この記事をまとめると
■EVの購入には多額の補助金が交付される



■地域による補助金の違いによってEVの実質的な購入価格は55万円から130万円も変わる



■EVに関する補助金をすべて見直して再構築すべき時期にきている



環境のためではなく得するためにEVを買うことになりかねない

EV(電気自動車)を購入するとき、大半のユーザーが補助金を意識する。その理由は補助金の交付額が多いためだ。



EVのベストセラーになる日産サクラで見るとわかりやすい。

サクラXの価格は254万8700円だ。申請を行うと経済産業省からの補助金が交付され、その金額は55万円になる。車両価格の20%以上が交付され、交付額を価格から差し引くと199万8700円だ。日産デイズハイウェイスターGターボアーバンクロムプロパイロットエディションの200万6400円を下まわる。



補助金のバラまきでEV普及を狙う……はいずれツケがまわってく...の画像はこちら >>



さらに自治体によっては、経済産業省とは別に補助金を交付している。交付額は自治体によって異なるが、東京都の場合、サクラでは55万円が交付される(メーカー上乗せ額の10万円を含む)。



この金額を経済産業省による55万円に加えると110万円だから、サクラXの価格から差し引くと144万8700円だ。254万8700円のサクラXが、 デイズでもっとも安価なSの143万7700円とほぼ同額で手に入る。



さらに、東京都千代田区も、EVには20万円の補助金を別途交付しているから、すべてを合計すれば130万円に達する。サクラXの価格から差し引くと124万8700円だから、車両価格の半額以上が補助金によって戻ってくる。



補助金はすべて税金によって支払われるから、社会通念上、一連の交付額は過剰だろう。しかもEVを所有するには、基本的に自宅に充電設備が必要だが、マンションなどの集合住宅では設置が困難だ。

充電設備を備えた集合住宅は、少数の新築マンションに限られる。



補助金のバラまきでEV普及を狙う……はいずれツケがまわってくる! そろそろ仕組みを再構築するべきだ
売れ行きは政府と自治体に頼りっきりの現状ではEV普及は危うい



そして日本では総世帯数の内、約40%が集合住宅に住む。先に挙げた東京都千代田区のような都市部では、集合住宅の割合は70~80%に増える。そうなると集合住宅に住んでいて、EVが欲しくても所有できない人達にとって、多額の補助金は不公平と受け取られる。



住む場所によって補助金額が倍以上も変わる!

また、経済産業省の補助金は全国で実施されるが、自治体の交付額は前述のとおり地域によって異なる。すべての自治体が東京都のように多額の交付をするわけではない。川を一本隔てるだけで、補助金交付額が大きく変わるのだ。



こうなるとEVの売れ行きは「補助金頼み」になる。補助金の有無によって、実質的な購入価格が55万円から130万円も変われば当然だ。「補助金の交付を受けられれば購入するし、そうでなければ買わない」と判断される。



この点について、EVの販売店では以下のように説明した。



「お客様がEVを注文され、納車を待つ間に予算を使い切って補助金が終了すると困る。

補助金の受け付けを再開してから申請すれば良いが、補助金申請書の提出期限は、原則として初度登録(軽自動車は初度届け出)から1カ月以内だ。そうなると補助金を受け取るには、受け付けを再開する直前まで登録できない。仕方なく登録しない状態で車両を預かり、補助金の受け付けが再開されてから登録と申請を行った」。



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スバル・ソルテラの走行写真



このような具合だから、補助金が一切なくなると、EVの販売にも深刻な影響を与える。メーカーはEVのコストと価格の低減に力を入れ、国と自治体は、互いに連携して補助金の不公平を是正する必要がある。



とくにいまのような補助金のバラ撒きは、一見するとEVの販売を促進するように思えるが、実際はそうならない。EVがクルマの魅力よりも「補助金ありき」で販売する商品になり、市場の関心も環境ではなく、損得勘定へ向かいかねない。補助金交付額が車両価格の10~15%であれば販売促進に効果的だが、それを超えると弊害が著しくなる。補助金をすべて見直して再構築すべき時期にきている。

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