この記事をまとめると
■ゴルフはVW(フォルクスワーゲン)のコンパクトカー



■世界中のコンパクトカーがベンチマークにしている



■すでに8代に渡って生産されているがどの世代もベンチマークにされる理由を解説



ゴルフをベンチマークにするクルマが多数

世界中のコンパクトカーがベンチマークにしているクルマと言われているのが、VWゴルフであったり、VWポロだ。筆者が国産車の新型が出たとき、開発陣に「ベンチマークにしているクルマはありますか?」と聞くと、たとえばホンダ・フィット(先代)はVWポロ(先代に当たる5代目)と公言していたし、最近のコンパクトカーでもベンチマークをゴルフVIIに照準を合わせたクルマは少なくなく、走りの良さに定評ある軽乗用車もまた、VWポロをベンチマークにしていたりする。意外な話として、最新の日産Mクラスボックス型ミニバンの新型セレナは、パワーステアリングのラックマウントとフロントサスペンションに関して、ゴルフ7をベンチマークにしていると聞いている。



8世代もあるのに全部スゴイってどういうこと? VWゴルフがい...の画像はこちら >>



もちろん、国産車だけでなく、実力派の欧州コンパクトカーも、ベンチマークとは公言しないものの、歴代のゴルフを横目で見ながら開発していることはまず間違いないところなのである。



では、VWのクルマ、とくにゴルフが世界中のコンパクトカーを作る自動車メーカーから一目置かれているのは何故なのか? そのきっかけのひとつが、ゴルフV(ファイブ)で採用された工場のレーザー溶接ラインへの莫大な投資であり、全モデルに超高張力鋼板を始めとする先進素材を積極的に採用し、高剛性と軽量化を高い次元で両立しているところではないか。



8世代もあるのに全部スゴイってどういうこと? VWゴルフがいつの時代も世界中で「ベンチマーク」にされる裏にある「オーバークオリティ」な作り方
フォルクスワーゲン・ゴルフ(5代目)のフロントスタイリング



いや、それだけではない。VWのラインアップの中でもっとも数が出る車種ゆえに、VWの先端技術をいち早く取り入れることができるメリットも絶大だ。さらに、ボディパネルごとに剛性を変え、製造ラインを効率重視ではなく、手作業を含めた工程数の多いものにするなど、目に見えない部分のこだわりこそがVWのクルマ作りの文化そのものであり、一般ユーザーはもちろん、自動車のプロにも「いいクルマだ」と評価される大きなポイントなのである。



たとえば1990年代から今に至る、ボディパネルの錆止め亜鉛メッキ工程だが、亜鉛メッキを施したパネルは、その後溶接することで溶接した部分の錆止め効果が薄れることになる。そこでポルシェが初採用し、アウディ、VWへと受け継がれたのが、ホワイトボディを亜鉛のプールにどぶ漬けすることで可能になるフルジングボディだった。錆穴保証12年と言う保証制度が実現したのも、そうした先端技術をポルシェやアウディとともにいち早く導入できたからこそである。



日本の環境でゴルフを超えるクルマをつくるのは難しい

ズバリ、コンパクトカーとして、目に見えない部分にまで徹底したこだわりを持つ、コンパクトカー、実用車として”オーバークオリティ”すぎるのが、VWのラインアップのなかでも、とくにゴルフということになる。それも、1974年に、デザインとパッケージングをG・ジウジアーロが担当して登場した初代ゴルフから始まる、今や50年近い歴史を持つゴルフの一つの完成形は、2012年に新開発のモジュールプラットフォーム「MQB」に一新された先代ゴルフ7であると、じつは現ゴルフVIIヴァリアントのオーナーでもある筆者は考えているが、乗り心地、操縦安定性、快適性のバランスの高さ、そして燃費性能は今だ一流。



筆者の1.4リッターガソリンターボのゴルフVIIヴァリアントはすでに納車から9年を経ているが、ボディはガッチリしたままだし、ドアの開閉音の素晴らしさも不変。シートのかけ心地、ホールド性の良さ(スポーツシート)も絶品であり、疲れない。

そして肝心の走りに関しても、今もって満足度は非常に高いままなのだ。ちなみに高速走行中心では、同クラスのハイブリットカー同等の18km/Lも普通に出てしまうほどである。



8世代もあるのに全部スゴイってどういうこと? VWゴルフがいつの時代も世界中で「ベンチマーク」にされる裏にある「オーバークオリティ」な作り方
フォルクスワーゲン・ゴルフ (7代目)ヴァリアントのフロントスタイリング



だから、「ゴルフをベンチマークにしています」という新型車に試乗し、その場では「なかなかいいじゃん」と思っても、帰路、自分のゴルフVIIに乗り換えると「ゴルフをベンチマークにしてがんばってはいるけれど、追いついてはいない」と、いつも思えてしまうのだ。その理由はもちろん、すでに説明した生産効率の考え方とコストのかけ方が大きな要因。言い方を変えれば、国産コンパクトカーの開発陣がゴルフを超えるクルマを作れるかもしれない技術力を持っていても、それを100%実現するための効率二の次の生産方法、開発・生産コストのかけ方を、効率優先、コスト管理にうるさい国産自動車メーカーの会社が許してくれない……ということだろう。



それは、VWの看板モデルであり続けるゴルフのグローバルでの圧倒的な販売台数の多さ、ゴルフI=18年、ゴルフII=9年、ゴルフIII=6年、ゴルフIV=9年、ゴルフV=6年、ゴルフVI=4年、ゴルフVII=8年という、ゴルフVIを除いた1世代のモデルライフの長さも、1台のゴルフに膨大なコストをかけられる決め手となっているはずである。



8世代もあるのに全部スゴイってどういうこと? VWゴルフがいつの時代も世界中で「ベンチマーク」にされる裏にある「オーバークオリティ」な作り方
フォルクスワーゲン・ゴルフ(初代)のフロントスタイリング



そうした進化し続けるVWゴルフだが、最新のゴルフVIIIに至る中で、時代の流れとして多少のコストダウンも見え隠れする。コストダウン無視!? の最後の1世代がゴルフVII、ゴルフの最高傑作がゴルフVIIの後期モデル、ゴルフ7.5と、筆者は今も”勝手”に思っている。また、インフォテイメントシステムと呼ばれるナビゲーションの使い勝手に関しては、年々、使いづらくなってきたのも事実。ゴルフ7までの日本仕様インフォテイメントシステムはアジア向けとして独自に用意されていたのだが、ゴルフ8からは世界共通の1仕様となり、日本で使う上での機能が制限されるようになっていたりするのが惜しまれる……。

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