運動性能の良し悪しにつながる重要なポイント

どういうわけだか、われわれクルマ好きにはペッタンコで先端が尖っていて、幅が広くて、タイヤが大きいクルマがカッコ良く見える遺伝子が組み込まれているらしい。



その本能に近い欲求から、人はローダウンやツライチに惹かれるのだろうが、そうしたカッコよさ、つまり見た目意外にシャコタン・ツライチにメリットがあるかというと難しい……。

レーシングカーのようなシャコタン・ツライチ! 見た目以外に市...の画像はこちら >>



シャコタンに関しては、重心が下がることによって、タイヤの接地性が上がり、コーナリング時はインサイドのタイヤのグリップが有効に使えるようになるので、限界は高くなるというメリットがある。

だからレーシングカーは、車高が少しでも低くなるよう工夫されているわけだが、市販車を車高調やスプリングだけでシャコタンにしようとすると、サスストロークが減った分、バネを固くする必要があり、結果的に乗り心地が悪くなる。またロードクリアランスが減るので、フロントスポイラーなどをちょっとしたギャップで擦るリスクが増してしまう。
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もっと厄介なのはツライチ。ツライチにするためにはスペーサーを入れるかホイールサイズを変える必要があるわけだが、いずれにせよツライチにすると、トレッドが変わる。トレッドが広がれば広がるほど、横方向への踏ん張りがきくようになり、クルマに安定感がるように見える。

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クルマのハンドリングは、ほとんどこのトレッドとホイールベースの値で決まるので、メーカーもこの数字はかなり慎重に設計している。基本的にはホイールベース/トレッド比が大きいクルマは、直進安定性や乗り心地がよく、ホイールベース/トレッド比が小さいクルマほど、運動性、敏捷性、操縦性重視になる。例えば、話題のGRスープラなどは、ホイールベース/トレッド比が、1.55とスポーツカーでも最少の部類で、かなり回頭性を重視しているのがわかる。

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それだけに、このトレッドが10mmも変われば、ハンドリングへの影響もかなり大きくなるので本当はいじりたくはない部分。



見た目重視でやりすぎるのは良くない

実際、ほとんどのクルマの前後トレッドは同一ではなく、国産車ではフロントのトレッドがやや広いクルマが大半だ。これはフロントにエンジンを搭載し、フロントヘビーのクルマが多いから。こうしたクルマは前後同一トレッドだとアンダーステアが出やすくなるので、フロントのトレッドをやや広げることで回頭性を高め、左右の荷重移動量を減らして、安定感を高めているわけだ。

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こういうクルマをツライチにするとどうなるか。フロントだけでなく、もともとナローだったリヤのトレッドもフロント同様に目いっぱい広げることで、頑固なアンダーステア傾向になるのは避けられない。また乗り心地も悪くなり、ステアリングの手ごたえも変わってくる……。



これはなかなかシビアなバランスで、前後のトレッドについてそれぞれどこがベストなのかを探すのは容易ではない。だからメーカーが苦労して設定した値を変えたくないので、運動性能のことを考えると、あまりトレッドをいじるのはおすすめできない。

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それでも「スペーサーを入れてみたけど、違いなんて判らなかった」「違うのはわかったけど許容の範囲で、ルックス優先」という人は、保安基準に合致する範囲で、自由にカスタムを楽しめばいいと思う。

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