この記事をまとめると
■欧州メーカーのなかでは電動化に積極的なフォルクスワーゲンが一時的にEVを減産した■今後も国や地域におけるインフラ整備や補助金のあり方などによってEV市場の動向はさらに変化する可能性もあり得る
■フォルクスワーゲンの一時的なEV減産をもってEVシフトに陰りが見えたと考えるのは時期尚早だ
欧州のEVシフトにいま何が起こってるのか?
EVシフトに積極的な欧州で、一部メーカーでEVの生産を減産する動きが出てきた。報道によれば、ドイツのフォルクスワーゲンは、ドイツ東部のザクセン州内工場とドレスデンにある工場で2023年10月に約2週間、ふたつのEVモデルの生産台数を抑制した。
その理由についてはさまざまな見方があるが、ユーザー向けの新車購入に係わる補助金が終了した影響もあるようだ。
こうした市場の流れを受けて、日本では欧州でのEVシフトの今後を不安視する声も出てきた。果たして、欧州市場は今後、どう変化していくのだろうか。
時計の針を少し戻して、欧州でのEVシフトに関する背景を整理しておきたい。
大きな変化点は、2015年12月のCOP21(国連気候変動枠組条約 第21回締結国会議)で採択された「パリ協定」だ。このなかで目標としたのが「2度目標」である。地球の平均気温の変化を産業革命以前と比べ摂氏2度以内とすることを指す。

その後、より厳しい「1.5度目標」が示されたが、これを達成するためは「2050年までにカーボンニュートラル」を実現することが必要という判断に至る。それが2018年のことだ。
そして、「2050年までにカーボンニュートラル達成」について、積極的に動いたのが欧州である。欧州連合(EU)では欧州グリーンディール政策を提唱。そのなかで、EVなど電動化については、政策パッケージである「フィット・フォー55」の影響が大きい。欧州域内で、2030年時点のCO2など温室効果ガスを1990年比で少なくとも55%削減するというものだ。
カーボンニュートラルに向けた動きは外的要因でも大きく変化する
これによって、欧州域内で販売される新車の電動化に対する規制が強化され、2035年には乗用車と小型商用車は100%ZEV(EVまた燃料電池車)とすると規定した。ただし、ドイツなどの欧州自動車メーカーがこの規定実現は難しいとして、ドイツが「合成燃料を使う内燃機関も含めるべき」との提案を出し、結果的に欧州連合はそれを受諾している。

今後も、欧州域内での国や地域における電動化に向けたインフラ整備や、国や地域における補助金のあり方などによって、EV市場の動向はさらに変化する可能性もあり得るといえる。また、ロシアのウクライナ侵攻や、イスラエルによるガザ地区への攻撃など、エネルギー安全保障の面から、欧州におけるエネルギー需給の状況も変化することもあるだろう。さらには、アメリカと中国における経済摩擦も欧州自動車市場に少なからず影響が及んでいる状況だ。
いずれにしても、欧州のEVシフトに限らず、グローバルの自動車産業におけるカーボンニュートラルに向けた今後の動きを正確に予測することは極めて困難な状況だ。これは筆者の個人的見解としてだけではなく、直近で欧米日の自動車メーカー幹部と意見交換するなかでの共通意見でもある。
フォルクスワーゲンは欧州メーカーのなかではいち早くEVシフトを表明した企業である。そのフォルクスワーゲンの一時的なEV減産は事実ではあるが、これをもって欧州でのEVシフトに陰りが見えたと考えるのは時期尚早に思える。