この記事をまとめると
■いまやアメリカのカーカルチャーのひとつにもなっている「ローライダー」■ローライダーはメキシコ系移民がアイデンティティを主張するためのカスタム文化として成長してきた
■キャンディペイントやハイドロの車高調が主にカスタムの基本になっている
白人がホットロッドならメキシカンのオレたちはローライダーだ
ギラッギラにペイントされた古いアメ車がシャコタンで走っていたかと思うと、いきなり跳んだり跳ねたり、いつ見てもローライダーのインパクトは素晴らしいもの。日本でもイベントが開催されたり、専門誌があったりと存在感はアリアリなんですが、やっぱり発祥はアメリカ西海岸。とはいえ、いまでは日本流のローライダーカスタムも市民権を得るなど、カルチャーの国境は薄れてきているのかと。
そんなローライダーについて、いまさら聞けないあれやこれやをご紹介しましょう。
発祥こそカリフォルニアとされていますが、ローライダーという名前が定着したのは1940年代とも1950年代ともいわれており、はっきりしていないというのが定説。で、当時のアメリカではマッスルカーというよりホットロッドと呼ばれるカスタムが流行していたのですが(極太タイヤ&シャコタンがベーシックスタイル)これは裕福な白人にウケていたトレンド。
これを横目に「だったら、オイラはこれじゃ!」と、メキシコをはじめとした南米からの移民が始めたのがローライダーカスタム。

ご想像のとおり、メキシコからの移民、いわゆるチカーノと呼ばれる人々のほとんどは裕福とは程遠い暮らしをしていたため、ホットロッドのような新型車には手が出せませんでした。そこで、古いキャデラックやインパラ、フリートウッド、あるいはカプリスといったモデルを格安で購入し、チカーノ独自のカスタムを加えることにしたのです。
たとえば、LAなんかでよく見られるミューラルと呼ばれる鮮やかで手の込んだ壁画や、自身が信仰する宗教にちなんだもの、あるいは先祖のアステカ文明のシンボルなどチカーノのアイデンティティがモチーフとなっています。
それらをキャンディペイント(塗料中にアルミ粉などを混ぜ、何層にも重ねて独特の色つやを持たせたもの)やエアブラシを駆使して、目にも鮮やかひとめでローライダーとわかるグラフィックに仕上げるわけですね。

そして、ローライダーはホットロッドに対抗するかのように徹底的なシャコタンにこだわっているのも特徴です。スプリングカットや小径ホイールは無論のこと、ピラーをぶった切ってチョップトップにするなど、その潔さに度肝を抜かれた人も少ないはず。
昔からあるローライダーの価値が爆上がり中
こうしたカスタムは、当初「ロー&スロー」スタイルと呼ばれ、クルーザーよろしくLAの街をゆったりと流していたそうです。これまた、ホットロッドのブイブイ飛ばすスタイルとは一線を画していたのかもしれません。

黎明期から存在するローライダーのクラブ「ロー ライダーズ オブ ボイル ハイツ」や「ウィッティア ブールバード クルーザー」などには、当時の資料や面白コメントが数多く残されていますので、詳しく知りたい方はチェックしてみてはどうでしょう。
さて、ロー&スローな走りに変革が起きたのはローダウンサスペンションに飽きたりなくなったオーナーが車高調システムにハイドロを使ったのがきっかけだったとされています。はじめはフロントサスの上下で(おそらく段差越えのため等)だったものが、フロント/リヤで独立あるいは4輪独立でポンプを装着。この際に駆動用バッテリーを増設することでフロントを下げ、リヤは前のめりな姿勢、あるいはどこか1輪ぶんだけ車高が高くなるような、およそクルマとは思えないポーズまでとれるようになっていったのです。

さらには、油圧シリンダーを高電圧制御することで伸び縮みスピードも高速化。あわせてポンプを緻密に制御することでローライダーはついに飛び跳ねること、いわゆるホッピングを可能としたのでした。
ローライダーが日本で本格的に流行り始めたのは1980年代といわれていますが、そこから日本らしいカスタムも生まれ、本場に取り入れられているものも少なくないようです。
たとえば、インテリアのきめ細かなブラッシュアップや、ペイント技術についても日本発祥の凝ったものがいくつもあるようです。また、日本人ながら渡米して、現地でローライダーファクトリーを創設し、大人気を博している方もいるといいますから、驚きつつも嬉しくなるエピソードではあります。

もっとも、最近では素材となるクルマが軒並み高騰しているだけでなく、ご想像のとおりカスタムのコストはかなりのものとなるため、昔ほどたくさんのローライダーが生まれていない現状もあるとか。そのぶん、昔からあるローライダーマシンが大事にされ、オリジンの価値がどんどん上昇しているとのこと。
最高速カスタムや痛車といったカルチャーと同じく、ローライダーも末永くクルマ好きを楽しませてほしいものです。