SDV時代を占う自動車メーカーのソフトウェア開発 フォルクスワーゲンはリビアンと最大50億ドルの大型提携
ドイツのフォルクスワーゲングループは、アメリカのEVスタートアップ、リビアン・オートモーティブへ最大50億ドル(約7,500億円)を投資する、大規模なソフトウェア開発提携を発表した。

SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)と呼ばれる次世代の自動車は、車に搭載したソフトウェアを更新することで、運転支援といった安全機能や省エネ性能などを継続的にアップデートしていく仕組みになる。


大手自動車メーカー各社がそのソフトウェア開発にしのぎを削る中で、今回フォルクスワーゲンがリビアンと大型提携を決めたことは、大きな注目を集めている。

リビアンのソフトウェア技術をフォルクスワーゲンに注入

フォルクスワーゲンとリビアンは50-50のジョイントベンチャーを設立し、共同CEOのもとで技術提携とソフトウェア開発を進めていくことになる。

リビアンはフォルクスワーゲンにEV向け車載システムのノウハウを提供し、既存の知的財産権をジョイントベンチャーにライセンス供与する予定。これにより、フォルクスワーゲンは、リビアンのソフトウェアプラットフォームにアクセスできるようになる。

今回の提携では、フォルクスワーゲングループの全ての子会社が対象になっているため、ポルシェやアウディといった高級ブランドの自動車にも、リビアンのソフトウェア技術が導入される可能性がある。

ソフトウェアの自社開発に苦戦してきたフォルクスワーゲン

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フォルクスワーゲングループであるポルシェのEVマカン4Sフォルクスワーゲンは以前から、アップデートが容易な先進的ソフトウェアを全ラインナップに導入するという目標を掲げ、自社開発に取り組んできた。

しかし同社のソフトウェア部門であるCariad社は開発遅延と経営陣の交代などに悩まされ、2023年10月には事業再編のために2,000人もの従業員を削減するなど苦戦中。ポルシェのマカンEVとアウディのQ6 e-tron向けソフトウェアプラットフォーム1.2は、当初2022年に完成予定だったものの、リリース延期を繰り返し16-18カ月遅れとなっている。

Cariad社はフォルクスワーゲングループのEVへの大々的な取り組みとして、高度なソフトウェアと電気アーキテクチャの開発を加速すべく2020年に設立された。しかしその従業員の多くはグループ内の別部門からの異動で、テック企業出身者は少なかった。リビアンという新進のテック企業に技術的な主導権を渡す形でソフトウェア開発を進めるという今回の決断は、フォルクスワーゲンにとって大きな方向転換だろう。

フォルクスワーゲンとリビアンの提携が発表されたのは2024年6月末だが、TechCrunchのリサーチによると、2024年に入ってCariad社はリビアンから最高ソフトウェア責任者、最高製品セキュリティ責任者をはじめ、少なくとも23名を採用している。その大部分が上級ソフトウェア職であり、すでにフォルクスワーゲンのソフトウェア開発が、リビアンの技術と知見に大きな影響を受けていることが想像できる。

リビアンの黒字化と財務体制強化にもメリットのある提携

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リビアンが開発したアマゾン向け配送車両EDVリビアンは2009年創業のアメリカ西海岸の新興EVメーカー。一般消費者向けの「R1」シリーズと、配送事業者向けのRCV(Rivian Commercial Van)という2種のEVをすでに量産化している。
特に配送に特化したバンは、元々出資者でもあるアマゾン向けに「EDV」(Electric Delivery Van)として開発され、アメリカでは旧来のガソリンエンジンの配送車両が、リビアンのEVにどんどん切り替わっているという。

新興自動車メーカーのリビアンにとって、事業を黒字化するのは簡単なことではない。2021年に華々しくIPOし、一時は時価総額1,000億ドルを突破してテスラのライバルと注目される存在だったが、2023年は27億ドルの赤字を計上。アメリカの景気低迷の影響もあり、生産台数も6万台弱と足踏み状態になっていた。

