この記事をまとめると
■「日産京都自動車大学校」と「日産愛知自動車大学校」が「東京オートサロン2025」に出展■同校の生徒たちによる卒業制作としてカスタムカーを展示
■いずれのクルマも大胆なカスタムを施しながらも車検もとおせる内容で構成されている
「東京オートサロン」でも存在感抜群な学生たちのカスタムカー
毎年の年始早々に開催される「東京オートサロン」では、自動車メーカーの勢いが感じられる大きなブースや、カスタムメーカーの華やかなブースなどが見どころですが、昨今は大胆な発想で予想外のカスタムを行う自動車学校の展示を目当てに訪れる人も増えている様子が見られます。
ここではそんな自動車学校のうちのひとつ、自動車メーカーの「日産」が新たな人材の育成をおこなっている「日産自動車大学校」のグループに属する「日産京都自動車大学校」と「日産愛知自動車大学校」の2校の生徒が製作した車両に注目して紹介していきたいと思います。
家族3人でスタイリッシュを味わえるワゴン「Z Lealia」
この「Z Lealia」と名付けられた「RZ34型フェアレディZ」の顔をしたカスタム車両は、「M35型ステージア」がベースとなっています。製作にあたったのは「日産京都自動車大学校」の4年生チームです。

製作のテーマは、「10~20代の3人家族をターゲットに、憧れのフェアレディZの雰囲気を味わえるカッコよさと、日常やレジャーでの使い勝手のよいワゴンを融合させて、衰退気味のステーションワゴンというジャンルを盛り上げたい」というものです。

まず日産を代表するワゴンである「ステージア」がベース車として選ばれました。そしてそこに、日産のスポーツ&スタイリッシュの象徴である「フェアレディZ」のスタイリングを融合させるため、大胆にも最新型の「RZ34型フェアレディZ」のフロントセクションの外装一式を装着してしまおう、という方法を実行。
言葉にすると簡単に聞こえますが、実際にそれを行い、違和感なく仕上げるのは多くの難関が控えています。
ベース車の機能を損なわずにまったく違う外装を装着するには、膨大なつじつま合わせが必要です。実車でステージアとZの大まかなサイズを確認したうえで、バンパーとライト、ボンネットはZのままでイケると判断できましたが、問題はその外装をどう装着するかという部分です。

位置関係をじっくり検討して決定したあと、開閉させないとならないボンネットを基準に設定。Zのボンネットの外側を型取りしてFRPで複製すると同時に、ステージアのボンネットの裏骨も同様に複製しました。これが固定と開閉のキモになります。
ヘッドライトとバンパーは固定したボンネットを基準に位置を確定して、ステーなどを製作して固定します。形状のつじつま合わせのポイントは左右のフェンダーです。ステージアのドアの面とZのバンパーの面の異なるフォルムがぶつかる部分ということと、ホイールベースの違いを吸収しないとならないので、違和感のないように同調させるのには細心の注意を払ったそうです。
キャビン部分はステージアのままですが、ワイド感が特徴のフロント部のボリューム感に合わせてリヤフェンダーもワイド感を出すように造形し直す作業にもかなり時間がかかったそうです。

リヤビューのポイントは、「リーフ」のゲートまわりを流用した点です。ゲートを受けるボディ側の部分はステージアの後部形状に近い初期の「ZE0型」を使用して、ゲートはZのテールランプを納めやすい2代目の「ZE1型」を使用しています。
同じリーフとはいっても開口部の形状がまったく異なるため、このつじつま合わせもひと筋縄ではいかなかったようです。

