この記事をまとめると
■ホンダ NSXは1990年に登場した



■タイプRやタイプSという上位グレードが設定されていた



■タイプS Zeroと呼ばれるたった14台しか販売されなかった激レアモデルを解説



NSXにあったもう1つの「S」モデル

ホンダ初の量産スポーツカーであるNSX。アルミ製モノコックを採用したボディに、C30A型3リッターV型6気筒DOHC VTECエンジンをミッドシップマウントするスーパースポーツが登場したのは1990年のこと。発売当初はモノグレード展開であり、5速MT/ATというトランスミッションの違いだけだったが、2005年の販売終了まで約15年に渡るモデルライフにおいて、いくつかの派生モデルが設定されている。



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NSXに設定された派生モデルのうち、もっとも有名なのはNSX-Rだろう。1992年11月に発売された初代NSX-R(NA1)は、ベースモデルから約120kgの軽量化、RECARO製フルバケットシートやMOMO製ステアリングの装着、サーキット走行を前提としたハード仕様のサスペンションなど、徹底的に運動能力を磨き上げたモデル。のちにインテグラやシビックにも設定された「タイプR」シリーズのルーツといえる1台だ。



初代NSXに存在した「やりすぎ」モデル! たった14台しか売れなかった「タイプS Zero」のストイックさに脱帽
ホンダ NSX-R(NA1)



初代NSX-R(NA1)は約3年間にわたって生産され1995年に販売を終了。標準モデルのNSXは1997年にビッグマイナーチェンジが行われ、MT車のエンジンがC32B型3.2リッターV6へと換装。最高出力はC30A型と変わらず280馬力となっていたが、最大トルクは30.0kg-m/5400rpmから31.0kg-m/5300rpmへとわずかにアップした。



このC32Bを搭載するNSXが(NA2)の型式で呼ばれるモデルだが、NA2型の登場にあわせ、新たなスポーツグレードが設定された。それが「NSXタイプS」と、そのタイプSをベースに究極のスポーツ性能を目指した「NSXタイプS Zero」である。



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ホンダ NSX タイプS(NA2)



まずはNSXタイプSから紹介すると、メインステージをワインディングロードに設定し、スポーツドライビングを楽しむ魅力を際立たせたモデルがタイプSだ。NSX-Rと同様、メーカーでは車名の由来を公表してはいないが、NSX-Rが「Racing」とするならばNSXタイプSは「Sports」といえるだろう。



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ホンダ NSX タイプS(NA2)



とはいえNSXタイプSの内容はNSX-Rにも匹敵するもので、エアコン、オーディオ、シートベルト・プリテンショナーなどの快適装備は搭載したまま、クルーズコントロール/トラクションコントロール/SRSエアバッグ/電動パワーステアリング/フォグライトなどを撤去。さらにBBS製鍛造ホイールやRECARO製フルバケットシートへの換装などにより、ベースモデルの6速MT車から約45kgの軽量化を実現した。



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ホンダ NSX タイプS(NA2)の車内



NSXタイプSのサスペンションは、NSX-Rとも異なる専用チューニングとされ、ワインディングロードを爽快に駆け抜けることをテーマに開発。鷹栖プルービンググラウンドにて一般のワインディングを想定した走行テストを行い、最終仕上げはNSXの第二の故郷ともいえる、ニュルブルクリンク旧コースで行われた。



標準モデルに比べて前後とも10mmのローダウンとされたサスペンションは、リヤの剛性高めながらフロントを相対的に柔らかくすることで限界域まで操舵力が途切れず、確かなステアリングインフォメーションを確保。よりニュートラルなステアリング特性を実現した。



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ホンダ NSX タイプS(NA2)



トルクの増したC32Bとのマッチングもよく、NSXに新たなスポーツ性を与えたタイプSだったが、一方でNSXをサーキットで走らせて楽しんでいるというオーナーも徐々に増えてきていた。そのなかには、NSXのオーナーズクラブ有志が鈴鹿1000kmレースへ参加するなど、NSXでサーキット走行を楽しみたいという機運が高まっていた。



タイプRよりもストイックだった

そんなNSXオーナーのニーズに、メーカーとして応えるべく開発されたのがNSXタイプS Zeroである。車名のとおりNSXタイプSをベースに、さらに締め上げられたハード仕様のサスペンションを採用。スプリングレートはタイプSのF:6.5kg/mm、R:5kg/mm に対し、タイプS ZeroではF:8kg/mm、R:6kg/mmとされた。



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ホンダ NSX S-ZERO(NA2)



車体では遮音材などが除去され、エアコンやオーディオなどの装備はワイヤーハーネスを含めて非装着。つまり、オプションでも追加することができない。さらにNSX-Rと同じ軽量タイプのリヤスポイラーや軽量バッテリーの採用、シートの電動調整機構を運転席側のみとしたり、シート背後のリヤパーテーションガラスを1枚にするなどの変更によって、NSXタイプS Zeroの車両重量は1270kgに抑えられた。

標準クーペに比べると、約96kgの軽量化を実現している。



初代NSXに存在した「やりすぎ」モデル! たった14台しか売れなかった「タイプS Zero」のストイックさに脱帽
ホンダ NSX S-ZERO(NA2)



その後、NSXは2001年に2度目のビッグマイナーチェンジが行われ、ヘッドライトがリトラクタブル式から固定式になるなど外観も大きな変更を受けた。結果的に後期モデルとなった固定式ヘッドライト車でもNSXタイプSは継続設定されたが、タイプS Zeroは姿を消した。そしてタイプS Zeroと入れ替わるように、2002年には約7年ぶりにNSX-R(NA2)が登場する。



初代NSXに存在した「やりすぎ」モデル! たった14台しか売れなかった「タイプS Zero」のストイックさに脱帽
ホンダ NSX タイプR(NA2)



NSXをベースに、「ワインディング・ベスト」を掲げてスポーツ性能を引き上げたのがNSXタイプSで、そのNSXタイプSから快適装備などを徹底的に削ぎ落としたのがNSXタイプS Zeroだ。その手法はNSX-Rとも共通する部分はあるが、快適装備の類はオプションでも一切装着することができないなど、ストイックさではNSX-Rを上まわる。



初代NSXに存在した「やりすぎ」モデル! たった14台しか売れなかった「タイプS Zero」のストイックさに脱帽
ホンダ NSX S-ZERO(NA2)



いわば「引き算の美学」を体現したNSXタイプS Zeroは、車両価格もNSXタイプSの1035万7000円に対して50万円安い 985万7000円とされた。しかし、あまりにもストイックすぎたことや生産期間の短さもあって、販売台数はわずか14台に留まっている。希少といわれるNSX-RでさえNA1が約480台、NA2は約140台といわれているだけに、初代NSXのラインアップにおいてもっともレアな存在であることは間違いないモデルだ。

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