公道でもエンジンの負荷が減り燃費が向上する!
モータースポーツファンには、おなじみのスリップストリーム。高速で走っているクルマには、空気の壁が大きな抵抗となって立ち塞がる。その空気の抵抗力は、速度の二乗に比例するので、速度が高くなればなるほど、空気抵抗は大きくなり、160㎞/hを超えると、クルマにかかる抵抗力の9割ほどが空気抵抗になってくる。
そのため、レースではトップのクルマがその空気の壁をかき分ける役になり、そのクルマのすぐ後ろには、空気圧の低いスペースができあがる。後続車が前走車に接近し、上手くそのスペースに入ると、空気抵抗は軽減し、さらに前走車が作った空気の渦によって、後続車が引き寄せられる力まで得られるので、オーバーテイクがしやすくなる。これがいわゆるスリップストリーム。最近のF1のレース中継でよく話題になる「トウ」とは、この スリップストリームで得られる空力的アドバンテージのことを指す。
そうしたスリップストリーム、レースではなく公道を走るクルマでも、ある程度の恩恵は受けられる。単独ではなく、前のクルマにくっついて走っている場合、レーシングカーと同じように空気抵抗が減ることで、同じ速度をより低い回転数で走れるようになり、エンジンの負荷が減るので、燃費もかなり向上する。
風よけになるクルマは、車体が大きく、前投影面積が大きければ大きいほど、後続車のスリップストリームの効果が増すので、高速道路でも大型バスや大型トラックを追走したときには、その効果が実感できるはず。
車間を詰めれば効果は大きいが安全な車間でも燃費は改善する!
ちなみに、過去の実験データを見ると、90km/hでトラックの後方を乗用車が走った場合の燃費改善率は、車間距離3mのときが最大値で、燃費は39%も改善! トップレーサー同士が、安全なサーキットで競い合うのならば、車間距離3mどころか、テール・トゥ・ノーズ、車間距離数cmという接近戦もあり得るが、公道で車間距離3mというのは明らかな違反でなにより危険。

もう少し現実的な、車間距離30mで調べてみると、燃費改善率は11%となっている。ただ、安全な車間距離は『秒速×2秒』がひとつの目安なので、90㎞/h(25m/s)で走るなら、最低でも50mの車間距離は必要。車間距離50mだと、燃費改善率は一桁台まで落ち込むだろうが、それでも効果はゼロではない。
また、スリップストリームは、2台よりも3台、3台より4台と数珠つなぎになった方が、「トウ」が大きく、その列の最後尾のクルマが空力的には一番オイシイ思いができるので、高速道路を走るとき、走行車線のトラックの列(大型トラックは90㎞/hでリミッターが作動)のなかに、行儀よく並ばせてもらうと、かなり大きな「トウ」が得られるのは確実だ。

また、速度域が低い一般道でも、スリップストリームの効果はある。自転車のロードレースやアイススケート、マラソンなどのスポーツでも、スリップストリームはタイムや疲労度を大きく左右するファクターなのはよく知られており、クルマが一般道を走るときの速度域でも、スリップストリームの効果は間違いなくあるが、ストップ&ゴーを繰り返す、市街地では体感的にはもちろん、燃費などデータ的にもその効果はわかりづらい……。
将来、自動運転技術が本格的に実用化されれば、車間距離をビッチリと詰めて、空力的に効率のいい隊列走行が可能になってくるだろうが、現時点で公道においては、スリップストリームの効果など意識せず、安全な車間距離をキープすることを最優先にして、ドライブを楽しむことにしよう。