細かいところでは、シートに外装と共通の要素を入れたいということで、シート表皮メーカーの「サンショウ」にカバーの提供を依頼したとのこと。

と、ザッと製作の過程を紹介しましたが、この「Z Lealia」の製作には修士課程を修めた4年生15人のメンバーで6カ月掛けておこなわれました。
現代のスカイラインに「ケンメリ」のエッセンスを注入
新世代のクルマ好きが想う新しいスカイラインの姿「NEO Skyline」
旧車を知る世代の人なら、パッと見て「ケンメリだ!」と連想するであろうこの車両は、そのケンメリから7世代もあとになる「R35型スカイライン・クーペ」をベースに作られています。製作したのは「Z Lealia」と同じ「日産京都自動車大学校」の4年生です。
「ケンメリ・スカイライン」とは、1972年に発売された「C110型 スカイライン」の愛称で、スカイラインとしては4代目にあたります。この「NEO Skyline」は、その旧い「ケンメリ」をオマージュしながら、「すべてのスカイラインに敬意を表して、あたらしい魂を込めたい」というテーマで製作されました。

製作のきっかけは、メンバーのひとりが「新しいスカイラインを提案するならこんな感じにしたい」と差し出したスケッチからだったそうです。それをもとにしてメンバー全員でアイディアを練るうえで、ケンメリのスタイリングをベースにすることに固まっていったのだとか。
ベース車の35スカイラインは、いまとなっては旧い存在ですが、ケンメリとの間には30年の時間が横たわっているため、サイズをはじめ、デザインやシャシーなどまるで違うクルマです。
35スカイラインの外装をすべて取り去ったうえで、木のパネルやウレタンフォームなどを使って大まかな形状をつくり、徐々にケンメリのイメージに近づけていったそうです。そのため、外装パネルはほぼFRPで製作されています。

外装のポイントはいくつかありますが、まずクルマの印象を決定するフロントには効果的にケンメリのアイコンをちりばめて仕上げられている点に注目。ボンネットには2本のバルジ形状をあしらい、グリルには丸目4灯のライトを配置しています。
ケンメリにはメッキのバンパーが装着されますが、それだと全体のテイストがチグハグになってしまうため、バンパーレス仕様で仕上げています。グリルのパネルは他の部門に新しく導入されたという3Dプリンターを使って製作したとのこと。

サイドのハイライトは“サーフライン”と呼ばれる特徴的なプレスラインです。これはケンメリと「ハコスカ」と呼ばれる3代目の「C10型 スカイライン」に採用された意匠で、旧い世代のスカイラインを象徴するアイコンでもあります。それを再現するにあたり、「すべてのスカイラインへの敬意」を盛り込むため、あえて「ハコスカ」の意匠で仕上げてあるのもこだわりだそうです。

また、サイドウインドウのグラフィックも印象には大きく影響しますので、クォーターウインドウの形状をケンメリに寄せる加工をおこなっています。

そして、リヤビューのポイントは、後端に向かって大きく絞られたフォルムでしょう。

また、各部に装着されたエンブレム類もこだわりが見られます。リヤガーニッシュはベースのR35用を使っていますが、右の「350GT」は2段に変更し、内部を青にしています。
リヤフェンダーの文字は、「Skyline」部分がケンメリ用の純正(製廃)で、盾状のいわゆる「GTバッジ」は「RV37型 スカイライン」の「NISMOパッケージ」用のフロントエンブレムの流用で、これもなかの地を赤に変更しています。

ちなみにナンバーに記された車名の「NEO Skyline」の「NEO」のデザインは、「R33型 スカイライン」などに搭載された「NEOストレート6」エンジンのロゴのオマージュで、そのロゴのイメージカラーには、「DR35型スカイラインRS」のエンジンのヘッドカバーに使われた渋い色合いの赤を採用するなど、細かいところにまで「すべてのスカイラインへの敬意」がちりばめられています。
こちらの「NEO Skyline」の製作は、「Z Lealia」より少ない12名の4年生によって行われ、製作期間は6カ月とのことです。

