ハイプロダクティブとは「生産性」を意味する。それは選手やスタッフの能力を結集し、総合力を高めることが、勝てる集団の構築につながるという信念を物語るフレーズだとしていい。

 八村や河村がどれだけ抜きん出た実力を持っていても、それだけで高いレベルの国際試合に勝てるほど甘いものではない。そのことは東京、パリとオリンピック2大会で日本が1勝も挙げられなかったことでも示唆されていると言えるかもしれない。

 だからこそ、Window4で新体制下の日本代表がどのように戦うかが興味深い。

永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka

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