この記事をまとめると
■アメリカ・ニューヨーク市では「渋滞税」の徴収が2025年1月5日から開始された■ニューヨーク市民は公共交通機関の拡充に使われるという渋滞税の使い方に不満を示している
■犯罪の温床となっている公共交通機関の拡充よりも治安対策を優先すべきという意見が多い
ニューヨークでは渋滞税の徴収が始まった
2025年1月5日、アメリカ・ニューヨーク市で「渋滞税」の徴収がスタートした。ニューヨーク市の中心部となるマンハッタン島において、セントラルパークから南側が対象地域となり、この地域に乗用車を乗り入れるときに1日あたりピーク時間で9ドル(約1400円)、それ以外で2.25ドル(約355円)が徴収される。乗用車だけではなく、トラック(小型・大型)と通勤・通学用以外のバスも徴収対象となっている。
対象地域はマンハッタン島でもとくに渋滞がひどい地域ともいえ、渋滞緩和のほか、大気汚染の改善が期待でき、さらには老朽化している地下鉄の改修、市内路線バスのBEV(バッテリー電気自動車)導入などに、渋滞税による税収が充てられるとのことである。
サラリーマンが給料天引きで納税してしまうこともあり、納税者意識の希薄な日本では、「渋滞が減って、地下鉄の車両や駅がきれいになって、BEVバスが走るのなら」と、東京などであれば、まず間違いなく渋滞税が抵抗なく導入されることになるだろう。
ただ、サラリーマンといえども確定申告で税金を納めるアメリカでは、市民ひとりひとりの納税者意識は高い。そのなか、各メディアがニューヨーク市内で渋滞税についてマイクを向けると、「徴収した税金の使われ方に問題がある」として反対する声も多く聞かれる。
「税金の使われ方に問題」とは、地下鉄の改修やBEVバスの導入は、納税者にとっては有効な税金の使われ方ではないといっていることになる。ニューヨーク市やシカゴ市など一部の大都市ならまだしも、アメリカの多くの都市では、公共の鉄道やバスは「危険な乗り物」、つまり治安が悪いということで多くの市民からは利用が敬遠されている。

「9.11(アメリカ同時多発テロ事件)」以降はそれでも、それなりに治安回復はしていたのだが、ここのところの深刻な不法移民問題もあるようだが、多くの都市では治安の悪化が著しく、ニューヨーク市はさらにその顕著な傾向が出ており、一般的な市民は地下鉄や路線バスの利用を控える傾向が顕著になっているようである。
タクシーも治安という面ではいまひとつ的な部分もあり、「ほかよりマシ」ということでライドシェアサービスを利用するか、ニューヨーク市であっても自家用車で市内移動することが一般化しているといってもいいだろう。つまり、自己防衛のためにニューヨーク市中心部への通勤などで自家用車を利用している市民から新たな税金を徴収し、その税金で普段使わない地下鉄やバスを整備するよりは、まず治安対策を優先すべきではないかと考える市民も多いように見える。
西海岸のロサンゼルスで聞いたのだが、日本における「闇バイト強盗」のようなものをさらに凶悪化した窃盗や強盗事件を起こす犯罪者は路線バスや鉄道で狙い定めた富裕地域に移動して犯行を起こすのが最近の傾向となっているそうだ。

たとえば深夜に低年式のボロボロのクルマに、黒人やヒスパニック系の若者が乗って移動していれば、パトカーでパトロールしている警察官の職務質問にあう確率が高く、犯罪行為を行う前に身柄拘束される可能性が高いので、公共交通機関で移動するようになっているとのことである。
公共交通機関が犯罪の温床となっているアメリカ
日本では新たなバス路線や、鉄道の開業は多くの市民から喜びとともに歓迎されるが、アメリカでは利便性向上に反対する声のほうが目立つことが多いようだ。
日本でも多くのひとが知っている高級住宅地がビバリーヒルズ。そこに住む富豪ならば、超高級車で移動すれば済むのだが、それら富豪の住む「お屋敷」には多くの使用人が通勤してきて働いている。そのような使用人のひとたちは経済的に豊かとはいえず、お屋敷までバスを乗り継いで日々通ってきていることも多いようである。あるとき、ビバリーヒルズまで地下鉄を通そうという話がもち上がったそうだ。そのとき、近隣住民も含め建設に対する反対運動が起こった。「それほど豊かではない地域からのアクセスをよくすれば、それだけ犯罪者も近寄りやすくなる」というのが反対派のロジックだったそうだ。

このような考え方は、ビバリーヒルズほどのハイクラス地域ではなくとも、いまは少ないといわれているが、中産階級以上の治安の落ち着いている居住地域でも「公共交通のアクセス改善は不要」というスタンスが一般的となっているとも聞いている。
日本も最近は手放しで安全だとはいい切れなくなっているが、少なくとも地下鉄のホームの真ん中あたりが白線で囲まれ、「午後9時過ぎたら白線内のセーフティゾーン以外で地下鉄を待つのは危険」とか(ニューヨークのケース)、路線バスに乗ったら「半分から後ろの席は危険だから座ってはいけない」など、過度に危険回避を意識しなくとも、誰でも気軽に利用できるというイメージを公共交通機関に対してアメリカでは抱かれないのが一般的となっているようである。

納税者側からすれば、自己防衛のために自家用車で移動しているのに、そんな市民から新たな税金(渋滞税)を取り、地下鉄や路線バスの利便性を向上させることは、納税者の日常生活における不安を増大させることにもなりナンセンスと思うひとが多くいるのである。

日本を観光で訪れる外国人(とくに欧米系)の多くが日本の公共交通機関の現状(安全で深夜でも平気で利用できる)ことに驚いているという話を聞く。先日ニューヨークの地下鉄車内で居眠りをしていたとみられる女性に乗り合わせていた男性容疑者が火をつけ女性が焼死するという痛ましい事件が起きている。
鉄道やバス車内でよく寝てしまう筆者としては、いつまでも鉄道やバスなどの公共交通機関が多くの市民に利用され、そして愛され続ける安全なものとして維持されることを願うばかりである。