この記事をまとめると
■日産アリアで北極から南極を目指す約2万7000kmの冒険の旅がスタートした■気温によって変わるバッテリー性能という欠点の一方で、モーター駆動による4輪制御と瞬時の応答性という長所もある
■日産は2010年の初代リーフ発売から13年の実績があり、EVでは他メーカーに一歩先んじている
日産アリアによる気温差±30度・約2万7000kmの挑戦
日産自動車は、電気自動車(EV)のアリアで北極から南極まで約2万7000kmを走破する計画を、2022年5月に発表した。
車両は、ほぼ標準車に近いアリアのe-FORCEで、モーターによる4輪駆動車だ。悪路走破性を高めるのためタイヤを大径にし、これによって外観のフェンダーあたりに手が加えられている。
挑戦するのは、英国のクリス・ラムゼイ/ジュリー夫妻である。彼らは、2017年のモンゴルラリーにリーフで出走した経歴を持つ。

今回は、南北の極地から極地への地球縦断の旅となり、気温差は-30~+30℃におよぶという。移動の道筋は、北米(カナダ)から中南米を経由し南極大陸に至る。今年3月にいよいよ出発した。
EVは、気温の高低によって車載のバッテリーが影響を受ける。なおかつ冷暖房の空調を使えば、電力をそれで消費し、一充電走行距離に長短の開きも生じる。さらに、同じ距離を走っても、高低差によって登りは電力消費が多い反面、下りは回生によって充電することができ、走行距離の予測が変わる可能性もある。
モーター駆動は、エンジンの100分の1の早さで応答できるので、わずかなタイヤの滑りなどの路面変化に対する適応力が高い。雪面や凍結路面、あるいは未舗装の大地での的確な走行に寄与する。より安全かつ的確にクルマを前進させることができるのだ。

EVならではの特徴や性能への影響を、気象条件の厳しい、また路面変化の多彩な環境下で試すことで、将来へ向けた知見を得ることができるのではないか。
13年の実績を持つ日産がEVでの優位性を証明する
また、日産は常にアクセル全開で走行することの多いフォーミュラEへも参戦しており、超高速域でのEV性能も試している。

2010年の初代リーフ発売から13年の歳月を経て、日産はEVのあらゆる可能性を探り続けている。単にクルマとしての性能に止まらず、廃車後のリチウムイオンバッテリーの再利用といった資源の有効活用も試行錯誤し、事業化にこぎつけている。世界的に見ても、ここまでの多様な実績を持つ自動車メーカーはない。

米国テスラといえども、太陽光と蓄電池の取り組みはしていても、EV後の再利用には手を付けていない。欧州メーカーも、試作車などのバッテリーを試験的に再利用した実証などに止まる状態だ。
駐車中のEVを活用したヴィークル・トゥ・ホーム(VtoH)でも日産は実績を積んでいる。同じくEVを販売し続ける三菱自動車工業もVtoHやVtoLを手がけているが、欧米の自動車メーカーはまだ十分な活用へ踏み切れていないのが実態だ。充電方式の違いも影響していそうだ。

世のなかはEVの一充電走行距離の長短に注目しているが、じつはEVのあるべき姿はそれだけでない。
今回のアリアでの挑戦にはしかし、懸念材料もある。この挑戦を北極から南極へと題しているが、北極点は海の上だ。なぜそこが出発点となり得るのかという実証が無い。貴重な挑戦であるなら、表現は的確であるべきだ。ごまかしや嘘が含まれてはならない。言葉を正しく使わなければ、挑戦そのものの実証が疑われかねないのである。的確な言葉遣いと、適正な情報発信が望まれる。