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 五輪レースに、駆け込む──。

 バドミントン女子ダブルスのパリオリンピック銅メダリスト、志田千陽(東京都協会)が若き新パートナー平本梨々菜(岐阜Bluvic)との新章をスタートさせた。

 舞台は、ふたりが中学・高校時代を過ごした青森県で開催された第80回国民スポーツ大会。成年女子の部に青森県代表として出場したふたりは、ダブルスで全勝を果たし、優勝に大きく貢献した。

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 次戦は国スポ決勝戦から6日後、10月20日に開幕するフランスオープンだ。新ペアでの挑戦が明らかになった9月の時点では「目標はふたりで話して決めていきたい」と話すにとどめていた志田に、あらためて長期目標について聞くと、次のように答えた。

「一番の目標は、五輪レースに入り込んで戦っていくところ。まずは(世界)ランキングを上げることですけど、今は目の前のところをしっかりとやっていこうと。

 梨々菜ちゃんはパートナーが変わるという新しい経験のなかで、がんばりますという感じで(気持ちを)伝えてくれている。私自身も4カ月休んで(復帰したばかり)。大きく考える必要はないけど、違う緊張感があったり、海外にまた行くとなれば(感覚も)違うのはわかっている。ふたりで一緒に、今年の試合は挑戦する気持ちで一個一個だね、という話をしている」

 2027年5月には、ロサンゼルスオリンピック出場権の獲得レースが始まる。準備期間は7カ月ほどしかない。五輪レースで上位大会への出場機会を確保するには、まずは世界ランキングを30位前後まで上げたい。

オリンピック出場を狙うなら、レースの前半で世界ランキング8位以内に入り、シードを得たいところだ。

 先をイメージすれば、どうしても駆け足になる。しかし、まったく新しいペアで、すぐに結果を出すのは相当に難しい。焦れば、着実な前進もままならない。まして今回のパートナーは、9歳年下で経験の浅い20歳の平本。大目標へ再挑戦する意気込みと、若いパートナーに寄り添いながら進む慎重さが入り混じったコメントだった。

【ペア解消から4カ月ぶりの実戦】

 しばらくは、注目度の高さと、ペアとしての未完成度のギャップと戦わなければならない。国スポでは、初戦だった熊本県との対戦が最も緊張感が高かった。

 緊張する理由は、いくらでもあった。まず、注目度が高い。大応援と地元メディアに囲まれたなかでの試合だ。

 加えて、ペアとしての初戦。志田は、7月末にペアを解消した五十嵐有紗(BIPROGY)と出場した6月のインドネシアオープン以来、4カ月ぶりの実戦。

志田には、2024年パリオリンピック、2025年世界選手権で銅メダルの実績がある。相手は、自身が3月まで所属していた再春館製薬所の後輩たち(木山琉聖/大津妃奈乃)で、負けるわけにはいかない。

 平本は、2024年世界ジュニア選手権の女子ダブルスで優勝した期待の若手。石川心菜(岐阜Bluvic)とのペアでU24日本代表に選出されていたが、志田と新たなペアを組むために代表を辞退した。志田と組んで負けるわけにはいかない、という思いは少なからずあったはずだ。

 熊本戦の第1ゲームは、シーソーゲーム。志田が後衛に入ってスマッシュを打ち、平本が172cmの長身を前衛で生かして相手の返球を狙ったが、ネット前からプッシュした球は返球されたり、バックアウトで外れたりと定まらず。やや表情の硬い平本に、志田は笑顔で接した。

 点差がつかずに終盤を迎える。最後は志田の打ったつなぎ球がサイドに外れて16-18。いきなりゲームを失う船出となった。

 しかし、個々の能力と自信は、この大会では別格。

第2ゲームのインターバルで平本の表情から硬さが消えると、志田が緩急を織り交ぜた球で相手を崩し、平本の強打も炸裂。第2、第3ゲームをともに15-9と圧倒。ポテンシャルの違いを見せつけた。平本はほとんどの試合で第2シングルスも務めて勝利。志田も驚くほど勝負どころでメンタルの強さを示した。

