この記事をまとめると
■現在さまざまなものが値上げされるなか、車両価格の値上げはさほど深刻な状況ではない



■理由は企業努力にあり、かつて積極的に行われていた値引きを抑えているため



■このような新車販売の仕方には消費者にとってもメリットがある



車両価格の値上げが目立たない理由とは?

かつての新車購入での値引き交渉は、車両本体価格、オプションそして下取り査定額の上乗せを別々に交渉するのがオーソドックスなスタイルとされた。複数回の商談を経て段階的に個々について値引き交渉を進めて支払い条件を詰めていき契約となるのである。



その後、現金一括払いではタイパ(タイムパフォーマンス/時間の節約)もあり、「支払総額で250万円になるなら、どこから値引きしても構わない」という、セールススタッフにお任せとなる、“支払い総額交渉型”が目立ってきた。

セールススタッフとしても自由裁量範囲が広がるので、たいていは最後に下取り査定額に値引き不足分をいくら上乗せできるかが条件クリアでは大切となった。さらに、最近では残価設定ローンを利用した新車購入も目立っている。その際には「月々3万円ぐらいならOK」といった、月々の支払額ベースでの交渉が目立っており、いまでは新車購入での条件交渉の主たる方法となっている。



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連日のようにテレビニュースなどでは、「マヨネーズがまた値上げです」といった、度重なる食品などの日用品の値上げのニュースが飛び交っているが、こと新車(日本メーカー車)に限っては単純な車両価格の値上げに絞れば、まだまだ全体で見ると“パラパラ”状態の実施ともいえ、値上げを繰り返す食品などよりは事態は深刻にはなっていないようにも見える。



販売現場となる新車ディーラーの企業努力の賜物ともいえるが、その企業努力はズバリ値引き販売の抑制である。そもそも車両価格からにしろ、オプションからにしろ、下取り査定額の上乗せにしろ、値引きの原資はディーラー利益を削って捻出されている。車両小売価格の単純な値上げは目立っていないものの、メーカーからディーラーへの卸売り販売価格はすでに引き上げが広範に行われているとはよく聞く話。つまり、値引き原資はすでに減っており、ディーラーにかなりの負担をかけながら新車販売が行われているのである。



また、最近フルモデルチェンジしたモデルを見ても、たとえばプリウスもアルファード&ヴェルファイアも車両価格からの値引きはゼロが大原則となり、ディーラーオプションから数万円程度の値引きがあるぐらいと聞いている。



値引き交渉の手間が減り公平性が保たれるという側面も

筆者が聞いた話では、少し前まではディーラーオプション総額の20%ほどまでは値引き余力があると聞いていた。だからといって不必要なものまでガンガン装着することはお勧めできないが、フロアマットだけでも、敷く面積の広いミニバンでは10万円ぐらいとなり、さらにミニバンでは装着するオプションも多いので、ディーラーオプションでカーナビやドラレコ、ETCなどまで装着すれば総額で数十万円になることも珍しくない。そこからの20%引きは大きかったが、いまではそこまで値引きはできないとのこと。



いま新車の値引きができなくなっている! それでもお客にとって「悪い状況ではない」理由とは?
クルマのフロアマット



小売価格ベースで車両価格の単純な値上げが目立たないなか、ディーラーオプション個々も目立った値上げを行っていないようなので、やはり値引き余力が減っており積極的に値引きできる状況ではないようだ。さらに、下取り査定額の上乗せについては、いまは沈静化したものの一時的に新車の納期遅延が深刻となり、中古車相場の底上げが起こったこともあり、新車販売での利益の目減りを下取り車の再販で補おうという動きも目立ち、以前ほどは下取り査定額の上乗せができなくなっているディーラーが多いようだ。もちろん、利益をどうするかはディーラー個々の判断なので、あくまで薄利多売をつらぬき目立った値引きの抑制を行わないところもあるかもしれないが、全体で見れば新車購入時の値引きは引き締まっているのが現状である。



このような状況もあるのか、過去には値引きアップの最終兵器にもなるとして、ディーラーへ乗っていた愛車を下取りに出すケースが多かったのだが、最近は買い取り専業店に売却してしまうケースもだいぶ目立ってきている。買い取り専業店もしくは個人売買で愛車の処分をすれば、今後、事務手続きの整備と新車のデリバリーサービスが進めば、まさに一度も店頭を訪れずにオンラインでのみ新車を購入することも可能となるだろう。



いま新車の値引きができなくなっている! それでもお客にとって「悪い状況ではない」理由とは?
査定士による下取り車の査定



また、対面で交渉しないと値引きも含め、満足いかない条件で購入できない現状も、値引き販売が抑制されるリスクもあるかもしれないが、誰もが手間なく公平性の高い購入条件で新車を手にすることができるようになるかもしれない。



値引きが締まるというのはマイナスイメージだが、いままでとは異なる値付け(割安感のある車両本体価格設定)を行えばそんなにマイナスイメージにもならないだろう。いまの状況を逆手にとれば、基本的に“昭和スタイル”で停滞していた新車販売のスタイルの一新につながるかもしれないと前向きに捉えることもできる。

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