この記事をまとめると
■4WDは「FFベース」と「FRベース」などと表現されることがある■4WDの歴史を振り返ったうえでこれらの意味を解説
■今後「FFベース」、「FRベース」は死語になる可能性もある
レーシングカーから始まった4WDの歴史
4WD車の解説で、FRベースの4WD、あるいはFFベースの4WDという表現を目にすることがあるだろう。自動車の構造を知る人なら、この表現が何を意味するの即座に理解することが出来るはずだが、逆に、4WDなのにFRベース、FFベースとはどういうことなのか、4WDは4WDだろう、と疑問を持つ方もいることだろう。ここはひとつ基本に立ち返って、4WD車の成り立ちについて考えてみたいと思う。
そもそも、4WDはどうして出来上がったのか? こう考えることが、前出の疑問に対する回答になるのではないかと思う。というのは、自動車の原点は2輪駆動で、自動車史のどこかの時点で4輪駆動方式が考え出されているからだ。
では、4WD車の歴史を思い浮かべてみると、なんとなく第2次世界大戦中に米軍が使ったウイリス・ジープあたりが発端ではないかと見当をつけがちだが、本当の意味で原点をたどっていくと、これがなんと1903年にオランダのスパイカー社が発表した4WDレーシングカーにさかのぼるのである。
この4WDレーサー、フロントエンジン方式のパワートレインレイアウトを使い、トランスミッションの後ろにトランスファーとセンターデフを一体化した機構を備えていたのである。なんとこのシステムは、今風に言うフルタイム4WD方式で、システム構成は、現在のフルタイム4WD車と変わらぬ内容だったのだ。実際、フルタイム4WD車が商品として市場に流通するのは1980年代に入ってからのことだから、驚くなかれ、なんと80年も前にその原型は出来上がっていたことになる。
さて、当時の自動車はフロントエンジン/リヤドライブのFR車が一般的だったが、このFR車のパワートレインの途中に、エンジン出力を前方に伝えるトランスファーユニットを設けたことで、FR車を土台にする4WD方式が出来上がったわけである。戦中に登場したウイリス・ジープも、FR方式の2輪駆動にトランスファーを設けて4輪駆動化した車両で、FRベースの4WD車だった。

EVの普及で「FFベース」と「FRベース」は死語になる!?
一方、1970年代以降、小型車で一般的となってきたFF方式は、パワートレイン系のレイアウトでスペース効率に優れたため、またたく間に小型乗用車の標準的な駆動方式となっていた。このため、乗用車で4WD車を実現するには、FF方式から発展させた4WD方式の確立が必要不可欠な要素となっていた。

多くの場合、FF車は横置きエンジン/横置きトランスミッション&デファレンシャルユニットの構成だったため、この部分にトランスファーユニットを設ければ、後輪に駆動力伝達を行うことが可能、つまり4WD方式の構築が可能だったのである。これがFFベースの4WD車で、現在の乗用4WD車では主流の方式となっている。

自動車が誕生した時点で、その駆動方式が4WDであれば、あるいはFRベース、FFベースの4WDという表現は生まれなかったかもしれないが、実際には、自動車はFR方式で発展し、その途中で4WD方式が考えられ、小型車の駆動方式の主流がFRからFFに移り変わると、必然的に4WD方式もFF車ベースで考えなくてはならない状況に変化し、その結果FRベースの4WDとFFベースの4WD、4WDにはこの2タイプが存在することになったわけである。
ただ、今後EVの時代を迎えた場合、4輪独立のモーター駆動方式が実用化されるとFRベース、FFベースという表現が死語になる可能性もある。駆動方式は1輪につき1モーター、4WDは4WDでしょう、という時代の到来が十分に予見される状況である。