そんな中で発表されたフォルクスワーゲンとの提携は、リビアンの財務体制を強固にするものとしてポジティブに受け止められ、リビアンの株価が時間外取引で49%も急騰するという動きを見せた。

今回の業務提携で、フォルクスワーゲンは2024年第4四半期に無担保転換社債を通じ、まずリビアンに10億ドルを投資予定。その後2025年と2026年にリビアンの普通株をさらに10億ドル購入す​​る。残りの20億ドルはジョイントベンチャー事業に充てられ、初期投資と2026年の融資に分割される予定だ。

次世代SDVのスタンダードと目されるゾーンアーキテクチャを採用

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リビアンのR1Sモデルリビアンは最近、次世代R1TピックアップトラックとR1S SUVの生産を開始している。今回のアップグレードでは、車両を制御するために使用するECU(電子制御ユニット)の数を、第1世代の17個から7個へと削減。各車両から2,500メートル以上の配線を削減し、20㎏の軽量化を実現したことにより、生産の迅速化が可能になった。

リビアンの新しいE/Eアーキテクチャ(自動車に搭載されたECUやセンサーなどを繋ぐシステム構造)では、ゾーンアーキテクチャを採用している。これまでのドメインアーキテクチャでは車両内の技術領域毎に別々に行われていた処理を、ドメインをつなぐ統合ECUによって情報集約、統合制御することで、部品数や開発コストの削減が可能となる。


すでにテスラもこのゾーンアーキテクチャを採用しており、これが次世代SDVのソフトウェア基盤になるだろうと予測されている。フォルクスワーゲンは今回のリビアンとの提携で、業界最先端のソフトウェアプラットフォームにアクセスできるようになるのだ。

フォードもリビアン、テスラ、アップルの技術者をEVチームに大量投入

新興EVテック企業の技術を求めているのはフォルクスワーゲンだけではない。

フォードは2023年から2024年にかけてEVの先進プロジェクトチームを300人規模にまで増やした。このうち約50人はリビアン、20人以上はテスラ、12人は資金難のカヌーから採用された。また、ルシッド・モーターズから約10人、そしてアップルが2024年2月に中止したEVチーム「プロジェクト・タイタン」からも数人を採用したという。

旧来の自動車メーカーがソフトウェア開発をするにあたっては、EVネイティブなテック企業の人材が不可欠ということだろう。

老舗自動車メーカーと新興テック企業の組み合わせはSDV時代の最適解となるか

今、自動車メーカー各社にとって、SDVに搭載するソフトウェアの開発は待ったなしの大課題だ。今年3月に包括的な協業を発表したホンダと日産も、8月に入り具体的な協業内容のひとつとして「ソフトウェアの基礎技術の共同研究」を挙げている。

長年ガソリン車としての性能や乗り心地などを追求する「モノづくり」をしてきた自動車メーカーにとって、ソフトウェア開発が異質なものであることは想像に難くない。テスラやリビアンなど、最初からEVありきでスタートしたテック企業とは、マインドセットもカルチャーも全く異なるわけで、旧来の自動車メーカーが内製のソフトウェアで戦おうとしてもなかなか難しいだろう。

今回フォルクスワーゲンは、ソフトウェアの自社開発路線を転換し、リビアンというテック企業に技術的な主導権を渡す形でソフトウェア開発を進める決断を下した。フォルクスワーゲン側は最先端のソフトウェア技術にアクセスできるようになり、リビアン側は財務体制の強化や自動車の量産ノウハウの取得が可能になるという、双方にとってメリットのある提携だ。


この提携がどれだけの効力を発揮するかは未知数だが、モノづくりに強みを持つ老舗自動車メーカーと、ソフトウェア開発に強い新興テック企業の組み合わせは、SDV時代においてとても相性が良いのではないかと思う。

旧来の自動車メーカーならではのハードウェアや乗り心地へのこだわりと、最先端のソフトウェア技術によるユーザーインターフェースや自動運転、省エネといった機能性が両立する次世代SDVの登場を楽しみにしたい。

文:平島聡子
編集:岡徳之(Livit
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