ヤンチャ魂がウズウズしそうなブリフェンマキシマ
当時最高グレードの「マキシマ」のさらに上を創造 「ブルーバード極」
角張ったフォルムやフェンダーが張り出した特徴的なデザインを見て、忘れかけていたヤンチャな魂がウズウズする、という気もちになってしまう人がいるかもしれません。そんな雰囲気をまとったこの車両も、20歳過ぎの若者が製作したと聞いて驚かされます。
この「ブルーバード極」と名付けられた車両を製作したのは、「日産愛知自動車大学校」の3年生の学生だそうです。
ベースとなったのは「PU11型 ブルーバード・マキシマ」です。
いわゆる「温故知新」の考えをベースに、クルマ離れが課題となっているいまの若い世代に、憧れられるクルマを作りたい、ということで、当時ブルーバードの最高グレードだった「マキシマ」のさらに上級のグレードをイメージして仕上げたそうです。

最高グレードのさらに上をカタチにするために、モチーフとしたのはメーカーがカスタムしてつくる「AMG」などのスペシャルバージョンです。
当時、そのカッコよさに憧れて、国産の高級セダンをカスタムして近づけようとしていた流れを参考に、当時を現役で知る人たちが見ても「悪くないな」と感じてもらえるようなシブい雰囲気を目指し、そこに自分たち若者世代の感覚をバランスさせてデザインの方向性を定めたとのこと。
スタイリングの構成でいまの感覚をバランスさせる際に細心の注意を払ったのは「やり過ぎていない印象」という点で、やり過ぎたりバランスを間違ったりすると、当時のヤンチャなクルマのイメージに寄ってしまうので、ちょうどいいラインのギリギリを攻めるのに苦心したそうです。
まず、外観のポイントになるのはブリスター形状のフェンダーでしょう。「スカイラインRS」や「シルビアRS」で大人気を博した「シルエットフォーミュラ」のマシンを思わせる、ボディとフェンダーに大胆に段差をつくる造形でスパルタンな印象を作り上げています。

ここで苦労したのはフェンダーとドアとの整合性の部分。大きく段差を作った上でちゃんとドアの開閉を実現させるには、厚みを増やしたドアとボディの合わせ面のつじつま合わせをはじめ、開閉の動きで逃がさないとならない部分や、トアヒンジの作動確保など多岐にわたります。こちらを解決するとあちらに問題が発生して……と、予想外に生まれる問題を解決するのにいちばん時間を食われたとのこと。

ちなみにブリスター化でかなり幅を広げているという印象を受けますが、実際の拡幅量は片側1cmに留まっているそうです。これは、もとのフェンダーが意外とボディから突き出ているためもあるとのこと。
フロントで注目なのはバンパーの下まわりです。基本の部分は純正のままでモール類を外してスムージングしたくらいですが、迫力を出すために下部を張り出させる造形に仕上げるにあたって、その追加部分を分割パーツとすることで、万が一破損してしまった場合にも、部品単位の修理交換で済ませられるように配慮しているそうです。

リヤまわりも基本的にはバンパー下部のアンダースポイラー部分の加工がハイライトとなりますが、じつは製作側のこだわりはトランクスポイラーなんだそうです。完成状態を見るとさり気ない存在感に映りますが、このさり気ない印象に落ち着かせるために、切った貼ったをくり返し、ようやく納得のいく雰囲気に仕上げられたとのこと。ちなみに右下から覗く極太のマフラー出口もステンレスのパイプや板から作り上げたものだそうです。

こちらの「ブルーバード極」を製作したのは「日産愛知自動車大学校」の3年生グループです。「京都校」と違ってこちらの「自動車整備・カーボディマスター科」は3年制となっているため、製作に充てられる期間も短く、この車両はなんと50日間で仕上げられたそうです。

さて、このようになかなかのクオリティと創作意欲を見せてくれた「日産自動車大学校」の2校ですが、今回紹介した3台のような卒業制作の車両製作では、その履修課程で獲得した技術や知識をアピールする大胆な加工を行って仕上げながらも、しっかりと車検も通せる内容で構成されているという点も注目です。
「クルマは走ってナンボ」という考えが根底にあるのは、さすがにメーカーの人材を育成する学校だと思わされました。