この記事をまとめると
■1月10~12日に開催の「東京オートサロン2025」にて日産はR32EVを展示■R32のアナログ的なよさをデジタルなEVでいかに再現できるかを目指したプロジェクト
■R32EVは今後の日産製スポーツカーのあり方を示唆する存在となっている
話題の「R32EV」の詳細がついに判明
新年最初の大規模自動車イベントとなる東のカスタムカーの祭典「東京オートサロン2025」が、本日1月10日(金)から12日(日)までの3日間、幕張メッセで開催される。
西ホール2~3にブースを構える日産は、最新モデルのカスタムカーを中心に計10車種を展示。そのなかでも事前から注目度がとくに高い、R32型スカイラインGT-RをEVコンバージョンした「R32EV」の詳細が、ついに明らかになった!
この「R32EV」は、R32型スカイラインに憧れて1990年に日産自動車へ入社し、その後リーフなどBEV用パワートレインやシリーズハイブリッド「e-POWER」、電動4WD「e-4ORCE」などを手がけてきた、パワートレイン・EV技術開発本部エキスパートリーダーの平工良三(ひらくりょうぞう)さんが有志の製作チームリーダーとなり、2024年3月より開発がスタート。
SNS上でそのプロセスが随時公開されており、同年10月に富士スピードウェイで開催された「R's Meeting」でも実車が披露されているため、すでにご存じの読者も多いだろう。
そんな「R32EV」、日産の、しかも熱狂的なスカイラインファンの開発エンジニアが自ら手がける以上、ただのBEVコンバージョンに留まるはずがない。平工さんが「昨今は仕事のなかで電動車に乗るが、非常によくできていて運転しやすく快適と感じることがあるんですが、たまに30年くらい前のクルマ、たとえばR32GT-Rのようなクルマを運転すると、やっぱり種類の違う高揚感を味わえるんです。このワクワクするような感覚を、電動車の時代にもちゃんと残したい」と思ったことが、プロジェクト発足の契機だという。

したがって、その開発コンセプトも極めて明確だ。曰く「クルマのデジタルリマスター版」。従来のガソリン車が持つアナログ的なよさを、デジタルの電動車で再現することに挑戦している。
R32(GT-R)は、1989年のデビューよりすでに36年が経過しており、良好なコンディションで走れる車両は減少の一途をたどっている。今後、R32GT-Rの走りを一般ユーザーが体感できる機会はますます失われていくため、未来にガソリン車の楽しさを残せるようにしたいと考えたのも、平工さんはプロジェクトを発足させた大きな理由のひとつに挙げている。

なお、このプロジェクトには、R32現役当時を知るベテランのみならず、そのころにはまだ生まれてもいない若手の開発エンジニアも加入。そうした若手も昔のクルマならではの面白さを体感できると判明したことから、メンバーに加わっているそうだ。
では、そうして開発が進められている「R32EV」は、どのようなクルマになっているのか。
全長×全幅×全高=4545×1755×1340mmと、ベース車のR32GT-Rと同じ寸法が維持されているが、160kW&340Nmのリーフ用モーターを前後アクスルに、BEVレーシングカー・リーフNISMO RC02用の駆動用バッテリーを従来の後席空間に搭載。このBEV化に伴い、車重は1797kgへと約370kg増大し、シート数も2+2シーターから2シーターへと減っている。

だが、前後モーターによる4WDシステムには、オリジナルのR32-GT-Rと同等のパワー&トルクウェイトレシオを実現する駆動力制御を採用。さらにはその加減速特性(ターボラグやパドルシフトによる5速MTと同様のトルク断続、アクセルオフ時のエンジンブレーキも!)や前後トルク配分も、R32GT-Rが搭載するRB26DETT型エンジンや電子制御4WD「アテーサE-TS」と同等の味付けを再現することを目指しているというから驚きだ。
なお、前述の車重増加に伴い、ブレーキを強化する必要に迫られたため、オリジナルのデザインを可能な限り忠実に再現しつつ、サイズを18インチに拡大したアルミホイールをワンオフで製作。R35GT-R用ブレンボ製ブレーキシステムの装着を可能にした。

