この記事をまとめると
■欧米・中国のEVシフトがスピードダウンしているという声がある■テスラの販売台数は前の期よりも減ったが、EVシフトの鈍化を裏付けるデータはない
■欧州・中国に関して欧州連合と中国政府次第である今後の動向はつかみにくい
国や地域の思惑が綿密に絡む世界のEVシフト
「EVシフト」という言葉が聞かれるようになって久しい。とくに、欧米では日本に比べてEVシフトのスピードが早く、「日本は世界のEVシフトの流れに立ち遅れているのではないか?」といったニュースを見かけることもよくある。
そうしたなか、2023年11月以降になって、欧米でのEVシフトがスピードダウンしているというニュースが目立つようになってきた。
たとえばアメリカの場合、EV市場の約6割を占めるテスラが、20223年7~9月期における販売台数が前の期に比べて減少しているという数字が報じられている。また、フォードがEV製造に関する投資を抑制するといった報道もある。
アメリカの場合、2010年代半ばにテスラが「モデルS」の生産体制を軌道に載せたあと、現状でのエントリーである「モデル3」の爆発的な受注を受けて、その波動がグローバルへと広がった。そこに「モデルY」が加わり、テスラのユーザーがいわゆるアーリーアダプターと呼ばれる「コア層」から、「一般層」に拡大していった。

そうしたトレンドが「ひと息ついたのではないか?」という見方をする報道もあるが、それを裏付ける明確なデータは見当たらない。
アメリカは2021年8月、2030年までに新車の50%以上をEVまたはFCEV(燃料電池車)とする大統領令を発令しており、これがアメリカのEVシフトを後押ししていることは確かだ。ただし、過去事例を見る限り、アメリカは政権交代によって連邦政府の自動車関連施策が大きく転換しても不思議ではない。
また、事実上の対中政策とも言われるIRA(インフレ抑制法)がアメリカでのEV製造を後押しているが、IRAの持続性についても、政権交代の影響が及ぶかもしれない。

欧州のEVシフトの先読みは難しいが失速したとはいえない
一方、欧州でのEVシフトはどうか? 欧州連合(実務は欧州委員会)による欧州グリーディール政策の一環で、「2035年に欧州域内の乗用車と小型商用車の新車100%をZEV(EVまたはFCEV)」という施策について、ドイツが「合成燃料も含めるべき」との考えを示すなど、EVシフトの今後の動向がつかみにくい。

ただし、これをもって、欧州EVシフトが失速、と表現するのは妥当ではないと思う。あくまでも、「欧州EVシフトは先読みできない」状況だ。
また、中国ではEVの価格競争が加熱しており、日本メーカーは中国での事業戦略の修正を余儀なくされている。

いずれにしても、国や地域によらずEV普及は、規制、補助金、そしてユーザーが本当に買いたいと思う”真の需要”とのバランスが重要である。