この記事をまとめると
■スーパーフォーミュラ2024年シリーズに「AI」を搭載したSF23「EAV24」が現れた■「EAV24」のコクピットにはドライバーの代わりにセンサーが収まる
■スーパーフォーミュラの予選後に「EAV24」による「AI対AI」のデモバトルが行われた
鈴鹿に現れた無人AIマシンとは?
国内最速のフォーミュラマシン、SF23を使用する「全日本スーパーフォーミュラ選手権」は、2024年のテーマに「HUMAN motorsports」を掲げ、F1に次ぐ速さをもつと評されるSF23を操るドライバーにフォーカスしたプロモートを行ってきた。
その2024年シリーズ最終ラウンドが行われる鈴鹿サーキットに、「HUMAN」とは真逆の「AI」を搭載したSF23が現れた。
外見こそスーパーフォーミュラ参戦マシンそのものだし、ヨコハマタイヤ・アドバンのサスティナブル材料を使用したレーシングタイヤもそのままだ。

そう、このマシンは2024年4月にアブダビのヤス・マリーナ・サーキットで第1回大会が行われた、自律走行型マシンで争われるレース「Abu Dhabi Autonomous Racing League(以下、A2RL)」のマシン「EAV24」そのものなのだ。
A2RLの「EAV24」は無人でどうやって自律走行するのか
コクピットの箱の中身は、カメラ、センサー、LiDAR(レーダー照射で対象物との距離を測るもの)類が複数個収められている。また、コクピット以外にも複数のカメラ、センサー、デュアルアンテナのGPSなどが取り付けられ、レーシングスピードでの自律運転に必要なリアルタイムデータを提供する。
これらの装置は、予めA2RLのテストドライバーである、元F1ドライバーのダニール・クビアト選手が走行したデータをもとに、A2RL参戦チームが開発した走行プログラムに基づいて自律走行するために用いられる。

そして、AIによりブレーキ、アクセル、ステアリング操作など、人間のドライバーと同様の操作を行う。一度走り出すと、緊急停止した際を除いて人間は一切介入しないのだ。
A2RLマシンは自律して走行すると同時に、AIによる判断と学習も行われている。そのため、4月に開催された初レースでは、安全マージンをもってコース上に立ち往生してしまうシーンがあった一方、前走車を抜こうと走行ラインを変える仕草を見せたり、前でスピンしたマシンをタイヤをロックさせながら緊急回避するシーンがYoutubeライブで流れた。
それを見ていたレース観戦歴30年弱の筆者は「レーシングドライバーが機械に取って代わられる、すごい時代がやってきてしまったものだ」と同時に、「これからどれだけ進化していくのか?」と不安と興味が入り混じった複雑な感情を抱いたものだ。
そんな新時代のレーシングマシンが、ベースモデル誕生の地、日本に初上陸するとあらば、これは見に行くしかない! と一路鈴鹿サーキットに向かったわけである。
ついに鈴鹿を自律走行マシンが駆け抜けた
11月9日(土)、午前のA2RLマシン走行直前には、本家スーパーフォーミュラの予選走行が行われていた。1周の最速タイムを争う予選だけに、コーナリングは相変わらず切れ味が鋭く刺激的だ。

それを見た直後だっただけに、A2RLには分が悪かった。遅い、遅いのだ。スーパーフォーミュラと同排気量のエンジンを使うものの、仕様が異なりエキゾーストノートは太く重たい。それゆえにどこか牧歌的な雰囲気が漂い、それが余計に遅く感じられる要因にもなっていると感じる。しかし、今回の走行は「AI対AI」のマッチレースと銘打たれているものの、デモンストレーションの意味合いが強く、安全マージンを十分とったものであることは想像に難くない。
それに忘れてはいけない。これは無人で走行することを目的に、この世に生まれたばかりの子どもだ。マシンのパワーが異なることはもちろんだが、運転操作にしたって一流アスリートのスーパーフォーミュラドライバーに対し、生まれて間もない子どもが勝てるわけがないのだ。

それにしてもじつに奇妙な光景だった。レーシングマシンは人が操るものと勝手に頭が認識しているせいか、無人のマシンがコースをある程度の速度で加速し、ブーレキングし、コーナリングしているのがにわかに信じられなかった。
この日はホームストレートエンドで時速220kmに達していたという。ここ鈴鹿では1カ月以上も前からテストを行い、約70時間の走行経験を積ませたそうで、その際には時速250km/hにも達したというのだから、そのポテンシャルは侮れない。

SNS上ではA2RLを「巨大なミニ四駆」だなどと揶揄する書き込みを見つけたが、あちらはガイドレールに沿って走っているホビーだ。一方でA2RLのEAV24は、何もないアスファルトの上を各種装置を制御しながら遠隔操作に頼らず自律して走っている。しかも少しの間隔を開けて2台も。壁に沿って走っていたとしたらそれはクラッシュだ。つまりミニ四駆を想起させるかもしれないが、ずっと高度でまったく別物だ。なんならAIの判断でオーバーテイクを決めることすらある。
しかし、走行風景を見ていると、A2RLは自律走行できるレーシングマシンで何を目指しているのだろうか、そしてなぜ日本のレーシングマシンを使うのか、疑問が沸々と湧いてきてしまった。
そこでデモ走行が終わった後、A2RLに問い合わせしたところ、なんとA2RLを主催するASPIRE(アブダビ先端技術研究評議会のイノベーション促進部門)のCEOステファン・ティンパノ氏が、自らWEB CARTOPの単独インタビューに応じてくれることになった。