この記事をまとめると
■2023年1月にテスラが一部モデルの価格を約10%値下げした■テスラは株価を重要視しており、販売目標達成のために値下げしたとも考えられる
■臨機応変な価格変更はネット販売だからこそ可能であり、今後は常識となるかもしれない
テスラがまた一部モデルの価格を大幅値下げした
2023年になって、EV専業メーカーとして高いブランド力を誇るテスラが、一部のモデルにおいて10%前後の値下げを実施した。過去に日本向けモデルにおいては、上海での生産がはじまった際にプライスダウンを実施したものの、その後に値上げをするなど販売価格を柔軟に変えているテスラだが、そうはいっても世界的なインフレトレンドのなかでの大幅な値下げは大いに話題となった。
日本だけでなく北米市場でもこのような大幅値下げは実施されている。
前述したようにテスラが日本向けのモデルを上海製に限って値下げしたのは生産・輸送コストの低減が理由とされている。いわゆるコスト抑制をユーザーに還元するという意味での値下げだ、ただし、テスラというブランドは薄利多売のブランディングをする必要はないといえる。コストが下がったぶんは、そのまま利益としていけば企業としての評価も上がっていくだろう。

そうした意味でいうと、直近におけるテスラの課題は株価下落にある。その理由としてマーケットが期待しているより成長速度が鈍っているという指摘もあるが、テスラの経営として時価総額(株価)を重視しているとして、株価を高めるためには成長率を上げることが必須と判断したならば、ディスカウントしてでも販売台数を増やすという戦略をとるのは妥当といえる。
実際、テスラの2022年グローバル販売は131万台超えで、前年比では40%増しとなっていたが、計画は50%増だったため目標未達となっていた。同じ仕様のまま販売価格を下げるということは、一般論でいえば利益率は下がるわけだが、それよりも目標を達成して株価を上昇気流にのせることを重視したのかもしれない。
価格変動させられるのはテスラがネットによる販売だけだから
販売目標というのは、ニアリーイコールで生産計画でもある。販売が計画どおりにいかなかったということは、生産能力が余ってしまったともいえる。言葉を換えれば工場稼働率が予想よりも下がったということだ。
工場稼働率によって生産コストが変わってくるのは、ご存じのとおり。テスラの場合、目標未達といっても稼働率に大きな問題が起きるほど足りなかったとは思えないが、内製部品が多いことを考えると、稼働率が下がることはネガティブコストとしてのインパクトは小さくないはずだ。値下げしてでも受注を集め、工場を動かすこともまた経営上は重要といえる。

他のメーカーがEVの販売を拡大する中で、値下げすることでシェアを確保しておきたいというマーケティング的な狙いもあるだろう。いずれにしても複合的な理由から値下げという経営判断がなされたのであろう。
それはともかく、このように価格を変動させられるのはテスラが基本的にネット販売をしているからといえる。従来の自動車販売ビジネスではメーカー希望小売価格を設定しつつ、売り上げやモデルライフに合わせて値引きというブラックボックス的な調整をして市場にマッチさせていたが、いまはニーズに合わせてフェアな価格設定とするほうが評価される時代となっている。

ライバルの動向、市場ニーズ、さらには上記で示したような経営判断によって柔軟に価格を変えるためには、ネット販売という形をとるのがベターといえる。テスラの柔軟な価格設定というビジネススタイルがユーザーに認められているのであれば、他の自動車メーカーも追従したいはずだ。そのほうがスピード感のある経営がしやすいからだ。
もっとも、テスラの値下げについて、とくに北米市場では従来からのオーナーには否定的に捉えられているという。同じ商品がメーカー都合で大幅ディスカウントされるというのは気持ちもよくないだろうし、自動車にとって重要なリセールバリューも下がってしまう。

いずれにしても、eコマース全般においてニーズに合わせて柔軟に価格を変化させることは当たり前のビジネスモデルとなっている。自動車だけがいつまでも定価(メーカー希望小売価格)を基準とした販売スタイルを続けていくことが難しいのもまた事実であり、何年か先には、今回テスラが行ったように1割単位での価格変動というのは、自動車ビジネスにおいて常識となっている可能性は否定できない。