この記事をまとめると
■タクシーやバスのドライバーは乗務員証や名札を掲示している



■国土交通省はこれを廃止する方針



■理由はカスタマーハラスメント対策



国土交通省が名札の掲示義務の廃止を行う方針を表明

テレビニュースで、あらゆる職種で従業員が「名札」を着けなくなってきたという話題を取り上げていた。たとえば若い女性店員の名前を名札で知り、その女性のSNSに掲載されている情報や画像などから個人情報を特定してストーカー行為に及ぶなど、名前がわかることによる働く人への不利益を防ぐというのがその理由とのことであった。



さらに報道によると、国土交通省は車内掲示されているタクシーなら乗務員証、バスなら運転している当該運転士の名札の掲示義務の廃止を行う方針を表明したとのこと。

カスハラ(カスタマーハラスメント/乗客からの過度のクレーム)対策のためのプライバシー保護がその理由とされている。



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タクシーに乗車すると、多くの車両で助手席のヘッドレストが不自然に上げられていることに気がつく人もいることだろう。これは助手席ダッシュボード上には、外からは空車か実車(お客を乗せている)などがわかる、スーパーサインが設置されており、車内側には乗務員証が差し込めるようになっている。いまは、トラブルになると乗務員証をスマホなどで乗客が撮影するようだが、それ以前は乗務員証を抜いてそのまま降車してしまうケースもあったので、ヘッドレストを挙げることで撮影や乗務員証の抜き取りなどができにくいように乗務員が自己防衛しているともいえよう。



ただ、掲示義務を廃止しただけでカスハラが減るとも思えない。いまはアプリ配車も普及しているので、それほど目立たないが、タクシー車内には無線配車を促進するための無線センターへの電話番号付きの広告や、路線バス車内にも乗務員募集などの広告には事業者への連絡先が載っている。

つまり、その場で、タクシーでもバスでも携帯電話で走行中に直接事業者へクレームをつけることは引き続き可能なのである。乗務員証や名札をなくすだけでなく、そこまで配慮しないと今度はカスハラが事業者へダイレクトに行われることにつながりかねない。つまり、事業者が乗客とのコミュニケーション(電話番号やメールアドレスなど)手段を完全に遮断しない限りは、カスハラはなかなか減ることはないだろう。



国土交通省がタクシーやバス運転手の「名札」の掲示義務を廃止する方針! 「カスハラ対策」はわかるが根本解決には程遠い実状
タクシーの走行シーン



旅客輸送業界におけるクレーマーという人は、すでに事業者への連絡先や各地の業界団体、さらに監督官庁の窓口である、各運輸支局の連絡先などを控えている(携帯電話に登録などしている)ことが多く、監督官庁へ直接クレームをつけることも珍しくない。こうなると、理不尽とも思える内容とはいえ乗客からの苦情を受け付けた監督官庁としては、もう一方の当事者である当該事業者及び乗務員から聞き取りを行わなければならないので、事業者として時間と手間がかかり、かなりしんどいのである。



乗務員のなりすましが多い国などでは乗務員証を電子化

話は逸れるが、そもそもタクシーに限って言えば、乗務員証がいまだに紙ベース(紙をラミネート加工したもの)というのもアナログ国家、日本らしい一面である。

コロナ禍前から中国では電子乗務員証(インパネセンター部のディスプレイに画像として表示されたりする)が普及しており、コロナ禍となってからタイの首都バンコクで乗ったタクシーも電子乗務員証を採用していた。



国土交通省がタクシーやバス運転手の「名札」の掲示義務を廃止する方針! 「カスハラ対策」はわかるが根本解決には程遠い実状
タイ・バンコクの交通



海外では乗務員のなりすましが多い。中国から日本へ向かう飛行機は早朝便が多い。空港へ向かうためにタクシーを利用すると、乗務員証が掲示されていなかったり、乗務員とは明らかに顔の違う写真のものになっていたりする。聞いた話では正規乗務員が乗務中にもかかわらず夜間は自宅などでくつろぎ、その間タクシー車両を第三者に貸し与えて営業運行させ、その間の売り上げからかなりの割合を抜き取っていることがあるらしい。もちろん、というか、そのような車両に乗れば当然メーターを入れない違法営業となるので、料金は交渉制となる。

当然メーターに記録は残らないので、タクシー会社に歩合を払う必要もないので、そのような第三者ドライバーを雇うことができるのだ。その意味では海外では乗務員証の存在は重要なのである。



また中国では乗務員証に★マークがいくつかついていて、その数が多いほど優秀な乗務員とされていたり、乗務員証の登録番号の桁数が少ないほど経験年次が長いとされ、道も良く知っていて良心的な乗務員であることの証にもなっていると聞いたことがある。



国土交通省がタクシーやバス運転手の「名札」の掲示義務を廃止する方針! 「カスハラ対策」はわかるが根本解決には程遠い実状
中国・北京の交通



紙ベースのまま廃止してしまう日本と、電子乗務員証に切り替えても存続させる中国やタイでは事情は異なるが、日本でも乗務員証が廃止されれば、乗務員不足が深刻なだけに今後は違法営業が目立ってしまうようなリスクがまったくないとはいえないだろう。管理が緩くなれば、それに便乗しようとするさまざまな動きが目立ってしまうのは旅客運送業界だけでなくよくある話である。



電子乗務員証は中国でもタイでも、一般的な2DINサイズぐらいのディスプレイの端っこに表示される程度ではあるが、データ化されているので偽装はアナログタイプのころよりはるかに防げるし、それがあることによる利用者の安心感もあるだろう。

日本より電子決済も進んでいるようなので、利用データとリンクさせれば運行管理も行き届き、トラブルがあったとしても対応がしやすいことになっているのかもしれない。



タクシーにおける乗務員証の廃止に限って言えば、欧米など諸外国のようなライドシェアサービスの国内導入のための地ならしのようにも見えるのは考えすぎだろうか、つまりプロドライバーとアマチュアドライバーの境界線をあいまいにしようとしているようにも見えてしまう。



カスハラ対策を重視するのも大事だが、安全・安心に利用できる環境整備に支障をきたすことにはならないで欲しい。