また、サスペンションもオーリンズ製のNISMOスポーツサスペンションに換装。フューエルリッドを開くと、そこにあるのはもちろん給油口ではなく、バッテリーへの充電ポートとなっている。
オリジナルを忠実に再現したR32EVのインテリア
インテリアは「できる限り何も変えたくなかった。オリジナルをそのまま残したかった」(平工さん)というが、身体が触れるシートやステアリング、シフトノブは劣化が進行。また、数多くの部品で構成されるアナログメーターを含め、すでにオリジナル品が調達できなくなったものもあることから、これらは可能な限りオリジナルを再現しながら新作されている。

このうちシフトレバーは、BEV化に伴い操作ロジック自体は一般的なAT車のPRNDパターンに変更されているが、シフトノブはR32GT-Rの5速MT用の形状・材質を忠実に再現。

また、運転席のメーターに加え、インパネ中央の3連メーターは、オーディオ・空調パネルを含めて、「電気自動車でいろんなパターンの作り込みができるよう」(平工さん)フル液晶化。なお表示内容も微妙に変化しているが、写真で見る限りはオリジナルのアナログメーター・スイッチ類と見まごうほどの再現度だ。

そして運転席と助手席は、レカロ製のフルバケットシートに換装。ただし、表皮は「当時のものを彷彿とさせるような生地を探していただき、新調」(平工さん)している。

さらに驚かされるのは、内外装や走行特性のみならず、音や振動もオリジナルの再現を徹底的に追求していることだ。
大型のウーファーを運転席と助手席の背後に搭載し、そこから再生するRB26DETTのエンジンサウンドによりシートを振動させることで、オリジナルの振動やエンジン音を再生。「風切り音やタイヤノイズが混ざる実際の走行中に体感すると、とくに中高音域の伸びがよりリアルに聞こえる」(平工さん)ようチューニングしている。

なお、このシステムは「クルマのマニアではなく、R32のことをまったく知らない音のマニアが、相当こだわって一生懸命作り込んでくれた」(平工さん)逸品だそうだ。
この「R32EV」、プロジェクト発足当初は、とくに社内で賛否両論があったものの、前述の「R's Meeting」ではむしろファンからの好意的な反応が多く、個々の技術や部品の市販化を望む声も多く寄せられているという。
一方、BEVでガソリン車の走りを再現する取り組みは他社でもすでに研究開発、あるいは市販化の段階まで進んでいる。

また、GT-Rに求められる速さについても、「速さと運転する楽しさは、必ずしも同じではありません。R32EVに乗ると速いかというとそうではなく、電動車でもっと速いクルマはあるわけです。でも運転すると楽しい。そこをちゃんと抽出しないと、昔のよさをないがしろにすることになります。ニュルで7分を切るといった速さは結局、普通のお客さんは数字的には驚いても、体感することはできません。クルマを買っていただける普通のお客さんが体感できる価値を、我々は作らなければなりませんので、それはやはり、運転する楽しさということになります」と、近年のR35GT-Rの進化にも見られる、運転する楽しさをより重視する姿勢を明確に示していた。
そして、そのR35GT-Rは2025年8月生産終了の時を迎えるものの、次世代モデルの開発が検討されていることも、いまや公然の秘密となっている。この「R32EV」で得られた知見が、今後の日産車にどう採り入れられるかを問うと、「次のGT-Rの話は、してはいけないことになっているので、そこは言及できませんが(笑)、こういう技術は当然大事にしていきます。

さらに、「今回の活動を始めるときも、S13シルビアやS130系フェアレディZを使ったほうが世間的にも受け入れられやすいのではないかという声がじつはあったんですが、エンジニアとしてやりたいという本心もあり、また本気度合いも伝わりやすいということもあって、R32GT-Rを選びました」と、プロジェクト発足時の裏話も披露してくれた。
今後の日産製スポーツカーのあり方を示唆する存在になるであろう「R32EV」の実車を、ぜひオートサロンの会場で目にしてほしい。