 平本は「緊張していないと思っていたけど、試合をやってみて、ローテーションで自分が遅くなった。練習の動きじゃなくて、志田先輩も『遅いな』と感じた部分があったと思う」と初戦のダブルスを振り返った。

【志田が最初にトライしたのは......】

 だが2回戦以降は、どちらが後ろに下がっても攻撃力を発揮できた。2回戦の相手は大学生。準々決勝、準決勝、決勝と、いずれも相手は即席ペア。個の力で対応できる部分が多かったが、ふたりは点数だけでなく連係を意識して、パートナーの動きに気を配っていた。

 決勝進出を決めた際、平本は「ローテーションの形がうまくいった。志田先輩の後ろから打った球に対して、(強打への返球を予測し)自分が前でしっかり決める形もだんだん見えてきた」と話し、志田も「自分の球に対して(返球の予測を)張る場所は、後ろから見ていて、ここが得意なんだろうなというのも見えた」と話した。

 ふたりが目指すスタイルの原型が、垣間見えた。

 ダブルスの攻撃は、前後に分かれる布陣が基本。志田は2025年夏まで組んだ松山奈未(再春館製薬所)との「シダマツ」、その後に組んだ五十嵐との「シダガシ」でも後衛だったが、ふたつのペアには違いがあった。

 松山とのペアでは、意図的に位置を入れ替わるローテーションを多く活用。相手が左右に振っても、ふたりがぐるぐると回るように動き、高い位置、あるいは早いタイミングで球を捕らえ続けた。

 一方、五十嵐は、男子が後衛で広範囲をカバーし、女子は前衛に特化する混合ダブルスでオリンピック2大会連続の銅メダルを獲得した。前衛に固定したほうが生きる部分があった。

 平本とのペアは、互いに後衛でプレーしてきたふたりの組み合わせ。どちらも後方に下がりながら強打を打つことができるのが、最大の特長になる。どちらが下げられても攻撃を続けられるローテーションスタイルを目指す。

 そのうえで最初にトライしたのは、パートナーの長所に着目して生かすことだった。

 後衛が強打を打つ時、パートナーは相手の返球を予測して、早いタイミングで球をとらえて攻撃を続けたい。

ただ、相手の返球可能範囲が広ければ的は絞れない。

 また場合によっては、後ろから強打を打った選手が、ストレートの返球を予測して前に出ることもある。どちらが前に出るのか、出ないのか。ローテーションをするなら、狙いを共有する必要がある。

【志田が語る相棒・平本の武器は?】

 志田と平本は、平本の所属先で、女子ダブルスに定評のある岐阜Bluvicで練習してきた。短期間だったが、志田はスタッフから助言を得ていたことを明かした。

「私が得意なコースに打って、ここにしか返せないから梨々菜ちゃんがそこに(予測を)張ってローテーションしたらいいんじゃないかとか。梨々菜ちゃんは力が強いので、そのショットなら(返球範囲は)限定されるよねとか。梨々菜ちゃんが次の予測に動き出すテンポが早いところがあれば、それを軸にして自分が(逆に動く)とか。互いのいいところを最大化するパターンのヒントをくれた」

 国際大会になれば、相手の返球レベルも変わってくる。しかしそのほうが、しっかりとレシーブされることを前提に動ける部分もあるという。

 実際に国スポでは、個々の能力で解決できる部分が多く、国際大会の参考にはなりにくいところもある。

ただ、試運転の経験は大きい。優勝で大会を終えた志田は、安堵感を漂わせながら話した。

「試合の時は(自分たちが)こんな感じなんだろうと、よくも悪くも見えたところがあった。もっとレベルの高い選手とやった時、また見えてくるところもあると思うけど、応援やメディアの方がたくさんいるなかでの試合は、経験をこなさないと硬くなってしまう。すごくいい経験ができた」

 注目を浴びる緊張感のなか、全勝で優勝し、いい形で乗り越えた。次の舞台は、フランスオープン。BWF(世界バドミントン連盟)ワールドツアーのスーパー750で、世界ランキング上位の選手・ペアに出場義務が課されるトップクラスの大会だ。

 試運転を終えた志田/平本の新ペアが、国際大会での挑戦をスタートする。

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平野貴也●取材・文 text by Takaya Hirano

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