この記事をまとめると
■クルマのエンジン性能のひとつに馬力がある



■電動化に頼らずに1000馬力を発生している量産車も存在する



■理屈の上では1リッターで1000馬力というエンジンも可能



1000馬力超えのエンジンの条件とは

アメリカを代表するスポーツカー「コルベット」は、長らくFRレイアウトであることがアイデンティティとなっていたが、現行モデルからはミッドシップを採用するなど、よりピュアなスポーツカーとして進化している。



それでも大排気量V8エンジンを心臓部に選び続けているのはアメリカンスポーツカーのプライドといえるだろう。



1000馬力オーバーの純エンジン量産車も存在! じつは1リッ...の画像はこちら >>



そんなコルベットの最新にして最上のパフォーマンスをもつ「ZR1」においても、その伝統は健在。

ミッドに積まれるエンジンはV8 DOHC「LT7」ツインターボとなり、最高出力1064hp(873kW)/7000rpm、最大トルク828lb-ft(1123Nm)/6000rpmを誇る。



さらに細かいスペックを見ていけば、圧縮比は9.8:1。ドライサンプ式のオイル系となっているのも見逃せない。ボア×ストロークは104.25mm×80mmと公表され、総排気量は5430ccとなる。



前後に高出力モーターを配したパフォーマンス系EVではシステム最高出力1000馬力というスペックも珍しくないが、エンジンだけで1000馬力越えは驚きだ。



1000馬力オーバーの純エンジン量産車も存在! じつは1リッターで1000馬力のエンジンも作れるってマジ!?
現行シボレー・コルベット ZR1のエンジン



しかも1064hpという最高出力は、いわゆる英馬力であって、日本ではおなじみのpsとは微妙に異なる。国際的な共通単位であるkW値から逆算すると、コルベットZR1の最高出力は1187馬力となる。リッターあたり出力を計算すると218.5馬力だ。



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現行シボレー・コルベット ZR1のフロントビュー



ターボエンジンとNAエンジンを比べるのはアンフェアかもしれないが、国内の二輪における最高スペックを誇るホンダのスーパースポーツ「CBR1000RR-R」が積む999cc 4気筒エンジンの最高出力は218馬力(160kW)である。



1000馬力オーバーの純エンジン量産車も存在! じつは1リッターで1000馬力のエンジンも作れるってマジ!?
ホンダ CBR1000RR-R



鈴鹿8耐で勝つようなスーパースポーツバイク以上のリッターあたり出力を持つ大排気量V8エンジンというのは、まさに驚きであるし、アメリカ自動車業界の底力を感じさせる。



たしかに量産車に搭載されるパワーユニットに求められるエミッション性能(排ガス浄化性能)や耐久性を考えると、大排気量でなければエンジン単体で1000馬力以上を絞り出すことは難しいかもしれない。



じつは小排気量でもハイパワー化は可能

しかし、そうした制約を無視すれば、排気量が小さくても1000馬力は可能だ。



古くからのF1ファン、ホンダファンであればお馴染みであろう。1980年代にホンダがF1チームに供給していたV6ツインターボ「RA168E」型エンジンは、1.5リッターという排気量ながら1050馬力以上を発生していたと公表されている。



1000馬力オーバーの純エンジン量産車も存在! じつは1リッターで1000馬力のエンジンも作れるってマジ!?
ホンダのRA168E型エンジン



コルベットZR1しかり、1980年代のF1エンジン(1.5リッターターボ)もしかり、ターボエンジンについていえば、過給圧を上げることでエンジンに送り込める空気量が増やせる。ホンダのF1エンジンでは、予選アタックにてターボチャージャーの過給圧を極限まで上げることで1500馬力を発生していたという伝説も残っている。



「リッターあたり1000馬力」は実現されていたのだ。ある意味、1000馬力を発生させるために必要なエンジン排気量は1リッターもあれば十分という見方もできる。



1000馬力オーバーの純エンジン量産車も存在! じつは1リッターで1000馬力のエンジンも作れるってマジ!?
1980年代のホンダF1の走行シーン



それでは、ターボエンジンであれば大排気量でなくとも最高出力1000馬力が達成できるのかといえば、そうではない。内燃機関は空気に燃料を混ぜ、それを燃焼させることで出力を得ている。1000馬力に十分な燃料を供給できる能力が最低でも必要となる。



たとえば、内燃機関の燃料消費量を計算するスペックとしての燃料消費率というものがある。その単位はg/PS・hというもので、1PS(馬力)を一時間発生させるために必要な燃料を重量で示している。そして、ガソリンエンジンが最高出力を発生している状態では、300g/PS・hというのが教科書的な基準となる。



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ホンダのF1エンジンのイメージ



ガソリンの比重は約0.75なので300gは400cc相当だ。1時間に400ccのガソリンを供給できると1馬力を発生していることになる。つまり1000馬力のエンジンでは1時間あたり40万cc(400リッター)の燃料を消費するといえる。



ご存じのように、燃料を送り込むためのパーツは「インジェクター」と呼ばれている。そして、一般的にインジェクターの最大吐出性能はcc/min(1分間あたりの噴射量)で示される。上記の粗計算をもとに時間単位を時間から分へ換算すると、1分間で6.6ccのガソリンを吐出できれば1馬力となり、1000馬力を発生させるにはトータル6600cc/minの能力が必要といえるわけだ。



1000馬力オーバーの純エンジン量産車も存在! じつは1リッターで1000馬力のエンジンも作れるってマジ!?
インジェクターのイメージ



通常、インジェクターは気筒ごとに備わっている。たとえば8気筒エンジンで1000馬力を達成したいのであれば825cc/minのインジェクターが必要という風に計算できる。同様に6気筒エンジンでは1100cc/min、4気筒であれば1650cc/minのインジェクターが最低でも必要といえる。



もちろん、そのほかに検討すべき要素はいくつもあるが、とにかく燃料供給が必要十分以上でなければ、目標の馬力を発生することはできない……というのが内燃機関の基本的な考え方といえるだろう。

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