この記事をまとめると
■スズキ・フロンクスの受注が好調だ■日本仕様のフロンクスはインド国内にはない1.5リッターハイブリッドを搭載する
■コンパクトなサイズ感と充実した装備類で低価格を実現したことが人気の秘訣だ
スズキ・フロンクスの受注が好調
2024年10月16日(水)、スズキから新型コンパクトクロスオーバーSUVとなる「フロンクス」が発売となった。発表会の席上で、累計受注台数について月販目標台数の9倍となる9000台の受注を受けていることを発表して話題となっている(しばらくして1万台を超えた)。2024年夏ごろからティザーキャンペーンを始めているとはいえ、かなり好調な受注が続いているようである。
フロンクスでの話題といえば、インドで生産された完成車を日本に輸入して販売していることもある。インドでは全長が4m未満だと税制上優遇されることもあり、量販モデルの多くは、ハッチバックやセダンやSUVなどのボディタイプにかかわらず、全長が4m未満のモデルが量販車では目立っている。
有名なのは全長を4m未満のまま、スイフト(ハッチバック車)をベースにトランクをつけたセダン「スイフトデザイア」がある。スイフトデザイアは全長4m未満セダンというカテゴリーのパイオニア的存在とされており、いまでは全長4m未満のセダンとしてホンダ・アメイズやヒョンデ・オーラ、そして地元タタのティゴールなど、同じ全長4m未満のライバルといえるセダンがインド国内でラインアップされている。

フロンクスも全長が4m以内に収まっているので、「量販SUV」とも表現できる。ただし、インド国内でのスズキの販売網は「マルチ・スズキ・アリーナ」と「NEXA(ネクサ)」の2チャンネルとなっている。わかりやすくいえばブランドはスズキで統一されているのだが、日本国内でいえばマルチ・スズキ・アリーナがトヨタブランド系ディーラーであり、ネクサ店がレクサスディーラーと思っていただければわかりやすいだろう。
つまり、フロンクスはインドにおけるスズキ車のなかでは、「プレミアム・コンパクト・クロスオーバーSUV」とカテゴライズされているのである。

JETRO(日本貿易振興機構)資料によると、2023年度における年間新車販売台数では、インド国内にて41.7%という圧倒的に高い販売シェアでスズキの現地子会社となる「マルチ・スズキ」がトップとなっている。そして2位は地元タタを押さえてヒョンデがマルチ・スズキの約3分の1の販売台数で続いている。そして3位がタタとなっている。
ヒョンデも全長4m未満のSUV「VENUE(べニュー)」をラインアップしており、フロンクスがラグジュアリーイメージの強いクーペSUVスタイルなのに対してカジュアルイメージの強いSUVスタイルを採用しているので直接的なライバルとはいえない。

なお、ホンダもインドからの完成車輸入でWR-Vを日本国内にて販売しているが、こちらは全長が4m以上となるので、オーソドックスなSUVスタイルであることもあり、インド国内ではフロンクスの直接的なライバルとはなっていない。

フロンクスは前述したとおり上級店となるネクサ店扱い車となるので、トヨタとレクサスのようにクルマ造りにおいて大きな差のようなものがあるのかと思いきや、基本的にはスイフトなどマルチ・スズキ・アリーナ店扱い車と品質面での大きな差はないとのこと。
2023年にジムニー5ドアとともに、オートエキスポ2023(通称デリーオートエキスポ)でデビューしたフロンクスはすでにインド以外の国へも出荷されているとのことだが、インド国外仕様では1.5リッターNAエンジンを搭載している。そして今回、日本向けに搭載されている1.5リッターハイブリッドエンジンは、インドや東南アジアなどで販売されている、コンパクトながら3列シートを採用するMPV(多目的車)「エルティガ」にも搭載されており、フロンクスでは初搭載となっている。

インド国内では1.2リッターと1リッターターボが用意されているが、1.2リッターはAGS(オートギアシフト)しか自動変速機の設定はなく、「1リッターターボよりはハイブリッドのほうが日本の消費者には響くのでは」ということで、1.5リッターハイブリッドが日本向けには搭載されているようである。
高級感が演出されたコンパクトSUV
全長4m未満にも関わらずキャビンスペースには余裕があり、前述したスイフトデザイアのトランクがオマケ程度の積載スペースしか確保されていないことに比べれば、意外なほど広いラゲッジスペースが確保されていることにも驚かされた。

前席シートに座ってみると、とくにクッション部がふわっとしながらもボリュームもたっぷりして快適に座ることができた。後席もクーペSUV(しかもコンパクト)にありがちな前席ファースト的なものを感じないほどしっかり座ることができ、足もとにも余裕がある。

運転してみると加速時のエキゾーストやエンジン音も心地よく感じた。また、ドア開閉音もこのサイズではありがちな「パン」というような鉄板ライクな音とは異なる、まさに上級車らしい開閉音を聞くことができた。内装色もWR-Vが黒の単色なのに対し、黒とブラウン系のツートーンでコーディネートされており、見た目以上の高級感の演出にも余念がなかった。

フロンクスを見ていたら、かつてスズキがラインアップしていた軽自動車の「フロンテクーぺ」を思い出した。フロンクスほど実用性は高くなかったが、当時の軽自動車としてはスペシャルティムードにあふれた内外装となっており、フロンクスはどこかフロンテクーペのDNAを受け継いでいるように筆者は感じてしまった。

日本だけではなく、諸外国ではコンパクトクロスオーバーSUVといえばカジュアルイメージを強調しがちなのだが、フロンクスはこのサイズでもラグジュアリー路線を強調しているように見えるのはなぜか?
最近では「ダウンサイズ」というのが新車購入の世界でも目立っているが、それでも「高級車=大きい」というのが世界標準的な認識ともいえよう。しかし、インドの人たちは「高級車=大きい」という価値観はそれほど浸透していない。「欧米かぶれした富裕層が欧米や日本の大型高級車に乗りたがるようになった」といわれるほど、所得に余裕ができても、だからといってアップサイズして乗り換えるということはまだまだ一般的ではない。物理的な理由としてデリーなどの大都市では幹線道路は別として、かなり狭い路地が多いので、実用性を重んじてコンパクトカーを好んで乗っているというものもあるようだ。

かつて日本でも販売されていた「バレーノ」もコンセプトとしては、プレミアム・コンパクト・ハッチバックにカテゴライズされているものと筆者は考えている。日本では「高級車=大排気量=大型車」という基本イメージは変わらないが、少子高齢化に歯止めがきかないなか、現役社会人をリタイヤした世代のダウンサイズ乗り換えも一般化している。その受け皿の中心が軽自動車やコンパクトカーとなるのだが、軽自動車で高級といってもカスタム系モデルとなるし、コンパクトカーではカジュアルモデルばかりとなっている。

フロンクスに「トヨタ・ハリアーを感じる」といった話は発表会や試乗会場でもよく聞かれ、そこに触れているネットニュースもあったが、ハリアーは単にラグジュアリーなだけではなく、お値打ち感の高さでも人気が高まっている。
フロンクスは、全幅こそ5ナンバーサイズをオーバーしているとはいえ、全長4m未満のコンパクトサイズでここまでラグジュアリーイメージに溢れ、オプションは存在しないぐらい装備が充実して254.1万円からということに魅力を感じる人が多く、それが1万台という累計受注台数へとつながっているのだろう。