この記事をまとめると
■フォルクスワーゲンのタイプ2並みに人気なのがシトロエンのタイプHだ■1948年から1981年まで生産れていたバンで、幅広い層に愛されていた
■オリジナルモデルの数は減ったが、同車をオマージュしたカスタムが流行している
1度見たら忘れられないシトロエンの商用車
フォルクスワーゲン・タイプ2、通称ワーゲンバスの人気はいまだ衰えることなく、最近になってもID.BUZZなんてEVがオマージュされているほど。ですが、タイプ2に勝るとも劣らない人気を誇っているのが、ほかならぬシトロエン・タイプH。車名だけではピンとこなくても、ヨーロッパの銀行強盗映画やルパン三世、鳥山明氏のマンガなどに出てきた四角くて、波板張りのバンといえば目に浮かぶかと。
ワーゲンバスとほぼ同じ年代に活躍したモデルですが、VWとは一味違った合理性やスタイルなど、いかにもフランス的なモデル。最近ではBUZZ同様にリバイバルモデルも登場するなど、世の中的に注目されているようです。
タイプHのデビューは1948年とされていますから、じつはVWタイプ2よりもタイプ1、すなわち初代ビートルと世代を同じくしているといったほうがいいでしょう。VWがポルシェ博士の考えたRRレイアウトだったのに対し、タイプHはシトロエンが誇るトラクシオン・アヴァン、すなわちエンジン/トランスミッション/ファイナルギヤまで一体化させたFF構造を取り入れていました。いうまでもなく、現代のFFでも採用されている優れた設計思想にほかなりません。

一体化された駆動コンポが生み出すメリットは計り知れないもので、タイプHはその恩恵をフルに活かしています。たとえばキャビンから荷室の床を低くフラットにすることで、いまでいうウォークスルーを可能としています。この点、VWバスはリヤにエンジンルームの出っ張りがあるわけで、FFとRRの差がわかりやすく現れているかと。
また、シトロエンはタイプHのボディパネルを直線&平坦でまとめ上げ、タイヤフェンダーくらいしか曲線を使っていません。とりもなおさず、ボディ用の金型や生産工程を大幅に節約できるわけで、いかにもケチなフランス人らしい作り方。

むろん、架装するボディバリエーションにも有利で、普通のワンボックス(フルゴネット)から荷室に屋根のないトラック、あるいはホイールベースの延長など、自由度が高くなるなどいいことづくめ。
独特なキャラクターはいまでも大人気!
このボディパネルに波板を使用して補強を加えていることもタイプHの特徴。

デビュー当時は1.9リッターの直列4気筒エンジンを搭載していましたが、なにしろ1981年まで生産されていましたから、1.6リッター直4やディーゼルも3タイプあったなど、用途に合わせて選べたようです。それでも、ミッションはずっと前進3速、後退1速のままで、床からレバーが屹立しているのもタイプHの特徴といえるでしょう。

少しだけ乗った感想としては「思いのほかシフトしやすい」ものでしたが、1200とか1500kgという車重に対して50馬力くらいでは「かなーり遅い」印象で、とても銀行強盗が逃走用のアシにするとは思えませんでした(笑)。
結局、47万台あまりが製造されたタイプHですが、さすがにフランス本国でもめっきり減ってきたそうです。使い勝手は良くても、やっぱり商用車にとってパワー不足はいかんともし難いポイントなのかもしれません。

とはいえ、上述のとおり、タイプHの人気にあやかってシトロエン・ベルランゴ(やフィアット・デュカト)、さらにはなんと軽バンや軽トラックをベースにしたオマージュモデルが登場しています。波板テイストのボディに、丸形ヘッドライトを加えたくらいのお手軽カスタムですが、キャンピングカー仕様になっていたり、キッチンカーになっていたりと現代的なテイストには事欠かないようです。

iD.BUZZといい、タイプH現代版といい、レトロユーティリティといったジャンルはこれからも楽しげなモデルが出てきそうで、目が離せませんね!